表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/113

王宮に向かう 1

「ノイエちゃん、これ、美味しいから、ほら、取ってあげる。」

「あ、ありがとうございます。あ、あの、まだ、皿にありますので、」

「あ、あぁ、そうね、ごめんなさい。」

「い、いえ、でも、美味しそうですから、頂きますね。」

「そ、そう!あ、これも、美味しいから!」


ドラムの屋敷での食事は皆が揃って頂く、これは人手が不足していることとベス自身の性格とが合わさった結果の形式である。ニックもヒノクもギクリにも不満はない。むしろ、冒険者をしていた頃のような食事のやり方に懐かしさが込み上げてくる。


だが、この形式に拒否反応を示す者もいた。

下女として長年ノイエに仕えたメイは食事を用意すると、一人で食事を済ませるべく姿を隠そうとした。これにベスは家主として、メイへ直接命令を下して食事を共に済ませるようにした。


メイとしては、使用人としての心構え、意識から出た行動であったのだが、ベスはそれを許さなかった。ニックたち一同をすべて客人として招いている以上は使用人であっても客人だとメイを強引に席に着かせて食事をともさせる。


そして、それは、メイが本来仕えているノイエがいる場であっても同じことであった。さすがに、居心地が悪いのか、メイはノイエの視界に入らない位置に腰掛け、ノイエを凝視しながら食事をとり続ける。



そんな、メイの視線にも、そもそもメイがそばにいる事にもノイエは気づいていない。何せ、隣に座るギクリがとにかくノイエに話しかけ、世話を焼きたがっていた。

そのかわいがり方はいささか尋常な様子ではない。親鳥がひなをというよりも、身動きの取れない重傷患者の介護のように付きっ切りである。

何度か、ノイエもその献身的なギクリの手を振り払おうとするが、どうにもできない様子であった。


「…、のう、ギクリ、その、あんまり、世話を焼かんでも、子供じゃあるまいし、」

「そ、そうね。お義姉さん、ほら、にーさんが寂しがっているし、こっちで食べましょ?」

「…」

「あなた、ヒノちゃん、で、でも、ノイエちゃんは、迷惑?私がそばにいて嫌?」

「い、いいえ、そんな、そんなことありません。ギクリさんと一緒にいれて楽しいですよ。」

「しかしのぉ、」

「ねぇ、お義姉さん、ノイエも病み上がりだし、あんまり無理させては、」

「は~い!ギクリちゃん、二人で部屋で何を話したの?」


その様子に、ニックもヒノクも助け船を出してきた。しかし、これまでのギクリであれば絶対に食らいつく餌を用意したのに、反応が芳しくない。

攻め手を変えて、正論で理詰めに働き通うとした矢先に、無言であったベスがにこやかな笑みをたたえてギクリに話しかける。


「うっ、別に何も、とくには、ねぇ、ノイエちゃん!」

「は、はい。ギクリさん。」

「ノ―ちゃ~ん、ねぇ、いつから、ギクリさんと呼ぶようになったの?まさか、呼べって脅されたの?」

「バ、バカな事いわ」

「いいえ!ベス様、ギクリさんはそんな事しません!」


ベスはとても楽しそうに言葉を続ける。ギクリは翻弄されていることが分かっているのに、動揺からか言葉が出ない。

自然と、老獪なベスの煽りにノイエは言葉を返してしまう。


「様付けで呼ばないでほしいと言われたのです。脅されてなんかいません!」

「あら~、よかったわね。ギクリちゃん。ねぇ?じゃあ、お母さんっていつから呼んでもらいたいの?」

「…?お母さん?」

「ベス!」

「お母さん?」

「ぷっ、ご、ごめん、ベス姉、さすがに、それは趣味が悪いわ。」


ベスへの怒りをすっかり霧散させて、ノイエはきょとんした顔でギクリを見る。

ギクリは顔を真っ赤に染め上げ、ニックは話についていけず、ヒノクは小さく笑い声を出した後、何とも神妙そうな顔をして諭すように言葉をひねり出す。


「うふふ、ノ―ちゃん、ギクリちゃんはねぇ、ノーちゃんの家族に、お母さんになりたいらしいの。どう?嫌?それとも嫌じゃない?」

「え、えっーと、家族?お母様?」

「ベス!」

「ギクリちゃん、話をするなら最後まで言わないとだめよ?家族でさん付けなんておかしいでしょ?ほら、ノーちゃん、ママって呼んでごらん?」

「え、え、でも、」


ベスは本当に楽しそうにノイエに催促した。

ノイエもギクリも顔を真っ赤にして混乱している。その姿がほほえましかった。

ベスはさらに、ノイエの後ろを押す言葉を口にした。


「ノーちゃん、ギクリちゃんのことは好き?家族になりたい?だったら、ほら、言葉にしないと!言葉にして伝えないと分からないでしょ?」

「…、ギクリ、ぉ、お母様。」

「」

「ギクリ、お母様。」


ノイエの言葉に再び両目から涙をこぼして、ノイエの胸の中で嗚咽を漏らすギクリの様子をベスは満足して眺める。

展開の速さに、ヒノクをはじめ一同がついて行けず、悪魔はただ言葉だけでここまで場を支配するベスに恐怖すら覚えていた。


やがて、ようやく涙が枯れたのかギクリが顔を上げてノイエを見つめる。


「ノイエちゃん、ありがとう。私は貴女を絶対に幸せにする。ニックからのお願いだからじゃない。今、決めた。私の心からあなたが幸せになれるようにするね。」

「ギクリお母様」


ギクリからの改めての宣言、ニックとの約束、悪魔との契約の一つ、ノイエの幸せを叶える事はギクリにとっても大切な願い事となった。

騒がしかった朝食が終わり、ベスは午後のお茶を用意しようと席を離れると声をかけられた。


「あ、あの、ベス様!」

「なあに、ノーちゃん?」

「先ほどの、言葉にしないと伝わらない言う言葉ですが、」

「あぁ、あれ、そうね、少なくても、私はそう思っているわよ?」

「そうですか、あ、あの、私、一人、どうしても言葉を伝えないといけない人がいます。」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ