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王宮に向かう 3


教会には王国と同じように巫女と呼ばれる魔術で再現できない力の持ち主がいる。その中の一人、遠見の巫女からもたらされた情報が大問題であった。


遠見の巫女の力は、遠隔地の様子を動くことなく知ることができる非常に強力なものであった。しかも、巫女は長年の修行の結果ある程度地域を限定してみることができる。

しかし、あくまでも現状を見る事しかできず、偵察監視だけにしか使うことのできない能力である。


リョーエンからの報告の後、賢人会議は王国での詳細を知るために、ありとあらゆる手を尽くした。貴重な巫女を四六時中王都の監視にあて、中央教会には普段の倍以上の鳩を飛ばし、何人もの人間を王都に向けて急ぎ出発させた。

やがて、その活動が実を結ぶ。遠見の巫女から王都での異変、王国の騎士団が王都でいくつか戦闘を起こしたという事が報告され、そして、中央教会にて聖堂騎士団が王国騎士団に敗れたことが報告される。


そして、しばらくして、王国からの正式な書面が送られて来た。書面は形式通りのものであったが、騎士団全てを保護という名目で人質にしているという内容であった。


教会はこの書面をもって、腹を決める。賢人会議はすぐさま召集され、既に王都は悪魔の手に落ちたものだと判断を下した。

悪魔に対して教会の、人間の力を見せる為に各国への檄文が飛ぶ。僅か30年前に英雄が強大なる悪魔を打ち倒して掴み取った平和が終わろうとしていた。


「リョーエン司教を呼べ!」


賢人会議は教会の持つ最大戦力を王都に向けて出発させることにした。



中央教会での外国の要人、聖堂騎士団の面々の保護と、取り囲む民衆の解散などの諸々の雑事を副隊長に任せて、ドラムは王宮単身急ぎ王宮に向かっていた。


幸いにも、こちら側に死傷者は出なかった。また、聖堂騎士団の面々にも大きな怪我人はなく、教会を取り囲んでいた民衆も教会ですぐさま治療が行われ、大事に至るものはいなかった。

これだけの騒ぎに発展した以上は、何人か厳しく処罰を与える必要があったが、囲まれた騎士団の方から温情をせがまれ、ニックは集団に即時の解散だけを命じた。


ドラムは王宮に向かいながら様々考え事をしていた。


悪魔の噂によって、王都の人心は怯え、震えている。次はいかに彼らの心を癒すべきなのか、教会の方々を救い出したので彼らの伝手を頼り、大聖堂府から何らかの支援なり、知恵を借りよう。

ヒノクの教会を修復して、ニックの墓を荒らした犯人も捜さなくては、ギクリの研究所跡地はどう利用するべきか?


次に何をするべきか考えながら、王宮に戻ったドラムに向けられたのは怒声であった。



「ドラム!貴様、いったい何を考えている!」

「?」

「お、お前は!自分が何をしたのか分かっているのか!」

「これは、ハイビッシャー侯爵様、何をそんなに慌ててらっしゃるのですか?」

「何を?何をだと!貴様、自分が何をしたのか!分からんのか!」

「はぁ?何をでありましょか?」

「貴様、馬鹿にしているのか?王都で、栄光ある王都で」

「何かたくらみを企てるものを一掃しただけです。中央教会にいた騎士団の方もお救いいたしましたし、」

「なに?」

「はい、以前、ハイビッシャー侯爵様より頂きましたくわだてを企む輩を排除したのです。」

「排除?わしが言った?」

「ええ、悪魔の噂を流して王家の威光を汚さんとする者の、」

「…」


ハイビッシャー侯爵は考えていた。

確かに以前、ドラムにそういった話を持ち掛けた記憶はある。しかし、その話はこんな物理的な力で解決させるために持ち掛けたのではない。

そんな噂があることを気づかれないように別の話題を提供してくれと言ったのだ。こんな記憶どころか未来永劫記録に残る大事にされてしまっては困る。


ハイビッシャー侯爵は言い方を少し抑えて、ドラムに話しかける。


「た、確かに、わしはその話をしたが、しかし、結婚式を前にしてこのような無粋な手を使わずとも、」

「いえ、仮に本気で王家の栄光を傷つけんとするならば、一番の標的はその結婚式となりましょう。」

「なに?そ、そうなのか?」

「はい。各国の耳目が一番に集まる場を狙うはずであります。いかに万全を期しても僅かでも瑕疵をつけられれば成功するのですから。」

「なるほど、その通りだ。」

「ですからこそ、こちらから先に動く必要があるのです。こちらから相手に攻撃を仕掛けることで手を出せないようにするのです。」

「そうなのか、いや、そこまで考えていたのか。」


ドラムからの返答にハイビッシャー侯爵は完全に言いくるめられた。

あくまでも、貴族、しかも侯爵の家柄にあるハイビッシャー侯爵は自ら宮中政治で動くプレイヤーではない。

ドラムのように貴族社会の荒波に揉まれてもいない彼は信念を持って話すドラムの言葉の圧力に知らず知らずに敗れていた。


「ドラム様、お話は聞かさえていただきました!しかし、王都の窮状は!」

「民の不満は頂点に達しております!」

「王都に物が入らず、皆困窮しているのです!」


流石にハイビッシャー侯爵とは違い王家に仕える官吏達はドラムの言葉だけでは納得できず、今、王都の抱える問題を提起してくる。


「それに関しては、何人かの不当に財をため込む商人を処罰して対応させたが、」

「全く効果がありません。」

「そもそも、物が不足しているのです。」

「今すぐ、王都周辺で展開する臨時の関を止めていただき、」

「いや、しかし、今、王都の中に人が増えれば」


官吏とドラムが熱く口論を交わす中で、ハイビッシャー侯爵は一点確認したかったことを聞いてきた。


「ドラム殿?騎士団の方々は、教会の騎士団の方々は無事なのだろうか?」

「はい。皆さま。少し怪我されておりますが、全員無事であります。」

「怪我はまずいな、すぐに、一文を送るように手配させなければ、誰かおらぬか!」

「はい!」


 ~申し訳ありません。こちらのミスでオタクの部下を傷つけました。怪我が治るまできちんとお世話しますので安心してください。


ハイビッシャー侯爵の名前で送られた書面には、持って回った言い回しを外せばこういった内容が書かれていた。


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