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幕間 家族の形 

王都の中心部、貴族の家屋敷が並ぶ区画の端に建つ屋敷は、旧い作りながら、住む人が大切に丁寧に扱っているのか、どこか凛とした雰囲気を放っていた。

その屋敷から、今日は歌声が聞こえた。ただの歌声ではない。とんでもなく美しい歌声が聞こえるのであった。


「~、~、~~、~」


王都の何処もかしこも、忙しく、慌ただしい空気にある中でその歌声だけは、優しく、穏やかなものであった。


「~、~~!」


全く知らない言葉であるが、美しい声で心落ち着く歌が部屋中に響き渡る。子供を寝かしつける子守歌のようなゆっくりとしたテンポで何度も同じ言葉が唱えられ、穏やかで心安らぐ気持ちになる。


「ギクリ姉はやっぱり歌が上手いわね~、ほらにーさん、褒めて、褒めて!」

「先生の歌を聴くのは久しぶりです!」

「・・すごい、きれい」

 「・・、あの、うっぷ、ぉうぇ、それ、やめて、でちゃう、全部出る、から、」


「ブラボー!!あっ、ごめんなさい。声をあげてしまいましたわ、ノイエちゃん起こしちゃったかしら?」


「いや、よく寝ておる。すまんのぉ、大勢で押しかけて、」


「いいんですよ、旦那が戻って来なくて暇でしたもの。」


「・・・」

「ギクリ姉!抑えて!にーさんこっちに来て!早く!」

「先生の歌、もっと聞きたいです!」

「うん、うん」

 「はぁ、はぁ、はぁ、はー、助けて、死んじゃう、」

「ギクリ、すまん。儂がおらんと危ないんじゃ、ノイエを頼む。」


「はい。任されました。ギクリ様、素敵なあなたの旦那様をお返ししますね!」


「ーッ!」

「ギクリ姉、ダメ!ここでは燃えるから、魔法は抑えて!」

「先生!やめて!」

「」無言でノイエを守るように動く

 「やめて、力を持ってかないで、消えちゃ、」

「ギクリ!」


「うふふ!ホントにギクリ様はホントに可愛い方ですわ」


悪魔の研究を続ける王国の暗部、闇の巣窟、第二研究所を爆発させたニック一同は王国内でも力を持つ貴族の屋敷に身を寄せることにした。あいにく、頼りにした屋敷の主たる男は所用で半年以上、屋敷に戻っておらず、今、その屋敷を任されているのはその男の妻であった。彼女は明らかに何か厄介ごとを抱えるニック一同を自身の一存で快く屋敷に迎え入れ、自らもてなした。


ニック達を迎え入れた彼女の名前はベス。

ベス・バッチ子爵夫人、現在、儀典長官を務める生きる英雄の一人ドラム・バッチ子爵の妻であり、夫であるドラムが半年間も王宮に出仕し家に戻らないので、毎日が暇で暇で仕方なかった貴族夫人様である。


厄介ごとの塊しか見えないニック一同を躊躇いなく迎え入れたのは、顔なじみという点よりも面白そうだという事を重視した愉快犯的な思考の持ち主である。楽しいことや、美しいものが好きで、これだけでは享楽的な性格に思われるかもしれないが、意外と思慮深く、人を不快にさせない何とも不思議な人物である。


「!」

「ギクリ!落ち着け!」

「わお!大胆!」

「ベスもそれ以上は喋るな!」


ニックはタックルを仕掛けるようにギクリの体を目掛けて飛びついた。飛び掛かる直前に理性を取り戻したのか、ニックに抱き着かれて正気が飛んだのか、ギクリの魔力が魔術として力を発揮する前に霧散する。しかし、一部の魔力はすでに行き場を失い、空中でバチバチと音を立てて小さな火花を生みだした。

やがて、その小さな魔力の暴走が収まり、場に落ち着きと安どの空気が生まれる。


「あ~あ、きれいでしたのに、終わっちゃった。」

「ベス姉様はホントにすごいわ」

「あら、ヒノちゃん褒めてくれるの?ありがと~、大好きよ~、旦那の次に!」

「褒めてはいないわよ!」


普段なら場を支配するヒノクも、このベスを苦手としている。なにせ、こう押せば引き、引けば回り込む、そんなつかみどころない性格で、どこか策士タイプのヒノクには苦手な人である。


「あの、メイさん?」

「?」

 「・・・」

「あ、あの、悪魔さん大丈夫ですか?さっきから、動かないんですよ?」

「悪魔様なら大丈夫よ。」

「え?そうなんですか?さっきから、ピクリともしないですけど、」

「悪魔様は絶対に大丈夫!」

「そうかですか?でも、」


ノイエの下女にして幼馴染みのメイと、ギクリの弟子であるニーナはいつの間にか仲良くなっていた。

下女としては優秀であるが、万事ノイエ中心の思考で人としては足りない部分が多いポンコツ気味のメイに、この場にて、最年少ながら気遣いが出来るニーナは、先程から叫んだり、泣いたり、過呼吸気味の、大分薄くなった悪魔のことを尋ねたが、安心できる答えはもらえなかった。


「」

悪魔は、まだ生きてはいる。

先ほど、契約を結んだ相手から不意打ちのエルフ語の破邪の唄を喰らわされたが、まだ、生きていた。

ギクリと契約を結び、悪魔としての力を少し取り戻していたからである。たった二つのことを叶えれば自由になれると言われて、契約を結んだ。


ギクリに力の使い方を教えて、ノイエを幸せにする。


悪魔は、知らなかった。

前者はともかく、後者がどれ程、険しく、難しい事なのかを。



まぁ、そこら辺は、一旦置いておいて、ドラムの屋敷にニック一同がなぜ訪ねたのかというと、出国の手続きをしに来たのだ。もっと言うと、便宜を図ってもらうために昔のツテを頼りにして、ドラムの屋敷を訪ねた。


しかし、ドラムが不在で仕方なく、その屋敷の部屋を借りて、ちょうど暇をもて余したベスが彼らをからかいつつ、歓迎し、いまに至る。

ギクリが歌たった歌は、ギクリの母から教えられた子守唄で、ニックの可愛い孫娘を味方につけないといけないわよとベスに唆され、披露した。


この、優しい歌と騒がしい音に、失神と気絶とを一晩で何度か繰り返したノイエはゆっくりと目覚める。

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