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第三十二話 欠席の理由

更新が遅れました。すみません。

生徒会室に入った恭哉を出迎えたのは、香苗の疲れ切った顔であった。正面の椅子に沈むように座っており、いつもは艶やかな黒髪も何となくくすんで見える。


「すまないな。授業中に呼び出したりして」


重そうに顔を上げで香苗が言った。口調も重く、ため息の合間に出たかのような声であった。


「いや、それは別にいいんですけど、急ぎの用ですか?」


本音を言えば、出来るだけ授業中に教室を出るようなことはしたくない。日頃視線を向けられることに慣れていない恭哉にとって、教室中の視線を背中に感じながらの退出は中々にハードルが高い。


「急ぎの用と言えばまあ、そうなるな」


相も変わらず香苗の声のトーンは低い。


「西園寺にはもう話したんですか? あいつ今日は――」


「欠席しているようだな」


突然、香苗の声が厳しいものに変わった。凛とした顔に隠しきれない苛立ちが募っている。


「そうですけど、それが何か?」


確かに、メイサは朝から学校に来ていない。香苗は気を取り直すように一つ頷いてから口を開いた。


「メイサは今、局員達から逃げている」


恭哉は最初、香苗が何を言っているのか分からなかった。少し間をおいて言う。


「詳しく聞かせてください」


「うむ、先日廃工場を荒らした、もとい更地に変えた者がレイダーと認められ、守護者達が捜索していることは知っているな?」


「ええ、勿論。俺達もかり出されてますし」


「そのレイダーと一人の守護者が交戦しているところを局員の一人が発見したらしい」


「それで?」


何となく嫌な予感を覚えながら、恭哉は先を促した。


「その局員が加勢しようとしたところで、レイダーは逃げ出したようだ」


「はあ」


「逃げられた守護者というのが、メイサだった」


話の内容から、そんな気はしていた。しかし、いまいち信じられないというのが正直なところだ。香苗の話に出て来たメイサと恭哉の知っているメイサがうまく繋がらない。


「それが何か問題なんですか?」


「問題ではある。何せ守護者がレイダーを取り逃がしてしまったのだからな。失態だ」


香苗は腕を組み、言葉を続けた。


「しかし、大した問題ではない。逃がしはしたものの、姿形も分からなかったレイダーの正体を突き止めたのだからな。まあ、お叱りを受けて反省するくらいのことだ。だが――」


「取り逃がした奴が問題だったんですね」


香苗が頷く。


「ああ、西園寺メイサは天才だ。それは、局員もそうでない守護者も誰もが知っている。そんなメイサがたった一体のレイダーを仕留め損ねる事があるだろうか」


普通に考えれば、それはない。そう思わせるほどにメイサの強さは他の守護者を凌駕している。まだ何回かしか共に戦っていない恭哉ですらそれは知っていた。メイサがミスをしたのは、実力不足、能力不足といった話ではなく、つまり……


「つまり、西園寺がわざと、故意にそのレイダーを逃がしたと思われている」


「そうだ。理解が早くて助かるよ」


「君は意外と頭が切れるのだな」と言って香苗は笑ってみせた。重くなった雰囲気を軽くしようという思惑なのだろうが、それが却って事態の深刻さを感じさせた。


「じゃあ、西園寺が今日欠席なのは」


「何度も本局に来るように連絡はされているようだが、一切反応がないらしい」


逃げているというのは決定的なようだ。


「発見した局員が見間違ったというのは……ないですね」


あの整いすぎるくらい端整な顔立ちと目立つ色の髪だ。見間違うはずもない。


「問題のレイダーと平行して捜索するよう本局からお達しが出た。勿論、私達鶴島支部も例外ではない」


「発見した局員に話は聞けないんですか? 西園寺がどんな様子だったかとか」


「今朝本局に呼び出されてな。その時同じ事を頼んでみたのだが、取り合ってくれなかったよ。まあ、局員は目上の存在だ。難しいだろうな」


「そうですか」


その時の様子が分かれば、一体メイサが何を考えているのか少しは判断できると思ったのだが。


「そんな顔をするな。その局員の場合、レイダーとメイサを取り逃がしたことになるからな、手柄を上げようと必死なのだろうさ」


「出払っているから、つかまえるのは難しいと?」


「そういうことだ」


香苗が穏やかな声で言った。話す前より落ち着きを取り戻しているように見える。どうやら相手に逆に冷静にさせるほど、恭哉はひどい顔をしているようだ。思いの外取り乱している自分に、恭哉は驚いていた。




生徒会室を出て教室に向かう。外に出る前に「あまり気にするな」というニュアンスのことを香苗に言われた気がするが、あまり覚えていない。

西園寺メイサという少女を、黒崎恭哉は正しく認識していたのだろうか。いつも人を小馬鹿にし、ケラケラと笑う少女。その性格が、せっかくの整った容姿を台無しにしてしまっている。けれど、優しさも持っていて回りくどいやり方で助けられたこともある。


「まあ、やりそうではあるな」


恭哉はポツリと独りごちた。色々な部分でカテゴライズが難しい性格であるメイサだ。レイダーを逃がすという行為をしてもおかしくない気もする。しかし、やるなら一言あってもいいのではないか。そう思ってしまうのが、恭哉が冷静でいられない原因であった。メイサがこちらを巻き込まないようにしてるのは分かっているのだが、何となく裏切られた気がしてしまうのだ。


レイダーと平行して捜索に当たるということは、もしメイサを発見した場合恭哉もメイサをを取り押さえなければならない。反抗するようなら戦闘もあり得る。しかし、それはメイサからすれば恭哉が自分を裏切ったと捉えられてもおかしくない行為ではないだろうか。


そんなことを考えていると、階段の右端に座る男子生徒が目に入った。派手な髪色と服装をしており、いかにもサボっていますといった感じであった。この類いの生徒には近付かないというのが恭哉を含め一般市民の鉄則だ。


なるべく気配を殺して階段の左端を下る。踊り場に差し掛かったところで背中に声を掛けられた。


「おいおい、ガン無視かよ」


ビクリと肩を震わせ、恐る恐る振り返る。すると、見知った顔があった。そういえばこの進学校においてここまで派手な風貌しているのは一人しかいなかった。


「梅園さん」


「まったく、俺を堂々と無視できるのはお前ぐらいだぜ。まあいい、ちょいと面貸せ」


梅園伊織はクイッと顎をしゃくってそう言った。

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