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第十六話 多いなら、減らしてみせよう

「ああメイサ、君は残ってくれ」


話が一段落つき、恭哉とメイサが生徒会室を後にしようとしたとき、香苗が今思い出したかのように言った。


「分かりました」


そう言われることを予期していたのか、メイサは表情を崩すことなく言った。そういうことなら、恭哉は一人帰るしかない。あまり親しそうには見えないが、メイサと香苗は知り合いのようだし、積もる話もあるのだろう。二人でしかできない話もあるのかもしれない。


「じゃあ、俺はここで」


香苗に軽く会釈してから恭哉は二人に背を向けて歩き出した。そしてドアに手をかけようとしたとき、ピリッとした感覚が頭の中を駆け抜けていった。


「っ!」


この感覚を覚えたのは二度目だ。一度目は遊園地でのことだった。つまり、これはレイダーが現れる時の感覚だ。振り返ってメイサに目を向けると、メイサは無言で頷いた。当然知覚しているのだろう、香苗はあごに手を当てすっと切れ長の目を細めた。


「レイダーが来たようだ。場所は鶴島公園、鶴島支部の管轄だな」


「ということは……」


香苗は好戦的な光を目に宿し、恭哉の言葉に続いた。


「うむ、話は後だ。私たちでレイダーの対処に向かう」


「いやー何とも絶妙なタイミングで来ましたねー」


メイサは何がそんなに楽しいのか、ニコニコと笑って言った。




鶴島公園は、鶴島高校から歩いて十分ほどの所にある。そこへ走って向かいながら、恭哉は口を開いた。


「あの、鶴島支部って俺たちだけしかいないんですか?」


前をポニーテールを揺らして走る香苗が目だけこちらに向けて答える。


「いや、もう一人いる。君たちより一つ上、私と同級生の男だ。奴も気付いているはずだ。ここに向かっているだろう」


今更ながら、恭哉は香苗が二年生であることを知った。二年生の春に生徒会長だということは就任したのは一年生の時ということになる。香苗は一年生の時から目立った存在だったのだろう。


「だが奴は少々不真面目なところがあるからな。来ない可能性もある」


そんなことを考えている恭哉に、香苗は顔をしかめて言い直した。


「それは困りますね-。鶴島公園は大型のレイダーが出ることで有名ですから」


「全然困ってるようには見えないけどな」


吞気な声で言うメイサに恭哉が言うと、メイサはわざとらしくしなを作った。


「そんなことないですよ-。私だってか弱い乙女なんですから」


「どこがか弱いんだよ」


か弱い奴があんなでかい大剣を振り回すか。ついでに乙女ということも怪しいところだと恭哉は思った。


「話はそこまでだ。そろそろ着くぞ」


香苗がそう言ったとき、前方から子供達の笑い声が聞こえてきた。公園の入口に三人は立ち止まり、公園内を見渡す。鶴島公園は近くに小学校があり、この時間の公園の中は小学生が多かった。すべり台やブランコ、シーソーなどの遊具に集まり、広いところではランドセルを背負ったまま走り回っている子供もいる。


「相変わらずだな。ここは」


ポツリと恭哉が呟くと、隣に立つメイサが見上げてきた。


「黒崎さんもここで遊んでたんですか?」


「この近くにある小学校に通ってたからな。帰りがけによく遊んでた。西園寺はどこの学校に行ってたんだ?」


「小学校ですか? 行ってませんよ」


「え……」


驚き顔でメイサを見る恭哉とは反対に、メイサはまるで何でもないかのように笑っている。しかし、それは普通のことではない。そこで、恭哉は先日訪問した西園寺の家を思い出した。あの豪邸で生まれたメイサはそもそも普通ではないのだろうか。


しかし、豪邸持ちのお嬢様でも、恭哉が通っていた公立の小学校ではないだろうが、私立の小学校くらいは行くはずだ。


「黒崎、メイサ、あそこだ」


香苗が公園の中央付近、遊具ゾーンと広場の間に指を差して言った。今は任務中だ。考えるのは後でいい。恭哉は考えを打ち切ってそちらに目を向ける。すると、そこに半球状の結界があった。


「ただいまよりレイダーの対処を行う。もし正規兵であれば局員が来るまで正規兵を抑えておく。野良であれば撃破する。いいな」


恭哉とメイサが頷くのを確認すると、香苗が早足で歩き出した。子供たちにぶつからないように、しかしなるべく早く歩く。結界の前まで来ると立ち止まり、香苗はさっと周囲を見回した。


「入らないんすか?」


「うむ、たとえ子供でも、結界に入るのを見られるのはまずいのだ。子供たちからすればいきなり人が三人も消えるわけだからな、パニックになる可能性があるやもしれん」


「確かにそうっすね。子供が偶然結界に入ってしまうとかないですよね?」


恭哉の疑問にメイサが答えた。


「魔力を持った者しか結界に入ることはできません。問題ないでしょう」


「そうか」


そう言いながらも、恭哉は何とも言えない引っ掛かりを覚えた。それが何なのかは分からない。しかし、無視できないほど大きな引っ掛かりだった。


「よし、入る」


そんな恭哉をよそに香苗が結界に入っていった。恭哉とメイサも続く。結界に入ると途端に周囲の音が消えた。子供達の姿もない。ここは結界内、景色は鶴島公園そのものだが、鶴島公園ではない別の空間だ。そこにレイダーの姿は見えない。


「レイダーはまだいないな。ちょうどいい黒崎、君は吸収型だったね?」


香苗はそう言って恭哉に目を向けた。


「ええそうです」


「うむ、では私と黒崎で前衛、メイサは後衛だな」


ということは、香苗は吸収型となる。吸収型と放出型の分かれ目が性格に基づいているのかは知らないが香苗が吸収型なのは素直に納得できた。


「私だけ仲間はずれですか? 寂しいなー」


メイサが白金の髪を揺らしこてんと首を傾げる。あざとさしか感じないのに、一瞬ドキッとさせるのだからメイサはたちが悪い。


「ふざけてる場合ではない。来たぞ」


景色が揺らぎ、紙をはがすように穴が空く。それは今まで見た中で一番大きな穴であった。


「……でかいな」


「はい、先程も言いましたが、この結界にはよく大型のレイダーが現れます。それはこの穴の大きさに起因しています」


メイサの言葉に耳を傾けながら、穴の奥から目を離さない。すると、そこからぬっとレイダーが姿を現した。身の丈三メートル以上の二足歩行のレイダーであった。


そのレイダーは大きな牛の頭と筋骨隆々の体を持っていた。大きな棍棒をぶら下げた腕はメイサの腰より太く、底知れぬパワーを有していることが窺える。


「ミノタウロス……」


香苗が言ったとおり、そのレイダーはミノタウロスそのものだった。それが計五体穴から出てきた。


「正規兵ではありませんね」


メイサが言った。


ミノタウロスの格好は腰にボロボロの布のようなものを巻いてあるだけであった。ゴールデンウィークに見たゴブリン達のように鎧を身につけていない。野良とみていいだろう。


「野良なら俺達が対処するんすよね?」


尋ねる恭哉に香苗が頷くが、苦い顔をしている。


「どうかしたんすか?」


「いや、数が多いと思ってな。ミノタウロスは大型でたとえ野良でも個体の強さは正規兵のゴブリンより上だ。一人一体を撃破しようにも二体余り、組むのが初めての私達では連携も難しい。いつもは二、三体しか現れないのだが……」


恭哉は改めてミノタウロス達に目を向けた。ミノタウロス達はまだ仕掛けてこないが、いつ飛び掛かってきてもおかしくないほどの殺意が体中から迸っていた。鼻息は荒く、口から涎をまき散らしながら叫び声を上げているのもいる。


それを見ながら、恭哉は先日戦った指揮官ゴブリンを思い出した。指揮官ゴブリンはミノタウロスのように大きな体を持っていなかったし、目に殺意と敵意はあったがミノタウロスほどではなかった。しかし、強かで一切の隙を見逃すまいとする双眸はミノタウロスのそれより圧力があった。


つまり、恭哉は指揮官ゴブリンほどの強さをミノタウロスからは感じなかった。有り余る殺意が、却って弱さを感じさせるのだ。


「つまり、一人一体なら大丈夫ってことですよね?」


メイサがそう言うと、香苗は怪訝な顔をした。


「そうたが、それがどうした? 言っておくが、増員は望めんぞ」


「そんなこと言ってませんよ。要は二体減らせばいいんですよね?」


「メイサ、君は一体何が言いたいんだ?」


香苗の問いに、メイサはにっこりと笑って言った。


「私と黒崎さんで二体瞬殺すれば問題なしってことです」


「まあ、それができればな……」


「できます。ノー問題です」


自信満々に言うメイサを見て恭哉は思った。


俺の意見は……?


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