第十四話 主人公席とお呼ばれ
主人公席、というものがある。
それはマンガや小説、学園ドラマなどで主人公の生徒が座ることが多い席の事である。学校の教室で窓際の一番後ろ、もしくは後ろから二番目の席がその主人公席に当たる。
恭哉の在籍しているクラスでは、高田俊がその席に座っていた。高田は容姿や成績、運動、コミュニケーション能力がどれも優秀でクラスでも人気者だ。いつも爽やかな笑みを浮かべており、先日恭哉に絡んできたのは何かの間違いではないかと疑ってしまうほどだ。
その高田俊は、窓際の一番後ろの席に座っている。授業の間の休み時間や今のような昼休みにスクールカースト上位の者達がその辺りに集まり、教室内に響き渡る声でおもしろおかしく話し始める。春の陽射しを受け笑みを浮かべる彼らはある種神々しさすら感じる。
対して恭哉の席はというと窓際とは反対側、廊下側の一番後ろの席である。春の陽射しも射し込まなければ、出入口に近いこの席は人が通るだけで誰も立ち止まらない。主人公席に座る高田とはまさに反対と言える。主人公の反対というと、村人Aとかだろうか。いや、正義の主人公の反対だから悪の黒幕といったところだろう。
「ふむ、ちょっとかっこいいな」
「教室で独り言とか、寧ろかっこ悪いと思いますけど」
突然後ろから聞こえてきた声に恭哉はビクッと肩を震わせた。恐る恐る振り向くと、一人の少女が後ろに立っていた。見知った顔である。
西園寺メイサ、欧米人とのハーフで、白金の綺麗な髪を伸ばし青色の瞳はぱっちりとしていて可愛らしい。小作りながら鼻筋は通っており、唇はぷっくりとしていて艶めかしさを感じる。
ため息が出そうなほどの美少女である。もう少し胸囲があれば満点なのだが、少し惜しい。まあ、そこは将来に期待しよう。
「黒崎さん、女性のやらしいところを見るのはいいですが、聡い女性はそういうの気付くので、もう少しさり気なくやった方が良いですよ」
もう一つ惜しいのがこの口振りだ。せっかくの容姿の良さを台無しにするほどの毒をメイサは吐く時があるのだ。
「気付いてたなら言ってくれよ」
「それは独り言と舐めるような視線のどちらのことですか?」
「どっちもだ」
というか舐めるような視線って何だよ。そんなに見てない。見てないはず。
「言いませんよ。いちいち言ってたらきりがないですから」
それはまたどちらの事なのだろうか。独り言なら気をつければ良い。しかし視線のことなら……ちょっと不味い。いや、健全な男子高校生なら誰しも少しはそういった目で女性を見ることがあるに決まってる。
悶々と考え始める恭哉の耳にくすりとメイサが笑うのが聞こえた。
「大丈夫ですよ。黒崎さんのはそんなにあからさまなものではないですから。よく注意してないと気付きません。可愛いものです」
「驚かすなよ。結構ビビった」
「あはははっ」
メイサが楽しそうに笑う。前なら少しばかり腹を立てていたかもしれないが、恭哉も流石に慣れた。メイサに悪意はない。こういう性格なのだ。
恭哉はさり気なくさっと周囲を見回した。先程からちらちらとこちらに向けられる視線を感じる。恭哉とメイサの会話の内容は聞こえていない。スクールカースト上位のメイサが恭哉と話し、声を上げて笑っている。それ自体が珍しいのだろう。
ゴールデンウィークの一件以来、これまで教室では話し掛けてこなかったメイサが普通に話し掛けてくるようになった。恭哉は驚いたが、周囲の驚きの方が大きかったようで、ゴールデンウィークが終わり三日経った今もメイサと話す度に奇異の視線を向けられる。その視線に気付いているはずなのだが、メイサがそれを気にしている様子はない。
奇異の視線だけなら別に構わない。ぼっちの恭哉はそういうものに慣れているし、メイサにしても目立つ容姿をしているため耐性があるだろう。しかし、クラスメイト達の視線には悪意や敵意が混じったものもある。それは主に恭哉に向けられているためメイサに害はないが、今後どうなるかは分からない。
「昼休みもそろそろ終わる。戻った方がいいんじゃないか?」
不穏な空気を感じ取り、恭哉は言った。しかし、メイサは首を縦に振らなかった。
「いえいえ、まだ昼休みは残ってますから」
「あのな……」
「そんなことより黒崎さん、怪我の具合はどうですか?」
「ああ、言われたとおりにやったらもう完璧に治った」
指揮官ゴブリンとの戦闘で、恭哉は浅いながらも多くの傷を負った。取り敢えず病院に行こうとしたところ、メイサに引き止められた。メイサ曰く、浅い傷ならエスパーダに触れて魔力を循環させるだけで治ってしまうらしい。半信半疑でやってみると本当に治った。
「もう治ったんですか。やりますねえ」
「俺もびっくりだ。魔力っていうのは凄いな」
「魔力というより黒崎さんの吸収量が凄いんだと思いますけどね。まあ、早く治って良かったです」
その時、メイサの表情に少し影が差した。未だに自分のミスで恭哉が傷付いたと思っているのだろう。しかし、それは違う。
「西園寺、お前まだ責任感じてるんじゃないだろうな? 俺がやられたのは俺のミスなんだからな」
「別に気にしてませんよ」
恭哉は念を押すように言ったが、メイサの表情は晴れない。今回のことだけではない、もっと深い何かがある気がした。
ピーンポーンパーンポーン
突然鳴った放送を知らせるチャイムに恭哉は口をつぐんだ。何か言おうとしたはずだが、それが何だったのかは思い出せない。
『黒崎恭哉、西園寺メイサの両名は帰りのホームルームが終わり次第生徒会室に来たまえ。繰り返す、黒崎恭哉、西園寺メイサの両名は帰りのホームルームが終わり次第生徒会室に来たまえ』
放送が切れると、一瞬の静寂の後教室内の喧騒は元に戻った。しかし、相変わらず向けられる恭哉とメイサへの視線はより一層伝わってくる。
「今の、誰だったんだ?」
やけに古くさい話し方だったが、声は女性のものだった。
「黒崎さんはもう少し他人に興味を持った方が良いですね」
メイサはため息交じりに言った。
「今の声の主は、我が校の生徒会長のものですよ」




