第十二話 先制攻撃
一体、また一体とこちらの世界に侵入してくるゴブリン達。たったそれだけの動きの中にも、恭哉が以前見た野良のゴブリン達とは異なるものがあった。
住宅街で戦ったゴブリン達は、殺意がむき出しで表情や所作に粗野な印象を受けた。しかし、今回の正規兵のゴブリン達にはそれがない。どのゴブリン達も冷静で洗練された動きをしており、静かな闘志を感じる。その表情は自信と誇りに満ち溢れ、どこか気品すら感じられた。
「黒崎さん、まだ攻めてはいけませんよ」
じっと観察していた恭哉にメイサが言った。メイサの声にはどこか咎めるような色がある。以前恭哉がメイサを無視して突っ込んでいったことを気にしているのかもしれない。
「分かってる」
さすがに今回はそんな気になれない。あの時恭哉は手に入れたばかりの力に少し浮かれていたが、今それはない。それに正規兵のゴブリン達は素人目からも強いのが分かるし、まだ何体出てくるのか把握できてもいない。無闇に攻めるのは自殺行為だ。
「指示は私が出します。動くのはそれからです」
「了解」
ゴブリン達は十体出てきたが、まだ途切れる様子はない。出て来たゴブリン達は隊列のようなものを組みながら声も出さずこちらを見ている。
メイサが少し表情を緩めて言った。
「いやーなかなか運が悪いですね」
「吞気だな。何か作戦とか考えてあるのか?」
「正規兵と戦う場合一つセオリーがありまして、今回はその通りにやります」
「セオリー?」
「はい、正規兵は統率がとれていて厄介です。しかし反面、指揮官をやられたら途端に動きが悪くなります」
それは理解できる。強力なリーダーシップを発揮する者がいるのは強みとなるが同時に弱みにもなる。
「じゃあその指揮官を最初にやるんだな」
「はい、それはセオリー通りなら吸収型である黒崎さんの役目なのですが、どうします?」
「放出型は向いてないと?」
「向いてないというか、私のような放出型は多対一の方により効果がありますので」
必然的に一対一の戦いを担当するのは恭哉のような吸収型になるということか。
「分かった。指揮官は俺がやる」
「多対一に向いているといっても程度がありますので、そう長く敵を抑えられるとは限りません」
メイサがそこまで言ったところでゴブリン達の様子が変わった。先程まではこちらを見ているだけだったが、今は剣を構え戦闘態勢に入っている。ゴブリン達は総勢二十体、これで全部と見て間違いないだろう。
「西園寺、どれくらい持つ?」
「十分が限界です。援軍が到着するのはぎりぎりといった所でしょうか」
他の結界を担当していた守護者達も今こちらに向かっているだろう。しかし、十分で着くかというとメイサの言うとおりぎりぎりになりそうだ。何せ遊園地は広い。そこに点在している結界の間には結構距離がある。援軍が来る前に片付けるのが理想だろう。
「指揮官はあれだな」
恭哉は一体のゴブリンに目を向ける。横広い隊列を組んだゴブリン達の奥にいるゴブリン、あれが指揮官だ。恭哉は一目で分かった。そのゴブリンは身の丈二メートルほどあり、体も屈強だった。基本的に小柄なゴブリン達の中にいると特に大きく感じる。手には大きな銀の盾を持っていた。他のゴブリン達の中で一際異質な存在感を放っている。
「間違いありません」
「よし、じゃあやるか」
「先ずは出方をうかがいます。こちらから仕掛けましょう」
恭哉は無言で頷くと、見えなくする魔法を解きエスパーダを顕現させ『紅蓮』を引き抜いた。メイサも掌からエスパーダ『無形』を取り出す。
先手必勝、恭哉は地面を蹴って隊列の中央に切り込んだ。迎え撃つ姿勢を取ったゴブリン二、三体を吹き飛ばしさらに先に進もうとする。しかし、すぐさま後ろに控えていたゴブリン数体に阻まれ、恭哉の勢いは止められてしまう。
ならばと今度は横から攻めようとしたが、恭哉が足を向けたときゴブリン達は左右両方から挟み込むように恭哉を取り囲んでいた。
「黒崎さん、一旦後退してください」
「ちっ」
メイサに言われるまでもない。このまま挟撃されてはたまらない。恭哉は後ろに跳躍してゴブリン達から抜け出した。
「黒崎さん……」
隣に立つメイサが呆れたように言った。
「分かってるよ。ちょっとバカ正直にやりすぎた」
そう言いながら恭哉は自分の頬が熱を持つのを感じた。いくら経験が少ないとはいえ、隊列を組む相手に真正面から仕掛けるのは流石に愚策だと恭哉は分かっていた。それでもいけるんではないかという過信があったのだ。だが、結果すごすごと退却した訳で……めっちゃ恥ずかしい!
「もう一回やってみる」
汚名返上するにはあのゴブリン達を突破するしかない。一歩踏み出そうとする恭哉をメイサの声が引き止めた。
「私が道を作ります」
「西園寺が?」
「はい、あのゴブリン達を分断するので黒崎さんはその間を突破してください」
「簡単に言うけど、あいつら結構堅いぞ?」
「問題ありません」
メイサは得意げに微笑むと、純白のタクトを振り上げた。すると、タクトが光り輝きその形を変えていく。メイサの手に顕れたのは、純白のハルバードだった。
「前は大剣じゃなかったか?」
「忘れたんですか?私のエスパーダの名は『無形』です。形なんていかようにも変えられます」
「……チートだな」
「あははっ、私からすると黒崎さんの方がチートに見えますけどね。それと、驚くのはまだ早いです」
そこで恭哉は思い出した。メイサはゴブリン達を分断すると言ったのだ。しかし、どうやってあの練度の高いゴブリンの隊列を分断するのだろうか。
恭哉の疑問に答えるようにメイサが言った。
「魔力波でゴブリン達を分断します。黒崎さんは準備を」
魔力波?なんだそれは。
恭哉がそう口にしようとした瞬間、かなり重量がありそうなハルバードをメイサが軽々と振り下ろした。地面が砕け、アスファルトが飛び散る。
「なっ!?」
恭哉は絶句した。最初は風かと思ったが、違った。メイサのハルバードから放たれたのは、文字通り魔力の波だった。その黒色の魔力の奔流は地面を切り裂きうなりを上げながらゴブリン達に向かっていった。
ドガッという音がしたと思うと、三体のゴブリンが魔力波によって真っ二つにされ消えていった。近くにいた他のゴブリン達も大なり小なり傷を負っている。
恭哉は見た。先程まで倒されたゴブリンがいた場所がぽっかりと空いている。メイサの強烈な一撃に動揺したのかそれに気付いた様子はない。
「よしっ」
恭哉は体中に魔力を循環させ、走り出した。それを見たゴブリン達が慌てて隙間を埋めようとするが、もう遅い。ギアを上げた恭哉は一瞬でゴブリン達の間をすり抜けた。そしてその勢いのまま指揮官ゴブリンに肉迫する。
「ギッ!?」
驚いた顔をする指揮官ゴブリン、それ見てニヤリと笑うと恭哉は『紅蓮』を振り下ろした。




