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英雄譚  作者: 枕木きのこ
8/9

ハチ

 教祖は簡単に話に乗った。「人間らしく」が効いたのかどうか、判然としない。

 屋上に場を移すことを提案したのは、もちろんこちらである。視界を遮るものは柱一本ない方がいい。僕はずっと右手に小石を数個握り締めている。向こうも、何人かの手下がついてきた。

 二人が向き合い、肉弾戦が始まる。当然、身体的劣化の激しい男のほうが、劣勢だった。教祖のほうも、決して筋骨粒々ではないが、男よりは体力がある。防戦一方だ。

 しかし、好機は来た。

 男の右フックが、教祖の脇腹に綺麗に決まり、よろけた。すかさず男は教祖の頭を掴んだ。

「今だ! やれ!」

 男が、屋上の縁に立つ僕に、声を投げる。

 教祖は、手首の話を思い出したのか、慌てて男の手を掴み、逃げようと試みる。

 手下が駆け出し、彼らの決闘に割って入ろうとする。

「換われ」

 念じると、僕の手の中から、肉片がポロリと落ちる。

 見開かれた目に見つめられ、次には、耳を切り裂くような悲鳴を認識する。

 教祖は、無様に立ち尽くし、こちらを見た。

 それに対し、

「男の頭を掴んでください」

 言うと、言われるがままに、従った。

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