ヨン
男は、彼らを許しはしなかった。何せその地下鉄事件で、妻子を亡くしたからだ。しかし、彼が今から何かをする、というほうへは、彼の考えは向かなかった。
手を出せば、きっと長い戦いになる。自分は、それに耐えられる身体を、もう持っていない。そういうことだった。一方で僕は身寄りのひとつもない孤児である。食料を与えれば、これからすくすくと成長していく身。対照的だった。
力の譲渡に関しては、彼自身、過去にそうして力を授けられた身であるが故、願えば、できるのだと信じていたらしい。そして、実際に譲渡できたと言うことは、この力は自分よりも、僕に相応しいものなのだ、と考えているようだった。
「問題は二つある」男はあるとき、指を立てて言った。「ひとつは、どうやって教祖までたどり着くのか。彼らの本拠地は、厳重に警備されている。その上特殊部隊の例もある。それを、どうやって捕まえるのか。そしてもうひとつは、この力で、一体何と何を交換すれば、やつを倒せるのか、ということだ」
「この力は、力と言っても、攻撃性を持ったものではないですよね」
「その通り。この力だけで、誰かを傷つけることはできない。前に言った例のように、相手が武器を持っていれば、話は別だが」
「教祖がどうやって事を起こしているのかわかりませんが、同時に何人もの人間を殺せるような相手だ。能力者と思ったほうがいいでしょう」
「そう。彼はおそらく遠距離でも対象をはっきりと思い浮かべれば破壊することができる。一方こちらは視認してようやく力を使える。差は絶望的なものだ。これを、どのようにしてひっくり返すかが、重要となるわけだ」男は言って、咳き込んだ。「私はもう長くない。考えるには、余生は短すぎる。そんな茫漠とした考えがちらついてしまう」
「いけません。これは、諦めたら終わりなのです。彼らを倒せる、いや、倒そうとする意思は、きっと今ここにしかない」
「……そうだな、すまない」




