↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
5/15

第五章 ピンチ! ─ 阿久津 洋 ─

 昔から、手先だけは器用だった。

 購入したおもちゃのピストルを改造してクラッカーに作り変えることなんて、俺には造作もないことなのさ。


 パァン!

──と、いい音を響かせて銃口から放たれたのは、俺が昨夜せっせと詰めこんだ紙テープとカラフルな色紙だった。

 それらは空気中をひらひらと浮遊したのちに、カウンターまわりと床、そして小野寺くんの間抜けな顔に落ちる。

 それを見届けた俺は、やっと大声でこの台詞を叫ぶことができたのだ。


「はっはっはー! 大・成・功っ!」


 チャッチャラ〜ン……と、本来ならば宮田がスマホで音楽を鳴らす予定だったが、できないことが残念だ。一人でドッキリを完遂してしまって宮田には申し訳ないが、まあ、いない方が悪いもんな。


 俺はマスクとサングラスを取ると、素顔を小野寺くんの前に現す。めずらしい小野寺くんの恐怖と驚きに満ちた顔を、堪能することにした。


「……はい!?」


 しかし、小野寺くんは呆気に取られ、まだ現状把握ができていない。

 あれれ。この子なら、すぐに面白がってくれるかと思ったのにな。意外な反応だ。

 けれどドッキリを成功させた俺は、テンションが少し上がっている。カウンター上に変装グッズとおもちゃのピストルを置くと、上半身を預けて笑った。


「はっはっは。小野寺くん、すごくビビってたね。これね、ドッキリ! 俺と店長の、ドッキリなの!」

「ええっ!?」


 パタパタと夢の万札うちわで扇ぐ俺。

 彼はようやく頭で理解できたのか、ポカンとまた口を開けて驚いた。


(ん? 小野寺くんって、こんな顔だったかな)


 サングラス越しではなくなった今の小野寺くんの顔に、少しだけ違和感を覚えた。


「ドッキリって……何だそれ!」


 彼はへなへなと、俺と同じようにカウンターに上半身を預ける。顔を突っ伏してしまったので、まじまじと見れなくなってしまった。

 華奢な彼の肩をバシバシ叩くと、俺は喜びとほんの少しの申し訳ない気持ちで言葉をかけた。


「すまんすまん。あいつと一度、小野寺くん驚かせたいって話をしてたら、盛り上がっちゃってね。でも、楽しかったでしょ?」

「楽しくなんかありません!」


 ガバっと顔を上げた小野寺くんは小さくつぶやく。


「……てか、二人とも考えること同じじゃん」


 彼が何かボソリ、とこぼした言葉はうまく聞き取れなかった。

 しかも、顔をあげた小野寺くんがいつもと違うように見えるのは、気のせいだろうか。

 俺も、もう老眼なのかなぁ。やだなぁ。


 ……なんてことを考えていたら、小野寺くんの後ろに立つ新人くんが「……ははは」と小さく笑いをもらした。

 おお、そうだ。この子にも謝らなくちゃいけないな。

 まさか、バイト初日にこんなことを経験するなんて思ってもみなかっただろう。しかし、安心したまえ。きっと宮田のお店なら楽しいに違いない。それは俺が保証する。

 宮田のフォローでもしてやるか、なんて考えた時だった。


「……この、クソジジイ」


 新人くんの顔つきが、からくり人形のようにガラッと変わった。眉間と鼻筋に思いきりしわを寄せ、口の両端を下げて舌打ちする。


 へ? く、クソジジイ?


 聞き間違いだろうか──と、耳の老化も疑った瞬間。

 彼は前に立っていた小野寺くんを、背後から片腕で羽交い締めにした。

 もう一方の手で、どこから取り出したのか折りたたみ式のナイフをギラつかせる。それを、小野寺くんの反らせた喉元に近寄らせると、彼は猛獣のように吠えたのだった。


「死にたくなかったら動くんじゃねえ!」

「ひいっ!?」

「えぇ!?」


 何が起こったのかわからず、小野寺くんはまたしても悲鳴をあげ、俺はおもわず両手を上げた。

 そのせいで持っていたお札が散ってしまい、床にヒラヒラと落下した。

 それを見た新人くんは、またさらに険悪な表情になり、小野寺くんの背後から口調悪く言い放ったのだ。


「てめえ、なに金を落としてんだ! 拾って早くこっちによこせ!」

「え、は、はいっ」


 条件反射のように、つい新人くんの言うとおりに動いてしまった。

 しかし、混乱する頭に「なぜこの子が」と疑問が渦巻く。

 そんな俺の戸惑いは伝わっているのだろう。小野寺くんを人質にしたまま、彼はやけにニヒルな笑いを浮かべた。


「残念だったな。……俺も強盗だったんだよ」

「何っ!?」


 かき集めた札束を、おもわずぎゅっと握った。

 強盗はそんな俺の反応を面白がったのか、口角をさらに上げて言葉を続ける。


「くだらねぇドッキリなんかしやがって……早くそれ、こっちによこしな」


 金を要求してくる強盗。

 俺は顔面蒼白の小野寺くんを見つめながらも、気になったことを口にした。


「そ、それならあいつは? ……ここの店長は!?」

「あん? 気絶して今はロッカーん中だ。そんなことより……」


 彼は小野寺くんの細い首に、ナイフの刃をぐっと近づけた。


「早くよこさねぇと、こいつの首かっ切るぞ!」


 その言葉に、俺はのけぞり慄く。

 まさか……こんなことになるなんて!

 ど、どうすりゃいいんだあ!?



◇ つづく ◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。