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第四章 ピンチ? ─ 小野寺 みなみ ─

 私、小野寺みなみは、うら若き十七歳の女子高校生である。

 花も恥じらう乙女だし、箸が転がるだけでもおもしろい年頃の、いたってふつうの女の子だ。


 ただし、恋愛に関してはちょっとだけ奥手。その理由は、悪ガキだったあずまのせいだと言えるだろう。

 昔から男友達と一緒に、私をからかったり意地悪をしてきたあずまのせいで、私は同年代の男の子を恋愛対象になんか見られなかったのだ。

 男の子なんて、意地悪で大嫌い……と、思っていたのに。


(新人さん、何で急にこんな近くに?)


 ちらりと後ろを見れば、少し困り顔の新人さんがこちらを見下ろしていた。

 うわぁ。近くで見ると、けっこう格好いいかも。

 年齢いくつなんだろう。若そうだし、三つくらい上の大学生とかかな?


 ……なんて、考えられるほど状況はのん気ではない。私たちは今、強盗に遭っているのだ。


「えっと、どうしたの?」


 どうして引き止められたのかわからず、首を傾げると、新人さんはハッとしたように言った。


「あ……そう、そう! 僕さっき、着替えを裏でしたときに、説明書を見た気がするんです! だから、僕が探してきますよ」

「え、そうなの?」


 私の言葉に新人さんは何度もうなずいて、そしてニコリと笑う。


「大丈夫です。僕に任せてください」


 耳心地の良いハスキーボイスに、思わずドキッとしてしまう。

 うわぁ、なんか頼れるお兄さんって感じ。

 あずまや同い年の男の子なんか、てんでお子ちゃまでアホっぽいのに、この人はすごく大人に見える。


「もうどっちでもいいよ! 探してこい!」


 強盗男は、呆れた様子でそんなことをカウンター向こうから叫ぶ。

 新人さんは私を安心させるかのように、肩をもう一度ポンッと叩くと、奥の部屋に入っていった。

 その背中に、思わず胸がキュンとなってしまう。

 小野寺みなみ、十七歳。彼氏いない歴は、年齢とイコールである。


(まぁでも今は……私、男なんだよね)


 がっくしと肩を落とす。

 そんなことを緊迫した状況で考えていたら、奥の部屋からゴソゴソと新人さんが説明書を探している物音が聞こえた。

 棚を開けたり閉めたりする音がしたあとに、書類の山を漁る音が続く。しばらくして、


「……あった!」


 と、そんな新人さんの声が小さく聞こえた。彼がすぐに、姿を現した。


「ありましたよ、説明書」


 彼の右手には、ボロボロになった薄い冊子が握られていた。たしかに、レジスターの説明書だ。

 それを見て強盗男はよしよしとうなずくと、ホッとしていた私に声をかけた。


「よし、じゃあ坊主、お前が開けろ」

「え、わた──僕が?」

「そうだ、お前がやれ」


 うう、なんでこの強盗は私にばっか命令するんだろう。やっぱり新人さんよりも、弱く見えるから?


 以前、背が小さいことを悩んでいたあずまに「そんなに気にすることないのに」と言ったけれど、何となく悩みたい気持ちがわかった気がする。

 小さいというだけで、初対面でこうもナメてかかられるのだ。これはあずまからしたら、男の沽券にかかわるというものだろう。


 でも今は、そんなことを考えている余裕もない。少々の腹立たしさを感じながらも、私は説明書を読みながらレジを操作した。

 古いレジの説明書は見づらかったが、苦戦しながらも操作する。


 すると、チン! と小気味のいい音を鳴らして、あんなに開くことを拒んでいたレジは、あっさりと開いたのだった。

 それを見て「開いた!」と、私の背後で新人さんもホッとしたような声をあげる。きっと彼も、これで事態は好転すると安心したのだろう。


 レジの中には、一万円札もけっこうな数が入っていた。どうやら、ここ数日の売上もまだ収まっているようだ。


(普通なら金庫とかに移すでしょうに。まったく、あの店長は!)


 ああ、あのズボラな店長はやはり、お金の管理もズボラであった。

 でも、命の方がもちろん大事。

 ここは店長の売上に犠牲になってもらいましょう、と私はどこか冷たく思いながら、お金に手をつけた。


「早くよこせやぁ!」


 まだ取り出している途中だというのに、せっかちな強盗は急かしてくる。

 まったくうるさいなぁ、わかってるわよ!

 早く去ってほしい私は、お金を押しつけるように渡した。


 すると強盗は「ふっふっふ」と不敵な笑みをこぼして、お金の扇子をひらめかせたのだった。


「渡しちまったなぁ、坊主……」

「え?」


 渡したらとっとと逃げるかと思った強盗は、なぜか楽しそうにこちらに体を向けている。

 え、なんで、逃げないんだろう。

 強盗の右手にはまだ、こちらに向けられたピストルがゆらめいて──。


「ひゃーはっはっは!」


 突然、強盗男が狂気じみた笑いを放った。

 私も新人さんも、またおもわず両手をあげてしまう。

 何事かと考える前に、強盗は最悪の台詞を言い放つ。


「あっさり金を渡すようなやつぁ、死んじまえ! ひゃははは!!」


(う……嘘ぉーーー!?)



 やめてやめて!

 私まだ十七歳よ!?

 人生これからなのよ!?

 まだ恋愛もちゃんとしてないし、彼氏だってまだできていないのよー!!


 しかし、私にしっかり銃口は向かっている。

 思わずぎゅっと目をつぶる。私の混乱した脳裏に浮かんだのは、なぜだかあずまのムカついたあの一言で──。





『みなみ…………サラシ巻く意味って、知ってる?』





 うっさいわあずまーーー!!

 こうなったのも全部、あんたのせいじゃんかあぁーーー!!



 心の中でそう叫んだと同時に、 パン! と何かが弾けたような音が店内に鳴り響いた。


 あ、死んだ……。



◇ つづく ◇

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