第三章 レジを開けろ! ─ 新人の男 ─
……ったく、まいったなぁ。
俺は今、とある喫茶店で会ったばかりの従業員と並んでハンズアップをしていた。
カウンター越しにピストルを向けている強盗に、抵抗する意思はないことを示すポーズである。
(ピストルじゃ、勝てないよなぁ)
モデルガンの可能性もあるかもしれないが、それでも最悪の事態のことを考えれば、抵抗することは不利になるだろう。
となりにいる従業員は、何だかちっこくて頼りないやつだし。
ちらりと横を見れば、頭一個分は俺より低い従業員も、緊張した面持ちで立っていた。
やけにまつげの長い可愛らしい顔をした少年である。ビシッとヘアワックスで髪の毛をセットしているあたりが、男らしく見せようと頑張っている節がある。可愛いもんだ。
しかし、そんなことを気にしている場合ではない。
俺は、自分の運のなさに嘆いていた。
(まさか……強盗入ったところに、違う強盗が来るとはなぁ)
ポケットに忍ばせている、折りたたみのサバイバルナイフ。それではピストルには敵わないだろう。
そう、俺は今日雇われた新人ではない。俺も強盗なのだ。
ではなぜ、強盗をしようと思ったのか。
理由はしごく簡単だ。どうしても、金が必要だったからだ。そのため背に腹はかえられず、強盗することを決意した。
と言っても、銀行などの防犯カメラや強盗対策をバッチリしているところを狙うのはリスクが高すぎる。
だからこうして、誰も狙わないような廃れた喫茶店を狙ったわけだったのだが……。
(まさかの、強盗かぶりかよ)
店長は俺が来たときに気絶させ、裏のロッカーに押しこんだ。
猿ぐつわを噛ませ手足も縛ってあるので、起きてもすぐには出てこないだろう。
ただ、暴れられたらすぐにバレてしまうと思うので、金だけ奪ってさっさとトンズラしたかったのに、レジの開け方がわからなかった。
そこにバイトくん──小野寺と名乗った──が来たので、慌てて新人のふりをした。こいつにレジを開けさせればいい。そう考えたのだ。
店長は買い出しに出かけたという俺の嘘をあっさり信じ、人のいい小野寺は自己紹介し、制服を渡し、簡単な説明なんかをしてくれた。
たどたどしい態度だったから、こいつもまだ慣れていないんだろう。
(だから、レジの開け方を知らないのか)
仕方ないと思った俺は、強盗にピストルで撃てばいいとアドバイスをした。
それなのに強盗は、まごまごとしていて一向に打つ気配はない。何だよこのやろう、もしかしてピストルに慣れてないんじゃないのか。
そもそも、こいつは店に入ってきた時から変だった。
カウンターに立つ俺らを凝視するように見つめたかと思うと、するりとジャケットの内ポケットから落としたピストルを慌ててかまえたのだ。
何というか「落としたから、じゃあ強盗でもしてやりましょうか」みたいな感じだったな。まあ、マスクとサングラスで表情はよくわかんねぇけどさ。
俺の視線にハッとしたのか、強盗はいきなり声を張り上げた。
「バカやろう! 銃でレジなんか撃ったら、金が傷つくかもしれねーだろうが!」
そう言ってまたゆらゆらと、ピストルを上下に揺らした。
俺よりも小野寺のが扱いやすいとにらんだのか、また彼に対して言い放つ。
「そうだお前、レジの説明書くらいあるだろ! それを探せ!」
「は、はいっ」
小野寺は情けない声を出して、レジまわりを探し出した。
レジの裏、下、横、レジカウンターの中。
ハムスターのように細々と動き探しまわったが、探し物は見つからない。
「ええっと、裏のロッカーとかにあるのかな」
そうつぶやいて、小野寺はカウンター奥の部屋に行こうとする。
ロ、ロッカーだと!?
よせよせ、やめろ! そこには店長を隠してるんだよ!
「ま、待って!」
俺は思わず、後ろから小野寺の肩を掴んで引き寄せた。
すると。
「きゃ!?」
うわ、こいつ何、女みてえな声出してるんだよ。気持ち悪いな。
戸惑うようにこちらを見上げた小野寺の視線に、俺はとっさに止めてしまったこの行動を、どう取り繕うべきかと考えた。
◇ つづく ◇




