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火刑される寸前で前世を思い出しました 北の銀狼王様に「運命のつがい」と見初められて溺愛されています  作者: 鷹居鈴野


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第29話 新しい命

「リリアーナ様。……おめでとうございます」


グリゼルダ団長の診察の後、静かに、そう告げられた。


「え……」


「ご懐妊です」


しばらく、言葉が出なかった。手のひらを、そっと、自分の腹に当てた。


(ここに、命が)


涙が、じわりと、滲んだ。


「ガレオン様に、お伝えしないと」


執務室に駆け込んだ私を見て、ガレオン様は、すぐに、異変を察した。


「リリアーナ、どうした」


「ガレオン様。……子供が、できました」


彼は、しばらく、固まっていた。金色の瞳が、大きく、見開かれる。


「――本当か」


「はい」


次の瞬間、彼は、私を、壊れ物のように、そっと、抱きしめた。


「リリアーナ……」


その声が、震えていた。三百年生きた獣人国の王が、少年のように、声を詰まらせていた。


「ありがとう。ありがとう、リリアーナ」


「私も、嬉しいです」


「大事にする。お前も、この子も。誰にも、指一本、触れさせない」


「わかってます。でも、あんまり過保護にしないでくださいね」


「無理な相談だ」


彼は、私の額に、額を寄せた。


「私たちの子だ。強く、優しく、生まれてくるに、決まっている」


――その日から、王城の空気が、一段と、柔らかくなった。


「お嬢様! いえ、王妃様! 私、絶対に、良い乳母を見つけてきますから!」


ミーナが、涙ぐみながら、駆け回っていた。


「リリアーナ、無理しないでよね。動きすぎたら、承知しないから」


ヴェルナが、過保護なほど、私の周りを見張り始めた。


「アッシュ様、来年は、俺たちの番だな」


アッシュとミーナも、正式に婚約式を挙げ、幸せそうな日々を送っていた。


「リリアーナ様。安産祈願の花を、育てております」


グリゼルダ団長までもが、薬草園の一角に、特別な花壇を作っていた。


穏やかな月日が、流れていった。


春が過ぎ、夏が来て、秋が深まり――お腹が、少しずつ、膨らんでいった。


「リリアーナ」


ある夜、ガレオン様が、私の腹に、そのまま、手を当てた。


「動いた」


「本当ですか?」


「ああ。……蹴った」


彼の顔が、くしゃりと、崩れた。泣き笑いのような、その表情を、私は、初めて見た。


「エマに、見せてあげたかった」


思わず、呟いた。


「私、母にもなるんだよ、エマ」


ロケットを、指先で、握りしめた。母の形見。あの日、エマが最後に言いかけた言葉――「決して」の続きを、私は、まだ、知らない。けれど、いつか、この子に、母の物語を、全部、聞かせてあげたいと思った。


窓の外、獣人国の夏の夜空に、星が、静かに瞬いていた。


新しい命が、私たちの間に、確かに、育っていた。

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