第27話 揺らぐ命
その日は、朝から、様子がおかしかった。
「ガレオン様、朝食、召し上がらないんですか?」
「……いや、食べる」
フォークを取った手が、わずかに、震えていた。
「ガレオン様?」
「何でもない」
彼は、無理に、笑って見せた。けれど、その笑みには、いつもの余裕がなかった。
執務の最中、彼が、机に手をついて、体を支える瞬間を見た。
「ガレオン様!」
駆け寄ると、彼は、すぐに、姿勢を戻した。
「大丈夫だ。少し、目眩がしただけだ」
「グリゼルダ団長を呼びます」
「必要ない」
「必要あります」
有無を言わせず、グリゼルダ団長を呼んだ。診察の結果、彼女の顔が、みるみる曇っていった。
「陛下。……魔力経路に、異常が見られます」
「異常?」
「魔力の流れの根の部分に、細い、亀裂のようなものが。……いつから、こうなっておいでですか」
ガレオン様は、答えなかった。
その沈黙が、すべてを、物語っていた。
「――まさか」
私の頭の中で、ばらばらだった断片が、繋がっていく。リクトリア山脈の魔力結合。呪いの残滓は、術者の魔力を吸い取る性質があると、グリゼルダ団長自身が、あのとき、言っていた。
「ガレオン様。あのとき、呪いの残滓を、私より多く、引き受けたんですか」
彼は、しばらく、目を伏せていた。
「――ああ」
「なぜ、言わなかったんですか!」
声が、震えた。怒りよりも、恐怖のほうが、大きかった。
「言えば、お前は、私にそれをさせなかっただろう」
静かな声だった。
「お前を失うことに比べれば、私の魔力が少し損なわれることなど、何でもなかった」
「何でもなくない!」
思わず、叫んでいた。
「ガレオン様、あなたが倒れたら、私は――」
言葉が、続かなかった。目の奥が、熱くなった。
エマを失ったときの、あの喪失感が、蘇る。もう二度と、大切な人を、失いたくない。
「リリアーナ」
彼が、私の手を、そっと握った。
「泣くな。私は、まだ、倒れていない」
「でも……」
「グリゼルダ。治療法は、あるのか」
彼が、団長に向き直った。グリゼルダは、険しい表情のまま、首を振った。
「魔力経路の根の損傷は、通常の治癒では、届きません。……ただ」
「ただ?」
「リリアーナ様の術式なら、あるいは。……ですが、これは、陛下の生命の根幹に触れる施術です。失敗すれば、最悪、陛下の魔力そのものが、消失する恐れがあります」
部屋の空気が、凍りついた。
「やります」
即答した。
「リリアーナ、待て。危険すぎる」
「あなたが、私のために、同じ危険を冒したんです」
彼の目を、まっすぐに見た。
「今度は、私の番です」




