表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
火刑される寸前で前世を思い出しました 北の銀狼王様に「運命のつがい」と見初められて溺愛されています  作者: 鷹居鈴野


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/31

第21話 新妻の朝

婚礼から、一夜が明けた。


王城の最奥にある王妃の私室で、目を覚ました。視界に飛び込んできたのは、白い天蓋。そして、右隣で、まだ深く眠っている、漆黒の髪の男。


ガレオン様。


昨夜、宴のあと、私たちはこの部屋でずっと抱き合っていた。何度も口づけを交わしたけれど、彼は、それ以上を求めなかった。


「暗殺者の予告がある日に、お前を抱くのは違う」


そう言って、私を、ただ強く、強く、抱きしめてくれただけだった。


(――やっぱり、ずるい)


銀の毛皮の襟に、そっと頬を寄せた。獣体ではないのに、彼の体温は、暖炉の火のように温かい。


「……起きていたのか」


低い声が、頭の上から落ちてきた。


金の瞳が、私を見下ろしていた。寝起きの、艶っぽい目。


「ガレオン様、おはようございます」


「ああ。私の妃。良い朝だ」


妃。


その響きが、まだ、こそばゆかった。


「リリアーナ。今日はもう、お前のすべきことは、何もない。一日中、私の腕の中にいてくれ」


「えっ、ガレオン様、それは、さすがに――」


「妃の役目だ」


「そんな役目、聞いてません!」


起き上がろうとすると、腕が、私を引き戻した。


「リリアーナ」


「は、はい」


答えた瞬間、彼の輪郭が、淡い光に包まれた。人の姿が解けて、見慣れた銀色の巨躯に変わる。


(――こんなときに、獣体になるなんて)


戸惑う私の頭の奥に、声ではなく、思念が直接、流れ込んできた。


『お前を、抱いていないだけで、私は限界だ。せめて、隣に、いさせてくれ』


思念の声に、もう冗談の響きはなかった。


けれど、腰に回された尻尾の先だけが、抑えきれないというように、ぱたぱたと小さく揺れている。


(――可愛い)


笑いを堪えながら、銀色の毛並みに、もう一度、頬を寄せた。


(ザイデルンの暗殺予告。三十日以内に、何かが起きる)


(でも――今日くらいは、新妻の特権で、甘えてもいいよね、エマ)


――午前中。


寝室で軽い朝食を共にした。獣人国の伝統で、新婚初日の食事は、王と妃だけで、誰の目にも触れずに摂るらしい。


オーランド執事が、銀の盆を扉の外に置いて、無言で下がっていく。二人だけで、温かいスープと焼きたてのパンを分け合った。ガレオン様は、自分の皿の白身魚を、フォークで、私の口に運ぶ。


「ガレオン様、私、自分で食べられます」


「これも、妃の役目だ」


「妃の役目、便利な言葉ですね」


「気に入っているのは私のほうだ」


低く笑った。ため息をつきながら、差し出されたフォークから、白身魚を口にした。


――昼。


部屋の扉が、慎ましくノックされた。


「陛下、リリアーナ様。アッシュ様より、緊急のご報告です」


オーランドの声に、緊張が混じっていた。


ガレオン様と顔を見合わせた。


「通せ」


アッシュが、軍服姿で部屋に入ってきた。普段の陽気な笑みは、消えていた。黄金色の瞳が、鋭く、研がれていた。


「陛下。リリアーナ嬢。やはり、来た」


机の上に、一枚の小さな銀のピアスを置いた。


「これ、何ですか?」


「ザイデルン諜報部の認証ピアス。今朝、王城の厨房に紛れ込んでいた新人の調理見習いから、押収した」


「厨房……?」


「昨夜の婚礼の宴で、料理人を増員した。獣人国民の中から、推薦のある臨時雇いを十二人。そのうちの一人が、ザイデルンの諜報員だった」


指先が、わずかに震えた。


(厨房――食事への毒)


「料理に、毒は?」


「いや。今朝の朝食、こいつが用意するはずだった。だが、新婚初日は王族専用調理人がすべて担当する慣例だから、こいつは厨房から出ようとした。そこを、白虎部隊が押さえた」


「自白は?」


「した」


にやり、と牙を見せた。陽気な笑顔ではない。獣人特有の、捕食者の笑み。


「実行犯は三人組。それに加えて、後方で指示を出す黒幕が一人。実行犯の残り二人が、王城内に潜伏中。ターゲットは、リリアーナ嬢」


ガレオン様の喉から、低い唸りが響いた。


「私の妃の、初日に、毒だと」


「陛下、落ち着いて」


アッシュが、両手を上げた。


「一人は捕まえた。残り二人は、まだ動いてない。厨房での失敗を知らないはずだ。……逆に言えば、こっちから仕掛けられる」


「仕掛ける?」


「泳がせて、動いた瞬間に押さえる。今、王城内をしらみ潰しに探しても、二人とも、もう変装して紛れ込んでる可能性が高い。焦って探せば、逃げられる」


ガレオン様が、腕を組んで、私を見た。


「リリアーナ。どう思う」


頭の中を、静かに整理した。


(相手は、私を狙っている。だったら、私が囮になるのが、一番早い)


「アッシュ様。私を、外に出してください」


「――は?」


「厨房が使えなくなった今、次に狙うとしたら、外出の機会です。市場視察でも、慰問でも構いません。私が動けば、彼らも動かざるを得ない」


ガレオン様の表情が、険しくなった。


「危険すぎる」


「ガレオン様。私は、もう火刑台で死にかけた女です。二度目の危険くらい、慣れています」


「リリアーナ」


「それに、あなたと、白虎部隊がいます。私一人で立ち向かうつもりは、ありません」


しばらく、彼は無言だった。それから、深く、息を吐いた。


「――わかった。ただし、条件がある」


「なんでも」


「お前から、絶対に、私の視界を離れるな」


「はい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ