第11話 熱病の報せ
ノーラ・セルデンの公開裁判から、二週間が経った。獣人国は、騒然としていた。ヴァルデンツ王国は、第二王子レオンの王位継承権を剥奪し、ノーラを生涯幽閉に処した。ただし、その処罰だけでは、ヴァルデンツ王国の混乱は収まらなかった。
「レオン様、また醜態だったらしい」
アッシュが、書類をめくりながら、呆れたように言った。
「王位継承権を失った途端、周りの手のひら返しが凄まじいそうだ。取り巻きの貴族は、もう誰一人、口も利かない。婚約者だった聖女の正体が国家反逆者だったんだ、無理もないが」
「ヴァルデンツ王国、貴族の死亡者数、急増中」
アッシュが、執務室の机に、書類を広げた。
「治癒師不足により、辺境貴族の領地で、熱病・破傷風・感染症が広がってる。死亡者は、もう三十人を超えた」
「三十人……」
指先が、わずかに震えた。
辺境貴族の領地。そこには、私の実家、アッシュフォード侯爵領も、含まれている。
「リリアーナ嬢の実家、アッシュフォード家からも、緊急の救援要請の手紙が届いてる」
アッシュが、一通の封書を、私の前に置いた。赤い封蝋。アッシュフォード家の紋章。父の、署名。
「お父様、から……」
ためらいながら、封を切った。紙が、震える指先で開かれていく。
『リリアーナへ。
お前が生きていると聞いた。獣人国の王の婚約者になったとも聞いた。父として、お前に詫びる権利は、もうないことを承知している。
だが、領民が、死んでいく。
熱病が、止まらない。我が領地の治癒師は、すでに二人が亡くなった。新しい治癒師は、王都から派遣されない。子供たちが、毎日、何人も死んでいる。
リリアーナ。お前を断罪したのは、私の過ちだった。だが、領民には罪はない。
頼む。獣人国の治癒派遣を、アッシュフォード領にだけでも、認めてくれ。父として、ではなく、貴族として、頼んでいる。
ジョージ・フォン・アッシュフォード』
長い間、その手紙を見つめた。
(……お父様)
(あなたが「父として」じゃなく、「貴族として」しか頼めない。それが、私たちの関係)
(でも、それでいい。私も、もう、あなたの「娘」じゃないから)
「アッシュ様。父に、会うことは、できますか?」
「可能だ。獣人国の使者として、君が直接アッシュフォード領に行ってもいい。あるいは、父侯爵を獣人国に呼びつけることもできる」
「呼びつけたい。父を、獣人国まで、来させたいの。そして、私自身の手で、条件を提示したい」
「了解」
アッシュは、にっと笑った。
「使者を派遣するよ」




