永久の恋人
ご読了ありがとうございました。
元紫龍国軍第五部隊の鵬 九狼は隠遁術を解いて現れた涼炎様を見た。
「生きておられたか…」
そう、鵬 九狼は小さく呟いた。そして涼炎様を睨みつけた。
「貴方に我々紫龍国軍は置き去りにされ…不死の呪いを受けてしまった」
涼炎様は身を震わせて肩を落とした。私と緋劉が涼炎様側に近づいて背に手を当てた。
「済まない、鵬…」
「涼炎様が謝罪すべきことではありません!謝罪し贖罪せねばならないのはお前だ!」
星笙閣下が謝罪された涼炎様を鋭く制すると、鵬 九狼に向かって叫んだ。鵬 九狼は星笙閣下を睨みつけた。
「贖罪だと?私が被害者ではないか!?なりたくもない不死にさせられ…この世を彷徨い、見つけたこの地で栄華を求めて何が悪い?私はそれが得られるだけの力を得たのだ!もうお前達の命は受けん!」
やっぱり鵬 九狼は好きになれないな…。前も偉そうで威張り散らしていたし。こんな状況で皆に見つかってしおらしくするならまだ可愛げがあるが、完全に開き直りやがった。
鵬 九狼は右手を掲げた。何をするの?
「鱗の霊力を思い知れ!」
鵬 九狼は手を前に突き出したが何も起こらなかった。思わず周防王の顔を覗き込んでしまう。
「なるほど…鵬 九狼は所持している鱗が消失していることに気が付いていないのか。彼は死人だから鱗の霊力を感じ取れないからか」
鵬は慌てて何度も術を放とうとしていた。だが発動しない、当たり前だ。鱗はすでに周防王が取り返している。
慌てている鵬 九狼の前に星笙閣下と涼炎様が静かに立った。
「お前は只の死人だよ」
「大人しく裁きを受けろ」
涼炎様が鵬 九狼の呪いの呪詛を静かに術解した。鵬 九狼の体から黒い霊力が消え去った。
鵬 九狼は唖然としたまま、星笙閣下と夏 獏南に拘束されていた。
私達は第壱特殊遊撃隊は苅中羽牟の王宮を完全に制圧した。
その後、龍王方を追いかけて進軍した苅中羽牟軍は結局、手も足も出ないままに敗戦し戦は終結した。
所詮は無理に進軍し、明歌南と白弦の二国に挟み撃ちに合い、おまけに神龍王に海上で嵐を起こされ…這う這うの体で苅中羽牟に逃げ帰っていっただけだった。
そして逃げ帰った王宮は私達が占拠していて、城に入れず龍王、明歌南、白弦と三方向から睨まれた末、全軍投降する事態になったのだ。
そして驚いたことに苅中羽牟の軍の指揮をしていたのは二百五十年前から苅中羽牟の王位に就いている不死の国王陛下だったということだ。
あの鵬 九狼にそそのかされて不死になったはよいが、不死になってしまったが故に全ての欲が消えてしまい何をしても楽しくない。楽しみも悲しみも感じなくなってしまった。そして死のうにも自死も出来ない…。
国王陛下は死なない代わりに、欲望を失くしてしまったことに気が付いたのだ。
そこで悩んだ苅中羽牟の王は、龍の鱗を手に入れて不死の呪いを解こうとしていたのだ。だったら鵬 九狼の鱗を使えばよかったのに…と聞いてはみたが、鵬 九狼は強靭で、おまけに古の霊術を使っていてとても奪い取れる隙はなかった…とのことだった。
苅中羽牟で二百五十年間在位を続けていた国王陛下は、神龍王が呪いを解くと泣き崩れて感謝を口にしていたそうだ。
「結局、不死になっても幸せじゃないのかな?」
隗兌君が神龍王に問い掛けたそれが、今回の苅中羽牟の戦で得た教訓だった。
死なないということは、楽しみが持続するということではない。終わりがあるから惜しむことが出来る。無くなることを残念に思う。この一瞬を楽しみたいと思う。
次がある…永遠に楽しめる…。それはもはや楽しみでも何でもない…のかもしれない。
そんな隗兌君も無事に軍の試験に合格して、今は私達と同じ第壱特殊遊撃隊の所属になった。
年が変わり、涼炎様は学舎で教鞭を取っている。とても忙しそうで、それと同時にとても幸せそうだった。涼炎様はその忙しい合間を縫って、私達と共に紫龍国を訪れて国民の亡骸の弔いを続けている。
その頃、もしかすると涼炎様は国の再建はしないつもりかもしれないと思い始めていた。あの島で国の再建を宣言しても国民がいないのではもはや国ではない…私ですらそう思い始めていたからだ。
「新しく国を興してもまた争いの火種を作るだけかもしれないね」
ある日
苅中羽牟との戦から数ヶ月が過ぎ、美蘭さんの桃饅頭を食べながら涼炎様はそうポツンと呟かれた。元紫龍国軍の皆もそれぞれが学舎で教鞭を取ったり、軍部の指導係になったりと、この白弦国での生活に馴染んできていた。
周防王は神龍王と共に龍の谷に帰って行って…涼炎様は少しづつ変わり始めた状況に一つ決断をされたようだった。
「国の再建はもうしないよ。亡骸の弔いは続けるけどね…でもね、それも今年いっぱいで止めようかと思う。紫龍国の島はあのままで…静かにしておいてあげたい」
「涼炎様の御心のままに」
星笙閣下がそう言って微笑まれたので、私達も微笑んだ。泯典は号泣していたけど…。
そうそう
余談だけど、鵬 九狼が捕まった後…仲の悪い徐 翠泉大将が牢屋に入った鵬 九狼を冷やかしに行ったらしい。
「いい気味でした。当時、私と付き合っていた女性をあいつが罵倒したのを思い出して、そっくり同じ言葉で罵倒してやりました。清々しました」
すげぇ…当時って二百五十年位前の出来事だよね?すごい執念深……いや心の中でも発言するのはやめよう…。徐 翠泉大将ってとんでもない霊術で心の中までも見ているような気がするからさ。
そういえば、元紫龍国軍の皆は涼炎様の眷属になって半龍?になっているけど、異性に結構モテているらしい。皆、男前だからね。(泯典除く)
婚姻に関しても涼炎様は問題無いから好きな人が出来たらどんどんしてね~と言っていたので男達は多いに盛り上がっていた。
ところがだ
婚姻第一号は、な…なんと椥 星笙閣下と來 森乃という異色の二人になったのだ。お互いに何百年と生活を共にしてきていて気心も知れている。そんな二人がこっそりと愛を育んでいたのだ。
不死の時は色々な欲望?も消えていたが呪いが解けてた時に星笙閣下は真っ先に森乃に急接近したらしい。
「意外とさ~閣下って積極的なんだよ?」
と森乃がそう言っていた。それもそのはず、お腹にはすでに閣下の子供がいるらしい。閣下は手も早い。
涼炎様は二人の婚姻と懐妊に喜んで喜んで脂下がっていた。
「私もお爺ちゃんかぁ~」
いや、ちょっと違うだろうよ?
そしてもっと余談だがその星笙閣下と森乃との間に生まれた子供が、なんと涼炎様の番になる女の子だと分かるのはもっと先の話だ。
◆ ◆ ◆
私はそれから数ヶ月の間に一応身長も伸びた。胸も……緋劉のたゆまぬ協力のお陰で少し大きくなった。
そして今も、私の隣にはすっかりお兄様になって益々格好よくなった緋劉がいる。この一年の間にまた身長が伸びちゃって…男っぽくなって何だか悔しい。
今は年末で実家の桃柑村に帰って来ている。しかし寒い…。公魚釣りに山の上の湖に来ているんだけど、さっきから緋劉ばかり釣れて何故、私の竿には当りが来ない?
「何かおかしくない?」
「何が?」
「緋劉ばっかり釣れて私っ全然釣れないよ!場所代わってよ!」
緋劉は渋い顔をして私を見た。
「場所なんて代わってもそんなに変わらないと思うけど…」
と、言いながらも代わってくれる緋劉。おまけに寒いだろ?大丈夫か?と度々聞いてくれる。
そんな気遣いの出来る男、緋劉に場所を代わってもらって数十分…やはり釣れない!
「やだ~やっぱり釣れないよぉ…」
「氷の上からでも凜華の怖さが魚に伝わってるんじゃないか?」
私はジロッと緋劉を睨んだ。ニヤニヤしながらこっちを見ている緋劉…15才。くっそ…また恰好良くなりやがって~。
「緋劉はいいよねっ!すくすく身長も伸びてさ!私まだチビチビって洸兌様に言われるもんっ!」
「凜華は標準の背丈になっただろ?洸兌様がチビって呼ぶのはもうあだ名だから諦めろよ」
「もうっ!」
と腹が立って立ち上がると氷の上でツルッと滑った。
「あわわ…ひ…」
後ろに転びそうになったのを緋劉が掴んで支えてくれた。
「急に立ち上がったら危ないだろ?」
「ごめん…」
緋劉がちょっと顔を覗き込んできた。あ…これ来るな、と思って目を瞑ると緋劉の唇が当たる感触がある。しかもちょっと激しめだ。少し口を開くとスルッと緋劉の舌が口内に滑り込んでくる。
「…んぅ…緋劉ここ…外ぉ…」
「少しだけ…」
少しだけと言いながら、またたゆまぬ協力して私の胸の成長を促してくる緋劉さん。変な気分になるからここでは止めろ!
「…っ!いつ村の人が来るか分からないから、ここではダメ!」
「じゃあどこでならいいんだよぉ~。いつもはお互いに男女別の寮住まいだし…。いつも物陰とかだし…」
「もう…来年、緋劉が16才になったら寮を退寮するんでしょう?その時に部屋借りたら…その…」
しまった…自らそういういかがわしい行為を推奨するような発言をしてしまった。緋劉はパアッと顔を輝かせた。ついでに霊力も輝かせた。
「そうかっそうだよな!来年には俺も一人暮らしだしいつでも凜華を呼べるよな!」
「いかがわしいことをする前提で話をするな!」
来年のことを想像しているのか、緋劉はすごく楽しそうだ。差し出した緋劉の手に手を重ねて二人でゆっくりと山を降りて行く。
「公魚釣れたな~」
「緋劉ばっかりね…」
緋劉に手を握り込まれる。
「俺達は二人で一緒だろ?分け合うから、いいの」
緋劉の笑顔が眩しい。ああ…幸せだな。緋劉に出会えて良かった。狼緋や翔緋の時に味わえなかった穏やかで幸せな先の未来の話を話せる。
私は隣を歩く永久の恋人に微笑み返した。
了
まだ続きを書けそうな余韻を残しつつ…完結とさせて頂きます。




