鱗の奪取
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椥 星笙閣下は静かに周りを見た。
「富を得、名声を得、贅沢を極めた者が行きつく先は何だと思う?」
皆が、首を捻っていると伶 秦我中将が
「言い方を変えれば分かりやすいですよ。お金では買えないものですよ」
「命とか?」
私がそう答えると徐 翠泉大将は微笑んで見せた。
「そうですね、それに繋がることで行く着く先は『不老不死』です。昔から時の施政者は誰しもが追い求め望み、手に入れようとしていました」
「もしかして、呪いの術で不死になって…」
緋劉がそう言って泯典を見ている。泯典も何度も頷いている。
「まあ不老は致し方ないとはいえ、不死にはなれますがね。ただ人ならざる者に変貌はします。アレは…強靭な精神力を持っていなければ、とても人として理性を保てない。我々、紫龍国の面子だからなんとか保てていた。それでも離脱した者も出ています」
翠泉大将は紫龍国の部隊の皆の顔を一人一人見ている。そうここに残っている皆は軍人だ。それも押し寄せる白龍国の不死の軍団と戦い抜いた精鋭達だ。
「教えてはくれまいか、星笙。不死の者…それはどういう変貌を遂げるのだ?見た目は只人なのは、生首を見ていれば分かる。心…つまり精神が人から乖離してしまうものなのか?」
愁釉王の問いかけに、星笙閣下は泯典や翠泉大将の顔などを交互に見てから
「では僭越ながら…」
と、椅子から立ち上がると、この詰所の中にいる皆を見渡せる位置に立たれた。
「元不死の者として実感していたことをお話し致します。しかしあくまで私が感じた、人と不死の者との違いであって、感じ方は個人差などがあると思います」
人と不死の者の違い…。皆が星笙閣下を見た。
「まずは空腹を感じません。喉も乾きません。下世話な話、色々な欲を一切感じなくなるのです。食べ物の味について何度かお話させて頂きましたが、自分の感覚ですと、すべての口にするものに味が感じられなくなります…ただ一つを除いては、それが人肉です」
皆から息を飲む音が聞こえた。
「我々は不死の者が持つ周防白龍王の鱗の回収を行いつつ…不死の者が村を襲っているという情報を掴むとすぐに討伐に向かっていました」
「待て…」
と愁釉王が手を挙げた。
「ここ数年はそんな輩に村を襲われたというような報告は上がって来ていないが?」
星笙閣下は翠泉大将を見て、大将が頷いたのを見て再び話し始めた。
「我々が討伐して…数を減らして参りました。同胞狩りと誹りを受けても致し方ない所業です」
「!」
そうか…不死になり村を襲っていた連中の中には元紫龍国軍の兵士がいたに違いない。
「そしてそれ以外の生き残りの不死の者は苅中羽牟に捕らえられた」
「待って下さい、不死の者がそう簡単に捕まるものなのですか?」
伶 秦我中将が手を挙げそう叫んだ。星笙閣下は何度も頷きながらまた一同を見た。
「皆がどうしても思い違いしてしまいがちだが、鱗の影響で『不老不死』にはなる。だが、ただなるだけだ。そこには身体能力が上がったり、霊力が上がったりなどの変化はない」
「では不死といっても恐るるに足らず、ですね」
と漢羅少尉が言った後に漢莉お姉様が、はい!と手を挙げた。
「では、苅中羽牟に『紫龍国の軍人が捕虜として捕まってませんか?釈放してくれ』と言ってみるのはどうでしょうか?」
愁釉王はちょっと苦笑いを浮かべた。
「霞夜にその話を聞いた後にすでに『紫龍国軍人と白龍国軍人を解放しろ』と親書を出している」
「!」
少しざわついたので愁釉王は手を挙げた。皆が押し黙った。
「漢岱のような柔らかい物言いではないのは、すでに何度も親書を出しすべて無視されているからなのだ」
「それは余りにも無礼ではありませんかっ!」
星笙閣下がギラッと怒って霊力を挙げられた。徐 翠泉中将も綺麗な顔に怒気を滲ませている。愁釉王は大きく息を吐き出した。
「困ったものだな…」
その時、涼炎様が静かに口を開かれた。
「先日…黒龍王、雷慈が霞夜の鱗を取り出す所を見て気が付いたことがある。我々は自身の霊力の一部である鱗を感知することが出来る。少し危険ではあるが周防と共に明歌南に乗り込んで、鱗を持つ不死の者に接触して不死から解き放つことが出来れば…少なくとも新たな不死の者を生む危険性を減らすことが出来るのでないかと思うのだが」
「しかし涼炎様、真っ向から苅中羽牟に赴くことは今は叶いません。かなり強硬な手段でないと…」
漢羅少尉がそう返した後、愁釉王がパンッと膝を叩いた。皆が注目した。
「よしっいい事を思いついた。苅中羽牟に戦争を仕掛けよう」
「ええっ!?」
愁釉王はその日はそう言い残して帰って行った。どうなるんだろう…。
そして次の日
愁釉王と慶琉夏王、四天王の皆様、私達の他に涼炎様と神龍王、元紫龍国軍人そして明歌南の咏守第一公子殿下(空守殿下の兄)、そして黒龍雷慈王のご子息、淵慈様が参加されて秘密裏に作戦会議が行われていた。
淵慈様は正式に黒龍国の次期国王を継ぐ為に、淵慈第一王子殿下の称号を受けたそうだ。雷慈王によく似た美形の王子殿下は人懐っこい笑顔を浮かべて
「これからも隣国として宜しくね~」
と仰った。そうしてとんでもない作戦を続けて口に出された。
「今回の作戦は~黒龍国と明歌南公国と白弦国、三か国の共同戦線で作戦を行います。まず私と神龍王とで、紫龍国の島の結界を解いて御霊の鎮魂祭を執り行うことになりました。これは神聖な龍の儀式という建前で供も付けずに、私達だけで島に上陸します。それは苅中羽牟にすでに通達しています」
一気にそう言い切った後、淵慈殿下は愁釉王を見た。愁釉王はニヤッと笑った後、言葉を続けた。
「そう淵慈殿下と神龍王は御身自ら囮を買って出て下さった」
「囮!?」
皆が叫んで神龍王と淵慈殿下を交互に見た。神龍王は頷いた。
「苅中羽牟は龍の鱗を欲している。現に龍の力を渡せ、強硬な手段に出るぞ…と言ってきている。そこに龍王の囮をチラつかる、という訳だ」
「そ…それは危険ではありませんか?」
私がそう言うと神龍王が少し微笑んで私を見た。
「誰に言っておる?我は神龍王だぞ?淵慈も若き龍とはいえ人間に後れを取る訳はない」
せ、正論だった。淵慈殿下はニコッと微笑んで私達を見た。
「隙があるように目一杯振舞って、苅中羽牟のやつらを引き付けておくよ」
「龍王方に引き付けておいて頂いて…ここからが本番だ」
と慶琉夏王が言いかけた時に禁軍のお兄様が駆けこんできた。そして四天王のきりちゃんの傍に膝を突くと何かを耳打ちしている。きりちゃんが顔色を変えた。
「…!密偵より火急の知らせあり。苅中羽牟が出兵しこちらに向かっているとのことです」
「!」
「っち!愚か者共がっ!今すぐ迎え撃つ。こちらが囮になるしかないようだ。致し方あるまい!」
慶琉夏王が舌打ちしながら立ち上がった。すると淵慈殿下も立ち上がった。
「大丈夫~この国に辿り着くまでに、私が蹴散らせて来てあげる。上手く引き付けて紫龍国まで引き寄せておくから!」
慶琉夏王がハッとしたように淵慈殿下を見た。神龍王も淵慈殿下の側に立った。
「少し早く作戦とやらが決行されただけじゃ。心配せんでもよい。どれ淵慈…囮に参ろうか」
「はい、神龍王」
龍達は外庭に走り出て、一気に龍化すると天高く飛び上がって行った。
慶琉夏王が私達に振り向いて叫ばれた。
「龍王方が囮になられている間に第壱特殊遊撃隊は涼炎様と周防王と共に手薄になった苅中羽牟城内に潜入!周防王の鱗の奪取と不死の者の殲滅!禁軍は苅中羽牟軍を白弦国に一歩たりとも踏み込ませるな!」
明歌南の咏守公子殿下もお付きの方に指示を出している。
「うちも苅中羽牟を誘い出すように布陣を組め!白弦国に向かう苅中羽牟を誘い出すのだ!」
咏守公子殿下と空守殿下は二人して明歌南に帰られた。帰り際、咏守殿下は私に近づいてこう言われた。
「実は私は物語を書くのが趣味なのだ。後でお前と緋劉の恋物語を聞かせてくれ。是非書物にしたい」
ひえええ~!と思ったけど咏守殿下は非常に嬉しそうにしておられたので、考えておきます…と答えた。
広間に残った愁釉王と椥 星笙閣下は私達、第壱特殊遊撃隊の皆を見た。
「分かっているだろうが、危険な任務だ。だが、遣り甲斐はある。行けるな?」
「御意!」
ニヤッと笑った愁釉王に私も笑い返した。
「久々で腕が鳴るな~」
夏 獏南がそう言って大きな目を輝かせている。この子昔っから好戦的だったものね
私達は徐 翠泉大将と涼炎様の霊術で一気に苅中羽牟の城下町に降り立った。降り立つ前に姿隠しの術を使っている。
「城門まではこのまま一気に行くぞ。城の内部に暗部の者がいる。以前、沙衣が捕らえられていた牢の更に奥に隠し扉があり、そこに不死の者が居るとの情報を得た」
口早に説明する漢羅少尉の言葉に驚愕した。
以前あの牢に行った時に不死の者が牢に居たのかもしれないの?気が付かなかった…。
以前潜入した時のように姿を消し急いで移動した。そして牢の前には…小柄な女官が立っていた。まさか?
「万」
漢莉お姉様が一言呼ぶと、その女官の人は素早く地下に降りて行った。女官の方に続いて地下に降りて行く。
以前、沙衣おばあちゃんが入れられていた牢がこの部屋の行き止まりなんだけど、女官の方はその牢の壁の下の方を手で押した。
「入口の罠は解術しております。では…」
そう言ってスッと立ち去って行った。暗部のお姉様も格好いいね!
漢莉お姉様がゆっくりと壁を手で押した。壁がゆっくりと動いていく。
「鱗の気配はするが、ここではないな」
周防王がそう囁かれた。私達はゆっくりと壁の向こうへ足を踏み入れた。そして踏み入れた瞬間すごい悪臭に鼻が曲がる。
「うえっ!?」
「臭うな…」
「凜華っ術を…」
うえええっ?すごい臭い!愁釉王に言われて慌てて臭い消しの術を使った。
「死臭だな」
緋劉の呟きに皆が息を飲んだ。そしてゆっくりと中に入った。壁の中は廊下?のようで明かりは少ない。暗いので光源の術を皆が一斉に使ったので一気に辺りが明るくなった。明るくなって周りが見えるようになって私達は仰天した。
「ぎゃ…!」
「ひぇ…!」
皆が小さく悲鳴を上げた。それもそのはずだ。廊下の壁というか壁しか無い部屋だった。そこの壁に直接鎖が打ち込まれており、その鎖に繋がれた人達がズラッと並んで座っている。
「な、亡くなっている?」
泯典がソッ…と手前の屍?に近づいた時にその屍が動いた!
「ぐっぎゃあ!」
「ひぃいい!」
泯典が叫んだので私もつられて叫んだ。音消しの術を使っていて良かった…。
「…ぁ…が…」
「生きている…!不死か!?」
涼炎様と周防王が不死の者に近づかれた。
「生きていますが…紫龍国軍の軍人ではなさそうです」
一人、一人と鎖を外し、身元を確認していった。ほとんどの者が気が触れてまともな会話が出来なかった。
そして…廊下の奥の方に繋がれていた者…四名を見て周防王が悲鳴を上げた。
「紫龍国の…!」
星笙閣下と涼炎様が走り寄った。私も泯典も…皆に近づいた。ああ…間違いない汚れてボロボロだけど…。
「李格っ!大路!」
夏 獏南が泣きながら名前を呼んでいる。緋劉も気が付いたみたいだ。私達と同じ部隊で…同い年の巳 李格と娯 大路だった。残りの二人も知っている。泯典が「先輩っ!」と言って抱き付いていた。
李格も大路も泣いていた。涼炎様が彼らの手を摩っていた。
「よく頑張った。もう大丈夫だ」
「り…えん…おう、すみま…せ…すお…おうもうしわ…け」
周防王も小さい手で彼らの手を摩っている。周防王は泣いていた。
「私はお前達に守ってもらって…生きてこれたよ?本当にありがとう」
繋がれていた者達、内四人が元紫龍国軍だった。ただ皆は不死とは言え衰弱している。
一度、翠泉大将と数名の隊員が捕らえられていた皆をまとめて連れて帰ることになった。
「ここでは治療もまともに出来ませんしね。またすぐ戻りますので」
と言って翠泉大将は見つけた十二名を連れて術でその場から消えた。
私達は周防王を囲んでこれからの作戦会議をした。まずは周防王が手を挙げた。
「少しだけ李格と話せた。彼ら四名が所持していた私の鱗は取り上げられたようだ、鵬 九狼大将に…。」
「!」
鵬 九狼は紫龍国軍、第五部隊の指揮官だ。私の知りうる限りだがすごく気性の荒い軍人で、今ここにはいない徐 翠泉大将とは特に水と油…反りが合わないことで有名だった。
「そうか…あいつが鱗を…最後の周防王の残り五枚を持っているのか…」
椥 星笙閣下が悔しそうに呟いたその時、涼炎様が…そうだ!と声を上げられた。
「周防、どうかな?鱗は近くに存在を感じますか?」
周防王は一度目を閉じてから開けて大きく頷かれた。
「感じる。方角も分かる」
涼炎様が周防王の顔を覗き込んだ。
「どうでしょうか?気配を感じるならこの場でに鱗を手元に呼び寄せることは可能じゃないですか?」
「あっ!」
周防王と涼炎様は暫くお互いに見詰め合っていたが、同時に私達を見てニヤリと笑った。
「可能だ」
おおっ!離れていても鱗って呼び寄せられるのか!皆が、ちょっと興奮して周防王に注目する。
「よしっ…五枚共一か所に集まっている…喚ぶぞ…少し離れて」
私達は周防王から少し離れた。
やがて周防王の体が白銀色に輝きだした!うわ~っ綺麗!そして…。
「周防白龍王の完全体だ…」
私の横で泯典が小さく呟いた。周防王は薄く体を発光させながらゆっくりと目を開けると微笑んだ。
「成功だな」
皆が歓声を上げた。そして涼炎様が静かに手を挙げたので、皆一斉に口を噤んだ。
「さて、ここから本番です。周防が自身の手元に喚び戻した鱗を所持していたとみられる鵬 九狼はこれで鱗の術を使えません。あくまで不死の者として存在しているだけの元軍人になりました。元は私の臣下ですが…もしこちらに敵対する意志ありと見れば……切り捨てても構いません」
「!」
皆、息を飲んだ。普段は温厚な涼炎様がきっぱりと言い切られたのを受けて、星笙閣下が愁釉王に深く叩頭された。
「愁釉王、どうぞご命令下さい」
そうか…今は星笙閣下以下、元紫龍国軍は愁釉王の部下だ。
「…っ、構わん!切り捨てろ…」
「御意!」
愁釉王は声が少し震えていた。私は一度深く叩頭した後、立ち上がった。
「邪魔だてする者は切って捨てよっ!」
「御意!」
先頭を椥 星笙閣下と夏 獏南が露払いをしながら爆走する。そして漢莉お姉様こと岩乙女の肩にチョコンと周防王が鎮座されて、黄兄弟の岩兄弟が閣下の後を走りながら周りを捻り潰していく。
正直さ
私と泯典と緋劉ともう一人來 森乃という女子隊員はすることが無い…。
実は生前、私はこの森乃とはあまり喋ったことが無かったんだけど、あれから二百五十年も経った今、彼女の面白さに気が付いて驚いていた。森乃は欠伸をしながら走っていた。
「することねぇ~な。うちら何のためにここに来てんだろうね。腹減った…緋劉、桃饅ねえの?」
「何言ってるんだよ、こんな非常事態に饅頭なんて持って来てねえよ」
「っち…頭巾ヤローは使えねぇな」
私と森乃はこの集団のしんがりを務めている。先頭が蹴散らしてくれているから走って付いて行くだけの簡単な潜入任務だ。退屈だとぼやく森乃の気持ちが良く分かる。
「私、森乃ともっと仲良くしとけばよかったー」
「なぁに?今からでも仲良くなれるっしょ?」
森乃は見た目がキツイ美人で、取っつきにくい印象があったのだが、こうやって喋ってみると実は中身はおっさんみたいな女子だった。緋劉もずっとそう思っていたみたいで
「もっと怖い人なのかと思ってた…」
と言っていたぐらいだ。泯典も実は不死の者になる前はそう思っていたらしい。
私達がしんがりで雑談をしていると泯典が仲間に加わってきた。
「実はさ周防王を匿おうって言い出したの、森乃なんだよね」
「ええっ!」
意外って言ったら怒られそうだけど、森乃は私達と並走して走りながら、照れ臭そうにしている。
こんなに雑談ばかりしていると、洸兌様あたりがこの場にいたら怒鳴られているところだろうけど、生憎と今この場には叱り役の上官はいない。
上官の皆様は戦闘行為に没頭していて私達は野放しだ…オホホ。
「私さ…不死になって怖かったよ。何か人間で有る感覚がどんどん無くなっていくみたいで、女の部分も忘れて行くみたいなさ、喪失感って言うの?星笙閣下達もさ…ここだけの話、感情が薄くなっていて…怖くなってたんだ。その時にさ傷ついた周防王を見つけてさ、痛々しいのと…可哀そうだという感情を思い出したんだよ。だから私、星笙閣下達に言ったんだ。閣下達も思い出してくれ…慈しむ心、憐れに思う心、いとおしく思う心を思い出してくれって」
森乃はそう言ってちょっと目元を潤ませていた。泯典も目を潤ませている。
「俺達は森乃の言葉で思い出した。そうだ、俺達さ感情がどんどんおかしくなっていた…って。何も感じない憐憫も起こらない。感情が死滅しかけていることにさ」
森乃は生き残ったたった一人の女子隊員だ。母性が彼女を不死の感情から救い出してくれたのかもしれない。
「これは周防王のお世話しなきゃあんなチビッ子龍が死んじまうって…焦ってたよ、当時はね」
あれ、岩乙女に担がれた周防王はチラッとこちらを振り返って微笑んでいる。話、聞いていますね?
「守りが厚くなってきた!こちらの方でしょうか?」
先頭の星笙閣下が振り向きながら立ち止まったので、皆も止まる。伶 秦我中将が何か紙を見ている。小さめの地図みたいだ。
「この奥が王族の住まいです!こちらです!」
伶 秦我中将の案内で奥の大きな扉を蹴破った。
扉を開けて踏み込んだ室内は甘ったるい匂いが充満していた。そしてその中に微かに混じる死人の臭い…。
「誰じゃ!衛兵!早うこやつらをつまみ出せ!」
奥から叫び声が上がった。
部屋の奥…大きな座椅子に複数人の人間が腰かけている…。いや、人では無い…不死の者だ。
「不死の者…」
顔色は普通の生者と変わらない。一見して不死の者には見えない…。
愁釉王が一歩前に出たので星笙閣下が膝を突いた。
「白弦国、第二皇子愁釉王と申す」
愁様の名乗りを上げた瞬間、私、緋劉、森乃そして涼炎様と周防王は室内をコソコソと移動した。そう、隠れ忍びながら…そう本当に隠れているのだ。
この場には洸兌様もキリちゃんもいないが、霊力が高い二龍(涼炎様と周防王)がいる。隠形術を教えると周防王がすぐに術を発動してくれた。頼りになる…小さくて可愛いけど。
「よし…。不死の者の数は把握出来たな?」
涼炎様に皆が頷く。森乃はすでに術を唱え始めていた。予め愁釉王と打ち合わせていた。愁釉王が名乗りをあげている隙に、少しでも多く不死の者の呪詛を解いておく。これが私達の任務初仕事だ。
「いっくよ~」
けだるげにそれだけ言うと。森乃は跳躍した。空中からいきなり人が現れたので、室内にいた者達が悲鳴を上げた。森乃は座椅子の中央に居た男に術をぶつけた。
「はい、ごくろーさん」
森乃がぶつけたのは『呪詛祓い』だ。これで不死の者は只人になった。ぶつけられた男…おそらく苅中羽牟の王族なのだろう、自分が不死で無くなったことに気が付き始めたようだ。
「…はっ…はは…あはは!はは…」
大笑いした後に、泣き出した。その場は騒然となった。逃げ惑い叫ぶ者達に私達は呪詛祓いをしていった。
不死の者が次々只人に戻り、私達に捕縛されている中…最後まで不死の者として残っていたのは
鵬 九狼元紫龍国軍大将ただ一人だった。




