永久の婚姻
長い説明回になります。胸糞展開がありますのでご注意下さい。
8/11誤字修正しています。
扉を開けて部屋の中に入った瞬間、懐かしい圧倒的な霊力を感じた。
「あ…」
「これ…」
入った先にもう一つ部屋があって、私と緋劉は急いで奥の部屋に駆け込んだ。
奥の部屋の寝台には綺麗な紫色の長い髪の美しい男性が微笑んでいた。
「涼炎王…」
「翔緋、三鶴花…」
懐かしい優しい声音に名を呼ばれてブワッ…と涙が溢れた。
私は寝台に座る涼炎王に向かって駆け出した。緋劉もほぼ同時に走り出していた。
涼炎王は寝台の上で両手を広げていた。その腕の中に迷わず飛び込んだ。
「やっと会えたな。元気だったか?」
「はぁい…はぃ…元気で…うえぇぇん…」
緋劉と二人で大泣きしてしまった。懐かしい優しい霊質が私達を包んでいる。間違いなく涼炎王だ。
「まだ小さい童かな?どうやら永久の婚姻は上手くいったみたいだな!今、何回目の転生だ?」
「二回目です。一回目はお互いに三鶴花と翔緋の事を憶えていなくて…でも幼馴染で仲良かったんです」
緋劉がそう答えると涼炎王は目を丸くした後、感慨深げに目頭を押さえた。
「翔緋…お前そんなにハキハキ答えて、大人になったんだね。成長したな…」
ほら、見なよ?緋劉よ。あんた翔緋の時に周りからどれほどヘッポコ扱いされていたか分かるだろう?涼炎王にすらそんな扱いだよ?
緋劉は真っ赤になると何故だか私を見て
「俺だってちゃんと出来るんだからなっ!」
と三才児の一人で出来るもん!みたいな子供の言い訳をしてきた。
なんだかなぁ…しょっぱいわ。
さて気を取り直して
私達は部屋の隅に置いていた卓を持ってきて持参した茶菓子やお茶を準備すると涼炎王にお出しした。
「おおっ蒸し饅頭か…ここは菓子があまりないから、嬉しいよ」
涼炎王は嬉しそうに蒸し饅頭と胡桃饅頭を両手に持って食べていた。そう言えば黒龍王も両手に持って食べていたけど、龍族の正式な食事作法なのかな?そんな訳ないか…。
「さて、私が倒れた後、何があったのか教えてくれ」
お菓子を食べ終わりお茶を入れた後、涼炎王に促されたので、私が代表して話を始めた。
涼炎王の炎の攻撃でも残った不死の者を紫龍軍の兵と共に殲滅して回った事。翔緋が先に亡くなり、次いで私が倒れたこと。一度は生まれ代わったが、私は15才で死んでしまったこと。そして今は白弦国で二人共軍人であること。
「実は臣下の証として涼炎王に頂いた鱗を恐らくですが、亡くなった後に二人共が奪われてしまったようで…黒龍王の閉じ込め事件…と言っていいのか…その封印の手段に使われてしまいました」
涼炎王は「あ~」と言いながら頭を掻いていた。
「そうだな、あれは~失敗したな…実はな、鱗は持っているだけでは効果が無い。正式な臣下の証には術式が必要なのだよ」
「そうなんですか…」
涼炎王は私と緋劉の頭を撫でながら話を続けた。
「正式な臣下の証は鱗を体内に力として取り込む術式をかけないといけないのだよ。便宜上、臣下の証と呼んではいるが…正式には鱗の力で龍の眷属にするということなのだ。私と同じ年数を共に生き…そして私が死んだら一緒に死んでしまうのだ、私の眷属だからな」
「あ…」
緋劉が気が付いて声を上げたら涼炎王は苦笑いを浮かべた。
「そう…お前達を道連れには出来ない…と思っていたのだが、永久の婚姻をしたいと言うものだから~いやあ、参った。結局一緒に長き時を生きてくれるとはな。流石我が息子と娘だ。しかし私も死なずに済んだし…今更ながら臣下の証を体に収める術をしておけばよかったな。雷慈にも黒龍国民にも本当にすまんことをしたわ。おまけに臥せっていた私の看病で神龍王様は龍の谷をぬけれなくなったし…悪い方悪い方になってしまったな…」
「本当に悪いのは私達の鱗を奪って、黒龍王をあんな所に閉じ込めたタヨだか、マロだか言う輩ですよ!」
私がそう言うと涼炎王はふむ…と言って考え込んだ。
「その鱗を使った封印な…。一度神龍王と雷慈も交えて聞いてみたいことがあるんだが…付き合ってもらえるか?」
私達は大きく頷くと、すぐに淵慈様を呼び、神龍王、黒龍王、王配の鷹人様、淵慈様の皆様で集まった。
「少し事案を整理したいのだ、まず周防の国で鱗の争奪が起こったのがきっかけ…で間違いないかな?」
涼炎王の問いかけに黒龍王が「その事だが…」と言葉を挟んだ。
「私もあれから周防の気配を感じないし…実際の所は良く分からないのだが、鱗を何人の臣下に渡してしまったのだろうか?そもそも鱗の力で不老不死…の生き物になるものだろうか?」
何となくだが神龍王に皆の目が行く。小さな可愛い見た目の神龍王は小首を傾げていた。
「私もすべてを知っている訳ではないが…臣下の一人が鱗を飲んでしまった…と周防から報告を受けた。正直初めての事態だった。後は二人に鱗を渡したと聞いている。何度か周防を探しに白龍国の存在していた地域に足を運んではいるのだが…周防の気配も無いし…遺体も見つからない…龍は死せる時は龍のままだ…」
神龍王は顔を上げて私と緋劉を見詰めた。
「先程、後で話があると言っておったのはこの話の続きを話そうと思っていてな。つまり、鱗の効力は鱗の持ち主が生きている限り続く。周防が身罷ったと判断するのは、白龍国にも紫龍国にも不死の者の姿が無いことからだ」
「鱗の力が無くなって不死の力も無くなった…ということですね」
緋劉の言葉に神龍王が頷き返した。
「この事から判断するに、黒龍国で今だに現れている、異形のモノと言ったか?あの不死の者のような存在は別の鱗の力で動いていると思うのだ」
「別の鱗…。あっ!母上が霞夜にあげた鱗かっ!」
淵慈様の叫びに皆がハッと顔を見合わせた。
なるほど、そうかっ!今まで黒龍王を閉じ込めて何をしたかったのかと思っていたが…これで合点がいく。
「そうか、霞夜…。そう言えば私が鱗を授けた時に霞夜が…永久の婚姻と臣下の証…どちらが長く一緒にいられますか?と聞いてきたな…」
「雷慈はなんと答えたのだい?」
王配の鷹人さんに聞かれて、黒龍王は数百年前のことだろう…目を瞑って思い出そうとしていた。
「どちらも同じ術者が施した術なら効力が切れるのは同じ。ただ鱗は龍が生きている限り続く…」
皆の視線が黒龍王に向かう。もしかすると…。
「そうか、生きたまま黒龍王を閉じ込めたのは…鱗の効力を持続させて不老不死になりたかったんだ!あれ?でも待てよ?扉の封印は涼炎王の鱗ですよね?あの当時の涼炎王は生死の境を彷徨っておられたから鱗の封印はすぐ効力を失ってしまうかもだし?それじゃあ何のために閉じ込めたの?」
緋劉が混乱してきたのか私の顔を見てきた。涼炎王が静かに手を挙げた。
「まあ待て、そもそもの霞夜の目的が不老不死じゃないかもしれないよ。つまりは臣下の証は効力の続く限りは不老不死だ。しかし臣下になってしまっては鱗の力を別の事には使えない。さすがに雷慈も霞夜が良からぬことに鱗を使おうとしたら窘めたし鱗を取り上げただろう。…だからこう思うのだよ。あくまで私の鱗で雷慈を部屋に閉じ込めたのは時間稼ぎ…雷慈に邪魔されることなく、雷慈の鱗を使って何かをしたい目的があったのではないかな?まあ私が延命してしまったが為に、雷慈が長きに渡りに閉じ込められることになったのだが…」
涼炎王は自分で言って自分で落ち込んでいる。
黒龍王の鱗でする目的…。
「世界征服とか?あはは…」
私がそういうと鷹人様は顎に手をあてて少し唸ってから私に言った。
「世界の覇者になりたいのなら、雷慈を閉じ込めた時点でほぼ叶っているね。周防も滅びて…涼炎もほぼ壊滅…鱗の霊力でこの辺りの国々の頂点に立てたはずだ」
本当だ…。それほどの力を手に入れたのに…異形のモノを作る…つまり不老不死になろうとしていた。何の為に?
「永久の婚姻か…。あの王族の第三王子を思い出すな」
「王族の第三王子?」
緋劉が神龍王に聞くと神龍王は頷かれて私と緋劉を交互に見詰めてから話し始めた。
「今から五百年ほど前かな…私もその当時は龍の谷ではなく、人間と同じ土地に住んでいたのだ。その時に世話になっていた国の第三王子が永久の婚姻をしたいと申してきたのだ」
ふんふん、あれ?これ…前にきりちゃんから聞いた永久の婚姻の逸話で…三鶴花の時に涼炎王に聞いたあの話で~あれ?第三王子?
緋劉が恐る恐る手を挙げた。
「あの…間違っていたら済みません。俺はその王族が婚姻した相手って男性だと聞いていたのですが…?」
「おお、そうだ。第三王子の相手は男性だ」
ひえええっ…いやいやそういう趣向の方もいるのは知っているよ。ちらりと漢莉お姉様の厳つい顔を思い出したのは自然な事だ。
神龍王は深く息を吐き出した。
「その第三王子、蝋慧はとても熱心に訴えた。『自分は王族、相手は平民。身分違いで添い遂げれない。あげくに同性とくれば尚更だ。恋人の男とは隔離されて全く会わせてもらえず、恋人の方は親族の陰謀で女性と婚姻させられてしまった…』と、訴えてきたのだ」
それは…可哀相だ。同性とはいえ愛する二人を引き裂くなんて…。
「私も婚姻の術は術をかける二人が同じ場所に居る必要があるから無理だと何度か断ったのだが…『今世で添い遂げれないなら、来世で添い遂げたい』と泣き付かれてな…。恋人を連れ出せて私の前に来れたら婚姻の術をしてやろうと言ったんだ」
そう言えばこの婚姻できりちゃんから聞いた逸話では、王子が婚姻相手に刺されたよね?つまり恨まれてた?まさか…!?
「蝋慧は若い綺麗な男を連れて来た。男は気を失っていた。ここに来る時に追手に追われて…体力を使って…と蝋慧は説明して追手が来る前に早くしてくれ…と言ったので、永久の婚姻の術をかけたのだ」
「かけてどうしたのですか?」
「実はな…術をかけた後に蝋慧とその恋人が心中してしまってな。来世で添い遂げるつもりなのだな…と思ったのだが…。私はとんでもない間違いをおかしておってな…。それから数百年後に一人の男が私に会いにやってきた。蝋慧の生まれ変わりだった。蝋慧の生まれ変わりは私に詰め寄ったのだ『どういうことだ、榛葉の記憶を持っている男が榛葉じゃない』と言うのだ。おかしなことを言うもんだなと…すれば榛葉を連れてこい、と言ったんだ。そうして榛葉の生まれ変わりにも会ったんだよ」
「どうだったんですか?榛葉でしたか?」
緋劉が聞くと神龍王は何度も頷かれた。
「間違いなく榛葉だった。すると榛葉は私に会うなり蝋慧を指差しながら『あいつに前世で殺されかけた、と…捕まって気が付いたら刺されていた!』とそれはそれは怒っておった」
「こ、恋人じゃなかったのか?」
黒龍王が茫然としたまま呟いた。
「もっと恐ろしいことにな…。蝋慧もこう言ったのだ『榛葉の記憶を持っていてもあいつは別人です。私の榛葉はもっともっと美しく綺麗だった』と…。私は蝋慧に説明した。魂は同じでも肉体は常に別だと…永久の婚姻とはあくまで、同じ時間軸で廻り会えるだけで再び愛を睦めるかは本人達の気持ち次第だ…と」
「もしかして…その第三王子って、榛葉さんの外見だけが好きだったの?」
私がそう言うと緋劉と目が合った。翔緋は確かに美形だったけど狼緋は普通の顔?だったし…今の緋劉もまあ男前だけど…顔は私には全然関係ないもの…。中身が翔緋だから…。
皆の溜め息が室内に溢れた。神龍王は言葉を続けた。
「更に榛葉はこうも言った。前世の自分は婚姻していて娘もいた。城の兵士をしていて第三王子に懸想をされていて…困り果てて国王陛下に直訴したんだそうだ。仰天した国王陛下が辺境の警備に配置換えしてくれて家族と一緒に王子の手の届かない所へ避難していたのらしい」
「ひえええぇ…」
「じゃあ無理やり婚姻ってことですか…」
神龍王はがっくりと正にがっくりと肩を落としていた。
「あの蝋慧とは心根が根本から曲がっておったようだ。榛葉と自分は愛し合っている。家族に邪魔されて会えない。そう思い込んでいるから霊質にも陰りが無い。私も騙されてしまった。榛葉にも申し訳ないことをしてしまった」
もう最後まで聞くしかない。
「それで榛葉と蝋慧はどうなったのですか?」
「蝋慧がこれは榛葉ではないので婚姻は解いてくれと言い、榛葉はこんな男とは関わりたくないと言って双方の意見が一致したので速やかに術を解いたのだ」
ある意味向いている方向は違うけど双方とも結論は同じだと…。
「人間の妄執とは恐ろしいですね」
淵慈様がぶるりと身震いした。黒龍王が神龍王に「では…」と話しかけた。
「蝋慧はそれで納得されたのですね」
ところが神龍王はもっと深い溜め息をついた。
「その後も何度も榛葉はいつ生まれ変わるのか、どうすれば会えるのかと…しつこく聞かれてしまってな。全く同じ体の人間に再び生まれ変わることは無いと。そもそも片恋なのを相手の了承無しに強引に連れて来るなど二度とするな…と追い返したんだが…」
「だが…?」
皆の声が揃った。神龍王は益々肩を落とされた。
「それから数年後にまた蝋慧がやってきたのだ。『榛葉を見つけた。早く永久の婚姻をしてくれ』と」
「それおかしいですよ!絶対榛葉さんじゃない別人だ!」
「もしかして自分好みの美形男子とか…。ひぇぇ…」
緋劉と私の叫びに神龍王様は泣きそうな顔になった。
「蝋慧は病んでおったのかな…もう止めよと、それは榛葉では無い。本当に思い合っている者同士なら二人で手を取り合って訪ねて来い、目を覚ませ…と説得したが、もう手立てはあるので当てにはせん…と帰ってしまってな。婚姻の術をかけている時は蝋慧の居所は術で繋がっておるので分かるのだが…。そこでだ、涼炎の臣下の者よ」
「は、はい!」
思わず前のめりになる。
「雲を掴む様な話で申し訳ないのだが…蝋慧を見つけ出してくれないか?」
「ええ!?」
緋劉と顔を合わせる?出来る?でも今までの話を聞いてても、かなり変質的な方みたいだし…でももし放置しておいたら…
「これは世の美少年の安全と未来の為に私が立ち上がらなければいけないわね!」
「ちょ…おいっ凛華!?安請け合いしても…」
「ちょっとお待ちください、神龍王。蝋慧とやらが五百年ほど前の世代の人間だとして一度生まれ変わってますよね、それで…誰に生まれ変わったのかも分からないのですよね?本当に雲を掴む様な…」
神龍王はちょっと待て…と言ってゴソゴソと懐を探っていた。
「おおこれだ、この水晶に私が会った蝋慧の生まれ変わった姿を記憶の残像を見せることが出来るのだ。これで蝋慧の生まれ変わった姿を映して…」
「ちょっとお待ちください、神龍王。蝋慧の生まれ変わりに会ったのは何年前の事でしょうか?」
涼炎王様が更に激しく神龍王様に突っ込む。オタオタする神龍王様…。
「え~と、周防の事件の少し後かな…?」
「二百年以上も前じゃないですか!普通の人なら当に亡くなってますよ!」
「な、何?しまった、それじゃあ無駄かの…」
怒られている神龍王が可哀相で思わず助け舟を出してみた。
「あの、私達数百年生まれ変わってますので、もしかしたらどこかで会っている人かも?ですよ」
神龍王はパアッと笑顔になった。
「ホレ、三鶴花もこう言うておるし…兎に角見てみようぞ!」
涼炎王は渋い顔をしていたけれど、取り敢えず皆で水晶を覗き込んで見た。
「おおっ誰かが映ってきた…」
水晶には二人、一人は眠っている男の人が映って…あれ?
「眠っている人、洸兌様に似ているね!」
「おお、ホントだの。洸に似ておるわ。これは誰?」
「これは生まれ変わる前の榛葉だ。その横に立っているのが蝋慧王子だ。」
はあ…と言わざるを得ない…これと言って特徴の無いお顔の蝋慧王子だった。そして…二人の姿が消え…今度は中肉中背のこれもまた特徴の無いおじさんが映っている。
「これが二百五十年くらい前か?の蝋慧の生まれ変わった姿だ…。隣にいるのは榛葉の生まれ変わりだ」
正直に言って榛葉の生まれ変わりの男性でも、格好が良い。なにが榛葉と違うというのか。
「このお兄さんでも十分格好が良いよ…何がいけないんだよっ…。勿論榛葉さんにしてみれば勝手に見初めてきて大迷惑だろうけど」
ガタン…と音を立てて突然、黒龍王と王配の鷹人様お二人が、椅子から立ち上がっている。ど、どうしたの?
「霞夜だ…」
「へ?」
黒龍王がワナワナ震える手で水晶を指差した。
「このこの…蝋慧の生まれ変わりは…霞夜だ」
「えええっ!?」
緋劉と二人絶叫した。
とんでもないことになりそうな予感がするよ…。




