表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緋華の追憶  作者: 浦 かすみ
紫の龍

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/32

番外編 ~過去~ 榛葉

過去の番外編です

本編と内容はリンクしていないので読まなくても問題ありません

かなりの胸糞展開と軽い性的な表現があることをご注意下さい。


軍に入隊した時に、先輩と上官から


蝋慧(ろうけい)王子殿下には気を付けろ」


と言われたので少し聞き込んでみると、洒落にならないそちらの趣向の持ち主だというのが分かった。


別にそちらの好みにあった同士で恋愛なり、お付き合いとかしてくれているのは構わないのだけれど…。蝋慧殿下に限っては自分の好みの男がいたら付き纏ったり…無理やり迫ったり、襲ったりと兎に角ひどいらしい。


「襲われて…もう立ち直れなくて軍を辞めた子もいるんだ」


と、先輩に聞かされた時は腸が煮えくり返った。王子だからとか大人だから…とか関係ないね。そんなの罪人じゃねぇか…王族だからって野放しかよっ…。


「お前は特に綺麗だからな…気を付けろ」


俺は襲われちゃ敵わんと思い…自衛出来るように体を鍛えた。それでも一兵士と王子殿下だ、特に接点も無いので俺や先輩達の危惧するような事は起こらず、無事に二年ほどが過ぎた。


実はこの間にも一人犠牲者が出ていた。地方役人の線の細い男の人だ。ずっと付き纏われて…逃げきれずに何度も…だったらしい。その男性は自殺していた。


流石に軍の元帥や筆頭公爵家の宰相からも嘆願が行われて、とうとう第三王子殿下を軟禁することになったらしい。


本当にたまたま俺は場内警備でその現場に出くわしたのだ。


遠巻きに見守る城の女官や警護の人の合間に立ってチラ見していたのだが、軟禁用の格子の入った部屋に移動している蝋慧王子と目が合った。


正直マズい…と思ったんだ。


蝋慧王子は目を見開き、足を止め


「ここにいたんだねっ僕の愛しい人っ!」


とか反吐の出そうな言葉を叫びながらこっちに走って来たんだ。俺は咄嗟に逃げた。後ろで怒号と叫び声が上がっていたけど、知るもんか。


そんな騒ぎがあって、上官に呼び出された。何故か宰相と女官長までいる。


「まず最初に確認だが、お前は…違うよな?」


何が違う…とは聞かない。大きく頷いて


「可愛い女の子が好きです。今もお付き合いしています」


とはっきりと言った。三人の上官達は大きな溜め息をついた。


「あんなに理路整然と榛葉(はるば)との付き合いのアレコレを言われたら信じそうになるな…」


「あんなにあなたとの…その、熱烈な愛情の…。ねえ」


「女官長やめて下さいっ!」


俺は悲鳴をあげた。女官長が顔を真っ赤にしてごめんなさいね…と謝罪した。


「あれは病気ですよ…不敬を承知で言いますが重篤な病です」


宰相がばっさりと切り捨てると皆が、先日の亡くなった役人の方の事件を思い出していたようだ。皆、沈痛な面持ちだ。


「同性でも異性でも関係あるものか、あんなものは罪だっ」


俺の上官が吐き捨てるように言った。


「兎に角榛葉…アレが馬鹿みたいに騒いでいてな…あまりに真剣なのでうっかり信じてしまう愚か者もいるのだ。現に榛葉と面会出来るように取り計らってあげれば…と数人から言われている」


宰相の言葉に度胆を抜かれた。


「や、やめて下さいっ…面会なんて…まともじゃない人と向き合って襲われでもしたら…」


俺が悲鳴を上げると女官長が肩を摩ってくれた。


「接触させるのは危険ですわ…。若い女官でもたまにありますのよ?年嵩の侍従に言い寄られて…無体をされて…。それと一緒ですわっ…」


女官長の声は震えていた。


その日…同じく城で針子の仕事をしている俺の彼女の紗璃(さり)が騒動を聞きつけて、軍の寮前で俺の帰りを待っていてくれた。


「榛葉…聞いた。大変だったね…」


「紗璃…うん、気を付けてはいたんだけど」


寮長が外で話している俺達に気が付いて宿直室に二人を入れてくれた。寮長も怒っていた。


「俺の同期でやられたヤツいるんだよ。田舎に帰って…そっちの道に入ってしまったらしい」


うわぁぁ…聞きたくなかった。俺にはそのケはないけれど…紗璃が泣き出しそうな顔をしていた。


「榛葉大丈夫なの…?」


「そっそっちの方は大丈夫だ…。ただ上官達が気にしてて…」


それからが地獄だった。本当に蝋慧殿下の話を信じた輩が、無理やりに面会させようとしたり…現に何回か二人きりにさせられて、わざと大声で叫び、悲鳴を上げて助けてもらったり…気持ちの悪い手紙が何度も送られてきたり…軟禁部屋から逃げ出して来た蝋慧殿下に…マジで襲われそうになったり…全力で逃げたり…。


「もう限界だ…。今上官に掛け合って来て辺境警備の任務にまわしてもらうように頼んできた」


俺が針子室から連れ出した紗璃にそう告げると紗璃は泣き出してしまった。


「紗璃…無理を言うけど一緒に辺境の齊田(さいだ)まで来てくれる?俺、紗璃じゃないとダメなんだ。婚姻してくれない?」


紗璃はその時に別れを決意していたのだと、後ほど聞かされた。


紗璃は号泣しながら何度も「うんうん、一緒に行く」と言ってくれた。


俺は紗璃と婚姻を済ませた。嬉しいことにすぐに紗璃は懐妊し、身重の体で一緒に齊田に引っ越ししてくれた。やがて齊田で子供も生まれた。女の子だ…親子三人でとても楽しかった。


辺境に行っても気味の悪い手紙は届いていた。辺境伯も宰相から事情を聞いていたので、その手紙を汚いものでも摘まむかのようにして火にくべていた。


「こんな妄執のつまった呪い文など見んでいい!」


辺境伯は現国王の弟殿下で、蝋慧殿下の実の叔父上にあたる。辺境伯領には、王子からの狼藉を受けた男性が数名暮らしているらしい。


俺が会ってみたいと言ったが、直接に会って刺激しては…被害者の心が乱されるからダメだと言われた。それほどに実質の被害にあっている人に心の傷を与えているのだ…あんの腐れ王子め…。


休日に娘と庭先で遊んでいると紗璃に呼ばれたので、少し家屋に入ってから外に出ると娘の姿が見えない。名前を呼び、か細く叫ぶ娘の声がする方向へ足を向けると意識が昏倒した。


しまった…何かの術だ…。


油断していた。


体が重い…。俺の事を好きにしたいなら…すればいい。ただ娘と紗璃にだけは手を出すな。出しやがったらただじゃすまねぇ…。


意識が浮上してきた…体の圧がある。俺の下半身の上に…あの王子の頭が見える。しかも王子とお互いに手を握りあっていた。


総毛だった…。体が動かない…それにおかしい。体が熱いし…お腹まわりが痛い。


「…!」


俺の腹から血が出ている!慌てて治療霊術を使った。治療はそれほど得意じゃないけどやらないよりマシだ。出血は止まったようだ。そしてなんとか力の戻って来た手でアイツの手を力一杯振りほどいてやった。王子は振りほどかれてゴロンと転がり…俺の方に顔を向けた。蝋慧王子は事切れていた…。


「うわあああっ!離れろっ…離れろぉぉっ!」


俺は転がってきた蝋慧王子を蹴り倒した。不敬だとか…狂っているとか、後で問題になるとか…どうでもよかった。


人を苦しめ…皆を悲しませ、怒らせ絶望させる、この人外の魔物から一刻も早く離れたくて必死になっていた。


「はぁ…はぁ…」


時間はかかったが、何とか王子の亡骸と距離を取り、自分の刺し傷の治療霊術を重ねていく。このまま治療が追いつかず、死ぬかもしれない。


意識が朦朧としてきた。


やがて誰かの声が聞こえて来て…数人に囲まれた。


「榛葉…聞こえるか?大丈夫か!?」


ああ、前の上官だ…。


「腹を刺されておる!治療術士を呼べ!早くっ」


辺境伯もおられる…。


「伯…娘と紗璃は無事ですか?」


「ああ、ああ、安心せい。娘は軽い擦り傷程度だ。お前がいなくて探して泣いておるがな」


良かった…。二人が無事なら構わない。


そして


俺はなんとか助かった。蝋慧王子は俺を刺した後、自らを刺して自害しようとしたらしい。


噂が噂を呼んで、二人一緒に心中したとか、付き纏われて恨んだ俺が王子を刺した…とか言われているけど、もう関係ない。


周りも公然の秘密として扱っているが…皆がアレの狼藉を知っている。


後に蝋慧王子が王籍から抹消させられた…と聞いた。当然の扱いだ。正直もう亡くなっているけど、絞首刑でもいいくらいだ。今までアイツに辛い思いをさせられた者、皆で最大級の恨みを籠めて投石の刑とかでもよかったんじゃないか…とすら思えてくる。


あいつがいなくなってせいせいした…。


次から本編に戻ります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ