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緋華の追憶  作者: 浦 かすみ
黒き龍
18/32

番外編 三鶴花と翔緋

番外編です

黒き龍の章は最終話になります。

8/11誤字修正しています。


砺巍 翔緋(れぎしょうひ)は頭巾を被っていて表情は読めないわ、必要なこと以外はほとんど喋らないわ…で本当に何考えてるんだから分からない男だと思っていたんだけど…。


「俺達って寿命短いな…」


ポツンと呟いた言葉に、私は顔を上げて私の上司の頭巾君…翔緋を見た。彼はまだ十九才で私より一つ上だけど軍での階級は二つ上。兎に角無口な人…。でもたまに喋ると良きお声で実はうっとり聞き惚れているのは、これ内緒です。


「人間の寿命は百年持てばいい方ですよね~何です?龍王の寿命と比べたのですか?」


私がそう聞くと翔緋はコクン…と頷いた。


「涼炎王は二千才くらいでしたか?すごいですよね…。」


「前…涼炎王、また置いて行かれたな…って…姫平将軍亡くなった時…言ってた…。」


「きへーのじいちゃんは九十五才ですよ?人間でもご長寿ですよ~でも確かに涼炎王からみたら若いですよね…。私は…あそこまで長生きできる自信はないですね。あ、案外明日、死んでたりして…」


ガタタッ…と翔緋は椅子を鳴らして立ち上がってまた座り直した。


何やってんの?


「そういえば涼炎王に聞いたのですが、少し前にどこかの王族が神龍王に頼んで、記憶を残したまま生まれ変わって廻り合わせる術を使ったんだけど…相手の男から拒絶されて術を曲げたとか?なんとかで揉めたのがあったんですって!長寿じゃないけど人間が長い時を廻るって大変ですね」


「三鶴花は…記憶を持ったまま生まれ変われたら…涼炎王にもう一度仕えたいとか思わない?」


「あ…ああ!なるほど~、はい。確かに婚姻は恋愛が絡んで揉めそうだけど純粋にずっとお仕えするっていう点ではいい術式ですね」


その時は翔緋の奴、何か考え込んでんのかな?とか思ってたんだけどね。


まあそれから頭巾君ともちょこちょこ喋るようになって、いつの間にやら一番仲の良い友達になった。


「それが、どうしてこうなったの?」


「さっきいいよって言った」


「言ったけど…お付き合いはいいですよ…って意味でそこ飛び越えていきなりって言うのは…」


「ダメ?」


ていうかさ~二人で夜、食事に行った帰りにさ、家の前で「恋人になって」っていきなりの告白って…もっと良い場所とか良い雰囲気とか選べないのか!?…って怒りたい所だけど。まあ…人見知りの頭巾君だしね。


それよりももっとびっくりしたのがさ…。


翔緋の頭巾の中の顔…すっごく綺麗なんだけど?私…あの頭巾って翔緋が顔に痣とか怪我の跡があって、それを気にしてつけてるのかと思ってたんだけど…。


どういうことだよ!女子もびっくりの陶器肌だよ!シミなんかないよ!睫毛長いよ!瞳が綺麗だよ!こんな綺麗なのに何故顔を隠しているの?


聞けないなぁ…うん。多分そこが地雷っぽい。


私が黙っているのをいい事に、翔緋は軽く口づけをしてくる。翔緋の瞳を見詰めると、綺麗な目に涙が溜まりかけていた。


「翔…緋?どうしたのですか?」


翔緋は首を横に振ると「違う違う…何でもない」と呟いて涙を指で拭った。


女子より美しい泣き姿で在られまするよ?


「嬉しすぎて…三鶴花と…こんなの夢みたいだ…」


うおぅ…この綺麗な翔緋さんはどうして私なのでしょうかね?ジッと翔緋を見ていると、また口づけられた。結構深い…舌でコンコンと歯を突かれたので、恐る恐る口を開けてみると、スルリと翔緋の舌が入って来た。


これはこのまま…なのかな?おいおいちょっと待って…まっ…てぇ……。


その後、寝台の上でねっちょりと…しつこいくらいに…起きられないくらいに…させられましたよ。


まだ夜明け前…ねっちょりした行為からやっと解放されて寝台の上で水を飲んでいた。


「疲れた…痛い…有り得ない」


私の横には美しい魔物のようなねちっこい男が微笑んでいる。体力馬鹿なんだなコイツ…。


「明日休みで良かったわ…」


「知ってた」


「……」


綺麗な顔して…イヤ、顔は関係ないか…こいつ…。はぁぁ…まあいいか。


私は寝台に再び倒れこんだ。私を抱え込んできた翔緋の腕の中…やだな気持ちいい。


「明日俺も休み。実家に行こう…両親紹介する…」


早っ!展開早っ!もしかして最初から計画的!?


「こういうのはまだ先でもいいかな…と思ってたけど、止められなかった」


おおぃ止めてくれよ!翔緋はまたチュッチュッと口づけてくる。体が疲れて防御したくても腕が上がらない。何とか霊物理防御結界を張った。翔緋に文句を言われたけど安眠が大事だった。


翌日


挨拶に訪れた翔緋の実家が公爵家だと初めて知って、びっくりして帰ろうとしたんだけど翔緋に泣かれた。渋々、じゃあ取り敢えず付き合ってまーす…ぐらいは言っておこうか…と思いお邪魔して…。


ご両親から無記名の婚姻届を渡された。ここで早く書いて!と急かされた。


なんだこの親…?私には親がいないけど、このご両親がちょっと変わってるのだけは分かった。


私は孤児で後ろ盾もなく公爵家にふさわしくありません…と言ったら今度は三人に泣いて縋られた。どういうことだ。


なし崩し的に私と婚姻した翔緋は、私の一人暮らしの家に越して来た。毎晩イチャコラして…朝は一緒に出勤。当然涼炎王にバレた。


「早う、私に報告せんか!馬鹿もんが!」


「済みません…」


何故か私が一方的に涼炎王に怒られている。あれ?もしかして私が翔緋にベタ惚れ設定でしょうか?


「それに永久の婚姻の術もせねばならんしな、いつがいい?」


「はぁ?」


涼炎王を締め上げ…もとい問い質し、聞いた所によると先日どこぞの王族と男性とで強引にかけられて揉めた『永久の婚姻』術を翔緋が私とかけてみたいと言って来たとのこと…。


そ、そう言えば私ってばうっかり涼炎王にずっとお仕えするには良い術式…とかなんとか言って肯定してたじゃないか!


それはあくまで恋愛が絡んでないから良い術式であって、私と翔緋じゃ今は恋愛が絡みまくっているから…。


「三鶴花は俺とじゃ…永久に愛し合えない?」


翔緋に問い質すと、悲しそうに泣かれた。


う…ぉっとまたも泣き落とし…。これ私が悪いのか?翔緋にこれ以上文句も言えず…取り敢えず怒ってはおいた。


「そんなこと言って…もし翔緋が私のこと大嫌いになったらどうするのよ?一回かけたら解術は難しいって…そんな簡単に…」


翔緋は私の手を取って膝を突いた。な、何?


「俺は…三鶴花に会えて…廻り合えて僥倖だ。永遠の番…」


コ、コイツっ!普段何を考えてるのか全然悟らせないくせに…こんな時だけ霊質の全部を見せてくるんだから!


翔緋の霊力が私を包み込んでくる。こんなの…こんなの反則じゃない。霊力が私を好きで好きで堪らない…て訴えて来てるじゃない…。


翔緋に抱き付いた。


「俺の勝ち」


「勝負じゃない…。バカ」


「大好き」


「知っているぅぅ…」


二人揃って涼炎王にご挨拶と永久の婚姻のお願いに伺った。涼炎王にも泣かれた。


……意識が途切れそうになった。


昔のことを思い出していた。目が霞む…。喉の辺りを切られたのか首が焼けるように痛い。術を使って戦うのはもう無理…か。


この辺りの不死の者は粗方始末出来た…はずだ。意識を集中してどす黒い霊質を持つヤツラの霊力を探る…。ああ、意識が朦朧として霊視が上手く出来ない。


もし不死の者がいたとしても今の私じゃ倒せないか…。


「うっ…ぐっ…はぁ…はぁ…」


這いつくばってなんとか動く足と左腕で移動し…植え込みに座っている翔緋に近づいた。


「あ…ヤバッ…もうダメだ。へへっ翔緋…もう限界だわ。でも良かった…ね。ホラ私達さ、永久の婚姻してるから…また、会えるもん…ね?」


翔緋からの返事は無い。


「大丈夫かな…怖いよ…翔緋ぃ……本当に…会えるか…な…」


何とか触った翔緋の体は冷たく固く…。自分の涙や汗で目を開けても何も見えない。


怖くて…痛くて、翔緋が先に逝ってしまったのが怖くて…本当に生まれ変わって翔緋に会えるのか、彼は待っててくれているのか…不安なまま、私の意識はそこで途切れてしまった。





次話より紫の龍の章になります。

次章も引き続き宜しくお願いします^^

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