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緋華の追憶  作者: 浦 かすみ
黒き龍

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17/32

不死の者

凛華の対応に色々と不快感を感じる方もいらっしゃるかも…と思います。


歩く先々でご遺体を見つけると黒龍王は自らの炎で遺体を荼毘に付されて弔っていた。時に異形に遭遇したりもしたが、黒龍王が祓って見せてくれた。


その祓った術式を視て、また発作がおきたのか空守様はブツブツ言いながら術式を描き殴っている。


黒龍王は祓い終わって亡骸になっていた獣も荼毘に付された。そして私を顧みた。


「どうだ?童も祓えそうか?」


「はい、大丈夫だと思います。段々と過去の術式も思い出してきていますので」


その後も皆で歩いて回って夕方近くに…地図を見て東の地方に足を向けていた時だった。


「ぉお!気配があるぞ!」


黒龍王が突然飛んだ!(人型で)私達も急いで後を追った。


黒龍王が降り立ったのは、あちこち建物は崩れているが割と大きな町のようだ。黒龍王は迷わずに一軒の大きな建物…宿屋?のような建物の前に降り立った。


黒龍王は歩きながらこの周辺に浄化術を使っている。そうして清めながら、建物の中に入って行った。


室内に入ると迷うことなく黒龍王は、奥の物置のような部屋の前で足を止めた。


「ここにおるかの?雷慈城を解放した。そこには食料もある。白弦国と明歌南公国の兵が城を警護しておるから危険は無い。早う出ておいで」


やがて…ゴトゴトと音がして物置の引き戸がソロリと開き…ご年配のおじさんとおばさんが顔を覗かせた。


黒龍王は破顔した。


「無事で何よりだ…ほれ、後ろの童達も出て来い」


おじさんはよろめきながら物置から出て来ると、大きく目を見開いた。


「黒い瞳に黒い髪…その霊力…ら…雷慈王っ…」


「そうだ…長い間苦労をかけた…もう大丈夫だ…。私が異形も祓う。安心せい」


おじさんもおばさんも…皆泣き出した。


それから数日


時間はかかっているけれど、黒龍国の住民は大峨に集まってきているようだ。黒龍王が現れた…という噂が瞬く間に広がり、今まで隠れて潜んでいた住民達も挙って雷慈城を目指しているらしい。


雷慈城に集まってきた国民に、黒龍王は宣言した。


時間はかかろうとも必ず異形のモノを排除し、皆の生活を立て直す。それまで辛抱してくれ…と。


城門前に集まった黒龍国民は皆泣きながら叩頭していた。やっと…長きに渡る苦しみから解放されるのだ…。皆の顔は明るかった。


今は明歌南と白弦の役人の方が城内の政務業務の肩代わりをしている。


しかし慢性的な人手不足なので…思い切って人員の募集を国民に募ってみたら、ものすごい人数の募集があったそうだ。


国民は立ち上がろうとしている。この国はまだ立ち直れる。涼炎と違って…。


涼炎王は周防からやって来た不老不死の軍団を、龍の炎で焼き殺そうと涼炎紫龍国の島全体に火炎を巻いた。


その龍の炎で大半の不死の者は死滅した。しかし涼炎王は龍の力を使いすぎて倒れてしまったのだ。涼炎王はもう戦えない…。生き残った不死の者の残党は私達で倒さなければならなくなった。


倒れた涼炎王を神龍王が龍の谷に連れて帰られた。


その際神龍王に告げられた。


「今からこの島は外海から遮断する。不死の者が他国に渡るのを阻止するためだ。良いな?涼炎の代わりにお前達が戦うのだ。ただ、涼炎は助からないかもしれない。国の復興は諦めよ」


涼炎国は…私達は頷くしかなかった。自分達の国を守る為に…軍人と不死の者しかいない遮断された島を守る為に。


死にゆく島、捨てられた島…。


◇ーー◇ーー◇


私も緋劉も普段は調理場のお手伝いと二人共術が使えることで仮ではあるが医術医のお手伝いもしていた。


今は休憩中である。城の裏庭で緋劉と二人、ぼんやりと空を見ていた。


「そういえばさ…黒龍王って旦那と子供いたよな?どうなったんだろう?」


「あれ?緋劉知らないの?黒龍王が閉じ込められる前に、たまたま夫婦喧嘩しちゃってて…ご主人が実家に帰らせて頂きます!って言って王子様を連れて龍の里に帰ったそのすぐ後に、例の周防白龍国の事件が起こって…今は戻ってくると危ないから…ってことになっちゃって、結局今もそのままなんだって~」


「ええ?旦那さんと息子さんと離ればなれなの?」


「あ~それはね、ほら龍王様達って心話とかいうの使えるじゃない?あれは術じゃないからあの部屋に居ても出来たから、息子さんや旦那さんとは喋ったりは出来たんだって…ただ使い勝手の悪いことに龍同士しか会話が出来ないらしいのよ。アレ…。」


「あ…。なるほどそれで外部に助けて~とか出来なかったんだ」


そう…周防白龍国の変事が起きた時、慌てて涼炎紫龍国の涼炎王と連絡を取ったんだけど、残りの烈騨金龍(れつだんきんりゅう)国と鏡玄銀龍(きょうげんぎんりゅう)国は、それ以前から結界を張って外界から接触出来ないようにしていたそうだ。


それでも閉じ込められた時に、多分無理だとは思ったけれど黒龍王は、烈騨王と鏡玄王に閉じ込められちゃったの、助けてくれる?って聞いてみたらしい。ところがどちらの龍王も当てにはならなかったとか…。


「どんくさ…」


これは鏡玄王ね。 


「あっははは…笑かすなよ!龍のくせに…自分でなんとかしろよばーか!」


こちらは烈騨王…。


「あやつらはなぁー!根性と心根と精神が歪んでおるんだよ!」


どの言葉も要約すると、お二方とも性格が宜しくない…ということでしょうか?


そういう訳で黒龍王は外部と接触も出来ず、只々弱って行くばかりだったそう。二百年以上飲まず食わずで耐えれるなんて、龍って本当に丈夫ですね…。


「おーい、そろそろ討伐の時間だぞ!」


洸兌様の呼び声に、はーい!と返事をして椅子から立ち上がった。自然に緋劉が手を出してくれるので、その手を取った。緋劉に手を引かれて小走りに移動する。


「討伐…凛華は祓いの術が使えるんだっけ?」


「そうだよ、元々術の方が得意だし」


「そうだったよな…術ではいつも敵わなかった」


「剣技ではいつも翔緋には敵わなかったよ」


緋劉は目元を緩めて私を見詰めている。優しい顔だな。そういえば…


「ねえ、もしかしてあの頭巾に隠れて分からなかったけどいつもそんな顔してくれてたの?」


そう聞くと緋劉は自分の顔を触った。


「え?俺…今どんな顔してるの?」


どんな顔って…えっと…。


「脂(やに)下がってニヨニヨした顔だよ!チビ、覚えとけよ。そんな顔してる時は男は大抵エロイこと考えてるからさ!」


洸兌様が腰に手を当てて正にニヨニヨした顔で緋劉を見ていた。


「なっ…そんな…違いますよっ!洸兌大将と一緒にしないで下さい!」


洸兌様が一瞬で緋劉の頭を手で掴むとグリグリと回している。


「おいっなんだと?俺がいつニヨニヨしてたんだよ」


美蘭さんの前でいつもしてるじゃないかよっ!けっ…!


あ、顔と言えば…。


「そうだ~あのね緋劉…今思い出したんだけど霊術でね、暗部の密偵の方が使ってた術があるんだけど、顔や体格を術で誤魔化せるのがあるのよ」


「え?うん…」


「潜入とか諜報の仕事の時に顔バレ身バレが困るじゃない?泯典(みんでん)って覚えてる?ポッチャとしてる男の子…」


「覚えてる…」


「暗部の隊長さんに頼まれてあの子用に変化の術を作ったのよ。その術は参考にする造作元…がないと難しい術なんだけど泯典から『せめて潜入している時は男前の美丈夫でいたい!』とか言われたから…」


「言われたから…?」


「私の知っている美丈夫って一人しかいないし…髪の色と瞳の色は変えたけど、え~と…翔緋の造形を参考にして顔と体に変化の術をかけた」


「!」


緋劉は顔色を変えた。あれ?どうしたの?


「泯典大丈夫だったのか??何ともなかったのか?」


「え?何が?」


「何がじゃないよ!変質者に狙われたりとか…」


「ああ、それか…やべぇな!」


洸兌様も気が付いて声を上げた。本当だ…そんな翔緋の事情があるとは知らず…泯典が大喜びしたので『私の理想の男前よ!』とかなんとか言って術をかけてあげてたわ…。


「泯典の貞操の危機を私が作りだしてた…のか?いや、でも女子にモテてモテて仕方なかったみたいよ……主に潜入先のみで」


「うわああ…それもイヤだぁぁ!なんで一言教えてくれないんだよ!」


「でもホラあんたはいつも頭巾被ってたから身バレしてないじゃない?」


「でも、俺の外見だろ!?もうっどこの国だよ潜入先…」


「参考にしたけど…本物の方が男前…え?知らないわよ…暗部の極秘任務でしょ?」


「なんだよ!また惚気かっ!?でも、知らないとこでは困るわ…それは困る!」


洸兌様…絶妙な合の手を入れて煽らないで下さいよ…。


確かに一言翔緋に断ってから術をかけるべきだったね…。でもまあ髪色と目の色は違うし、見た目美丈夫でも、本物の重量は変えられないから、ずんぐりした背丈とぽっちゃりお腹は御健在だったし、よくバレないよね~とは思ってたけど。


それを後で皆に話すと皆に怒られた。過ぎたこととはいえ、済みません。


さて本日は先程、洸兌様もおっしゃっていた通り、討伐…異形のモノの呪詛を祓いに行くのである。


「そういえば黒龍王ときりちゃん達は浜辺の異形の祓いにもう、出発しているんですよね?」


「ああ、取り敢えず海沿いに異形がいたら船で近づけねぇしな。先にそっちを祓ってもらってる」


洸兌様はそう言って城門前にいる禁軍の方から何かを受け取って、腕に撒いている。白弦国軍の印の腕章だ。外に出た時にどの国の軍人かを明確にしておかないと揉める原因になるのかな?…何か揉めたのかな?


私の視線に気が付いたのか洸兌様は耳打ちしてくれた。


「苅莫羽牟(かるなかはむ)の連中が潜り込んでいるんじゃねぇかと…慶琉夏王は思ってる。腕章を撒いてない軍人はすぐに知らせろ…とのお達しだ」


「御意」


因みにせっちゃんと漢莉お姉様は交替で白弦国に帰国した。


その交替で伶 秦我中将が黒龍国入りをして来ていた。そう言えばさっきから城門前の武官さん達の交替の手続き業務を指示していてヘロヘロになっていたけど大丈夫かな。


島にやってきた秦我中将は挨拶もそこそこに開口一番こう切り出した。


「祓っている最中に、大元の不老不死になっているかもしれない元臣下の霞夜が現れて暴れるかもしれませんね」


ひえぇぇ…あいかわらずのバッサリ怖い事をおっしゃいますね…秦我中将。行くのがイヤになるじゃないかっ!


「不死の軍団は思い出しちゃうから…憂鬱だな」


緋劉がポツンと呟いた。


「そうだ、二人共実際に戦ったことあるんだったな。戦い方は?」


ゆっくりと私達に近づいて来られた慶琉夏王に叩頭した後、緋劉と二人顔を見合わせた。


「戦い方は首を落としても動いて来ますので…必ず五体バラバラに切断して下さい」


緋劉が事も無げにそう言うと洸兌様と慶琉夏王はのけ反った。


「怖ええぇぇ…え?何お前らそんな猟奇的な殺し方してきたの?」


「そうでもしないと、必ず体の傷が元に戻ってまた攻撃してきますから」


私が続けてそう言うと慶琉夏王が顔を引きつらせながら聞いて来られた。


「因みに弱点とかは?」


「細かな塵になれば死にますね」


「そうか…」


時間がきたので、皆様で地図を見て確認する、地図には赤丸の印が入れられている。


「この印の所が今日までに城に避難してきた国民に聞いた異形のモノの目撃場所だ。一番多く情報が寄せられた所から順番に当たろうか」


「御意」


風術を纏って一気に目的の場所に行く。


「この辺りだが…皆警戒を怠らず」


「御意」


慶琉夏王に頷き返して…そういえば…慶琉夏王って禁軍で一番強いのよね。緋劉に耳打ちをした。


「ねえ…慶琉夏王…戦っておられるの私、今日始めて見るかも」


「そうだねっ!本当だ」


スラッと剣を抜かれて立っておられるけど、全く隙が無い…。これは相当だね。


何かピーッと甲高い音がしているけど、これ何の音だろう?


「来たぞ!」


皆が一斉に構えた。


「包囲をすることだけに集中しろ!凛華っ術を!」


「はいっ!」


「蒼天蒼天…碧天碧天…我智減鳴…」


ゆっくりと詠唱しながら術式を描いて行く。丸い大きな黒い塊の異形がフラフラしながら草木の影から出て来た。この異形もこれもまた臭いっ!


「うえぇぇ…くさっ!ちょっと待ってろ!」


洸兌様が術をかけた。無詠唱だったけど…おおっ!臭い消しの術!


「…不滅右滅…甘隅界…!行きます!」


やっと術が完成して振りかぶって異形のモノにぶつけた。術が当たった所から黒いドロドロが蒸発していく。


「やったか!?」


段々黒いモノが剥がれてきて…後に残ったのは大型の猪…だった。しかも生きているらしく涎を垂らしながらこちらに突進してきた。


「うわわ…」


慌てて術を使おうとしたら私の前をビュンと風が通り過ぎた…と思ったら猪は真っ二つになっていた。


「害獣だったか…。皆、ご苦労」


すげぇぇ…慶琉夏王も…すごく強い。チラリと横を見るとまたも緋劉が顔を真っ赤にして興奮している。


「この辺りに異形はいないかどうか…確認を。凛華ご苦労、流石仙人候補だな」


慶琉夏王まで~!キッと愁様を睨んでやろうとしたけれど…今日はいないんだった。


「ほらチビ~キビキビ動く!」


洸兌様に背中を押されて剣を手に茂みの奥を覗き込んでびっくりした。少し離れた大きな木の横におじさんが立っていた。どこかを見ている…視線の先を見たら洸兌様だった。


洸兌様のお知り合い?すると緋劉が後ろから覗き込んで来た。


「あの人誰?」


知らない…と言い掛けてそのおじさんが何か手にぶら下げてるな…と見ていると緋劉が震える声で呟いた。


「り…凛華…あれヤバい…」


「え?」


すると、そのおじさんがグルンとこちらを向いた。目が…怖い…。


「わああああっ!」


「ぎゃああっ…何?何?」


緋劉の叫び声にびっくりしてつられて叫んでしまった。緋劉がすんごい速さで私を抱きかかえるとその茂みから離れた。


「どうした!?」


慶琉夏王が私達の前に飛び込んできたので緋劉と二人で慶琉夏王の胸に飛び込んでしまった。


緋劉は歯の根が合わないのか歯をカチカチ鳴らしている。


「いてて…すみません慶琉夏王…ちょっと緋劉?どうしたのよ…」


緋劉はブルブル震える手で茂みを指差した。


「あ…あそこに、いるおじさん…手っ手にぃ…生首持ってましたぁぁぁ…」


「ぃいやああ…っ!」


「!」


禁軍のお兄様達が茂みに飛び込んで行った。洸兌様も飛び込んだ。


慶琉夏王も私達を支えながら茂みに入って行った。


「どのあたりにいた?」


「あそこです…」


私と緋劉が指差した所に慶琉夏王と執金吾の薄志さんと浅祁さんと近づいた。


その生首おじさんが立っていた辺りは黒い血のようなものが沢山落ちていて…腐敗臭がすごかった。


「この血のようなものは何だ…」


私は昔この匂いを…どこかで嗅いだような…。


「どこだっけ…」


私がそう呟いたと同時に禁軍のお兄様が竹藪の向こうから戻って来た。


「確かに生首らしきものを持っている男がおりました。追いましたが逃げられました。何かの術で姿とその匂いも消されました」


「あれは、神龍語霊術でもない術っすよ。チビなら何か分かったかもだが、あいつ…本当に臭い。何だあの臭い…」


「不死の者だからです。すでに死んでいるから…」


緋劉の言葉に皆が息を飲んだ。そうかあれは死んでいた人の臭いだ…。もう生者ではない。


その後も異形の呪詛を祓いつつ、不死の者を捜索したが見つからなかった。


その後


二人して悲鳴を上げて逃げたことに対して、あれごときで悲鳴をあげるなんて修行が足りん…と慶琉夏王に剣術の特訓を受けさせられた。


緋劉は嬉々として特訓を受けていたけれど、私の場合は完全なる貰い事故だと思うんだけど…納得がいかない。


「悲鳴を上げたのは緋劉が先でしたよ!」


と訴えたのに雷慈城の周りを十周走って来い!と怒られた。


り、理不尽だ…大人なんて大嫌いだ…。


ヒィヒィ言いながら走っていたら、お出かけから帰って来た愁様に見つかってめっちゃ笑われた。


ちくしょ~もう家出してやろうかな…。




次は番外編です。

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