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緋華の追憶  作者: 浦 かすみ
黒き龍

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禁軍の一番手

7/28誤字修正しております


緋劉が私達の前世の事を愁様は知っているのかと聞いてきたので、愁様、慶琉夏王、洸兌様、漢莉お姉様は知っていると言うと


「それじゃ残りの皆にも知らせたほうがいい、自分だけ知らないってことを後で知ると地味に傷つくんだ…」


と気遣いの出来る良い男発言をしてきたので、確かにごもっともだと思い…緋劉の言葉に従って遊撃隊の皆様にお伝えすることにした。


梗凪姉様、漢羅少尉、伶 秦我中将を呼び出し、私達の事、前世の事、緋劉の夢の話などの話をした。途中、秦我中将が話を書きつけておいてもいいか?と聞かれたので了承して、話を続けた。


「すごいわね…まるで物語のお話みたい」


梗凪姉様は何度も布巾で涙をぬぐっている。漢羅少尉も少し鼻をすすっている。するとガリガリ…と書き付けをしていた秦我中将が、ちょっと宜しいでしょうか?と手を挙げられた。


「二点ほど疑問点があるのですが、覚えている範囲などでお答え頂けますか?」


私と緋劉は頷いた。


「彩 凛華には思い起こしたくない前世の記憶でしょうが…5才までそのような食生活で生き延びていたとは到底思えないのですが…物心ついた頃には木の実や山菜などを食していた…というと以前はどのような食事を取っていたのでしょうか?まさか首も座らない赤子が木の実を取りに山に入っていたとは思えませんし…」


秦我中将に言われて…そう言えばと赤子の記憶…と言っても断片的なものしかないが思い出していく。しかし父親や母親から何か物を食べさせてもらった記憶がさっぱり無い…。まるで居ないモノとして扱われていた。


居ないモノ?そういえば…本当に小さい頃はまだ放置はされていなかったような気もする。話しかけられていた記憶はある。ただ…近づいて抱っこされたような記憶が無い…。


「食べ物を与えられた記憶がありません…。それに抱っこされたりも…。うんと小さい時は母からは話しかけられたりはしていましたが…」


「五才の時に范 理旻(はんりぶん)に保護されましたよね?その時その范氏は何か言ってましたか?もしくは育児放棄について明言はありましたか?」


師匠に最初山で発見された後…緑斗村の村長さんと自警団のおじさん達が、私の両親の所に押しかけて…そこで何かあったらしい…。その何かは私が子供だったことと、何か言えない恐ろしげな結末になっていたので明言されなかったと…今にしてみれば思う。


「その実のご両親はいつから…何故そこに住んでいたのでしょうか…」


秦我中将の呟きに気が付いた。そう少なくとも…あの家で…それほど長い時間いた訳ではない…。何かと記憶が混じっているようだが…。


「その…両親は私を叩いたりとか苛めたりはしていませんでした。只、触らないように…私が居ないように…振舞っていました。母は兎も角、父は私を見ようともしませんでした」


漢羅少尉が唸りながら、それは異常だな…と呟いた。


「そのご両親は生活はどうされていたのでしょうか?」


梗凪姉様の呟きに皆も頷く。本当にそうだ…。村はずれの山の中、どうやって生活していたんだろう…。


「ご飯食べさせなきゃ…死んじゃうよね…でもさ、そんな回りくどいことしなくてもいらないなら、生まれた時にすぐに殺…」


「凛華っ!」


緋劉が叱責するような声を上げたけど…だって本当の事だ。何故わざわざ私を無視するなら…ご飯もあげたくないならば()()()()()()()()がどこにある?


「もう一つ疑問があるのですが?」


伶 秦我中将が緋劉のほうを見て言った。緋劉は表情を引き締めると頷いた。


「夢の中で三鶴花に男性…この場合は緋劉の前世の方が話しかけている言葉ですが…永遠の番、廻り合えて僥倖。番…この言葉を使う、いえ言い方を変えましょうか。このように女性に対して番と表現する一族は私が知りうる限りある種族しかいません」


梗凪姉様と漢羅少尉が、まさかっ…と声を上げた。私も思い至った。緋劉も顔色を変えた。


「そんな…俺っ龍の一族な訳ありません!だって…俺…」


龍…。今はこの世界から姿を消した種族。その龍は自身の伴侶の事を番と呼ぶそうだ。


「まあ落ち着いて下さい。断定している訳ではありません。言葉遊びで女性に対して番という表現を過去にしたかもしれませんし…。確かに斈 緋劉は龍族の特徴である鱗が見当たりませんし…。」


と秦我中将が言った途端、緋劉は目を見開き、机に倒れ込んだ。


「発作か!?」


漢羅少尉が緋劉を抱き上げて長椅子に寝かせてくれた。梗凪姉様と二人で緋劉の喉元を緩めて汗を拭いてあげた。


「ご、ごめん…」


「大丈夫、気にしない」


私は目を瞑る緋劉のおでこに手を置くとゆっくりと霊力を入れていく。体を撫でるように霊力も動かして体を廻らせた。


「緋劉や凛華に怒られそうですが…少しカマをかけさせて頂きました」


秦我中将は困ったような顔をしていた。


「以前、倒れた時も確か龍の鱗の話をしていた時だと記憶しておりましたので、ワザとその話を振ってみました。辛い思いをさせましたね、すみません」


「では…緋劉くんは龍の鱗のという言葉に反応しているということなの?」


梗凪姉様の問いかけに秦我中将は眼鏡をキラッと光らせた。


「そうだと推察されます。詳しくは愁様達が戻られてからにしましょうか?」


皆様は深く頷かれた。


さてその日から愁様達のご帰還を待ちつつ…異形が出た!と聞けば討伐に向かい、禁軍のお兄様達と仲良くなった緋劉が飲み屋に連れて行かれて、酔っ払って帰って来たり…と波乱もあったが


7日過ぎた日の朝…。


皆の朝食を片付けて…おやつの芒果布丁の仕込みをしていると台所の扉をコンコンと誰かが叩いた。


私が振り向くとその誰かはサッと扉の影に隠れた…。何でまたここにいるの?


「きりちゃん、もう三ヶ国協議は終わったのですか?」


「…影…入っていい?」


扉の影からボソボソ囁いてくるのは、見目麗しい美丈夫の凱 霧矛様…。しかし会話が出来ねぇ…。通訳を…通訳はいないのか!?


「あれ?何だ霧矛様だけっすか?」


きりちゃんが廊下の奥から現れた禁軍のお兄様達にものすごいビビったのか…一瞬で私の影の中に逃げた…逃げました。


「…」


禁軍のお兄様三人と私の影を見詰める。


「ん~?漢羅少尉に影から摘まみだして貰いましょうか?」


すげぇ…禁軍のお兄さんの広目天様に対する扱いも雑…。するときりちゃんは影から頭半分だけ出すと


「先に…帰って護衛しろ…って言われた」


と、知らない人が見たら絶叫ものの、お姿のままで話し出した。いやもうその姿が怖いから影から出て来いやっ!


「護衛でありますか?」


苅莫羽牟(かるなかはむ)が…あの島の結界が無くなったのは…白弦国(うち)が龍の鱗を持ち去ったからじゃないかって…」


「龍の鱗?」


私とお兄さん達の声が重なった。


「きりちゃん…鱗って、鱗で結界を作っているのですか?」


凱 霧矛様はチラッとだけ私を見てまた虚空を見詰めた。


「俺は直で見てないから…断言出来ないが…結界が消えたのは龍の加護…ないからだ…とか」


何だ…?難しい…お兄さん達は理解できるのか?通訳っ通訳を早く呼んでくれ!


「え~?あの島の結界って龍の鱗の霊力使ってたのか!?どーりですげぇ結界だと思ったわ!」


こ、この声はっ!きりちゃんの保護者!通訳様っ!洸兌様!


「洸兌様助かりましたよ。どう言う意味でしょう?」


この禁軍のお兄さん達毒舌だね。コレとかこいつ…ときりちゃんを呼ばないだけまだマシか…。


洸兌様は颯爽と影の中に入ったままのきりちゃんの前まで歩いて来ると


「苅莫羽牟のヤツラ何か確証があって、うちに難癖つけてきてるのか?」


と、きりちゃんに聞いた。きりちゃんは洸兌様にはちゃんと視線を向けて一度頷いた。


「苅莫羽牟にうちの暗部を放った。すぐに情報を拾ってくる。もしかすると、鱗を探しに丙琶に苅莫羽牟の手の者が来るんじゃないかと…。愁釉王に護衛、頼まれた」


「なるほどな~。やれやれ厄介だな。鱗なんて今時存在するのかねぇ~」


洸兌様は私の頭をポンポンと叩くと


「皆さんが揃ってから話しようかねぇ~つか、腹減ったわっ炒飯食べたい!」


と突然食事の催促を受けた。すると、急にきりちゃんが素早く影から出て来ると、台所の椅子に座った。何だ?


「凛華…炒飯…」


おいっおいっ!おいぃ!厚かましい大人達だな!……仕方ない。急いで叉焼入り炒飯を二人前作り、卵汁もお出しした。


炒飯を食べ終わった大人達はお茶を飲んでいたが、きりちゃんが芒果をすり潰している私の側に静かにやって来ると、何かを差し出してきた。それは術札だった。


「炒飯のお礼…。空飛ぶ風術の術式…。あげる」


こ、これはっ!愁釉王に描いておけ!と言われた、風術の応用術式!しかも綺麗で分かりやすい!


「きっきりちゃぁん!流石四天王様ですよ!ありがとうございます!」


「!」


きりちゃんは真っ赤になると今度は洸兌様の影に逃げ込んだ…。すげぇ…その術、教えて欲しいわ…。


「あははっ!いや~流石チビだね!霧矛もとうとう懐いたか!」


「…ちっ…」


影の中から盛大な舌打ちが聞こえましたが?まあ有難く術式頂いておきましょう。流石、私の術式を視てすぐに式を描きおこせるんですね。


「私ももっと術式の勉強をしなくてはいけませんね…。でも術関係の蔵書はほぼ読み尽しましたし…」


「チビ…参考までに、書物殿の術関係の蔵書って結構な数じゃね?ほんとに読んだの?」


「ええ、五年くらいはかかりましたけど、ちなみに一日貸出上限の五冊まで借りてました」


「…すごい」


影の中からきりちゃんに褒められた。


「そっか~んじゃその奥のも読んだのか?」


ちょうど緋劉が禁軍のお兄様達と討伐から戻って来た。緋劉は洸兌様を見つけて笑顔になった。


「書物殿の奥の蔵書……。如何わしい本の区画ですか?」


「ちっげぇよー!禁術本や希少な蔵書、貸出禁止の本を収めている区画が奥にあるんだよ!」


緋劉と先日訪れた如何わしい本を置いている、すこーし隅の怪しげな区画から更に奥に、そんな所があるのか…。緋劉は如何わしい本の内容を思い出したのか、冷茶を飲みかけてむせている。


「洸…あの区画は許可がいる。凛華は入れん」


「あ、そっか…禁軍に入っているか高官以上じゃねえと閲覧禁止だったか…今度一緒に行くか?」


「行きます!」


私と緋劉の声が重なった。洸兌様は途端にニヤニヤして


「仲が宜しいことで…」


と言った。もうっ~思わず緋劉を見ると緋劉も真っ赤になっていた。


「!」


突然に洸兌様が急に霊力を上げた!びっくりしてると、きりちゃんが影から飛び出して来て、私と緋劉の前に降り立った。


「二人はここに待機」


そしてきりちゃんは素早く術を発動して、私と緋劉の周りに霊物理防御結界を張った。


禁軍のお兄様達はもういない…。敵の襲撃に反応して散開したんだ…。


「苅莫羽牟か?」


「噂をすれば影だねぇ…俺の結界に穴開けようとしてるわ」


「おびき出せ…」


「りょーかい」


きりちゃんと洸兌様の短いやりとりの後、きりちゃんが一瞬で消えた…!


緋劉が窓に走り寄ったので、私も一緒に近づいた。裏口の木戸の結界が綻び始めている所に、複数人の影が見える。その侵入者の顔が見えた途端、空中に黒い影が数体舞った…。きりちゃんと禁軍のお兄様達だ!


きりちゃんは細身の変わった刀身の剣を持っていた。まるで音なんかしないような動きで、空中から刃を振いながら降り立つと瞬き一つで、数人の男を切り伏せていた。


一瞬の事だった。皆、強い…強すぎる!


「相変わらず霧矛は強いなぁ…あれでも全力じゃないんだぜ?どうよ?緋劉さんよ。慶琉夏王様と互角の強さで…はっきり言ってうちで一番強いヤツだぜ?性格はアレだけど…」


衝撃的だった…。あのきりちゃんが禁軍で一番強いの?性格がアレだけど…。


「俺も…あんな風になりたい…」


緋劉がキラキラした笑顔で私と洸兌様を見た。洸兌様は緋劉の頭を撫でながら


「霧矛に教えを乞うのは難しいぞ~凛華が食べ物で釣って、や~と会話ができるくらいだ。それでもあいつは意外にも教えるの上手いよ?まあ、ガンバレ!」


と、答えてくれた。緋劉は嬉しそうに頷くと、今は部下に指示しながらちゃんと仕事をしているきりちゃんを熱い目で見詰めていた。


さて小一時間した後に愁様と慶琉夏王御一行が帰って来た。


こちらに苅莫羽牟の手の者(仮)が侵入しようとしたのを知ると皇子達はプンスカ怒っていた。


「何が『正直にお話し頂けましたら不問に致しますよ~』っだ!?こちらが取ったと言わんばかりの言い方でしたよね?兄上?」


「全くだ。『龍の鱗の効果は当然ご存じでしょう?またまた~知らない訳ないでしょう?』っだ!?こっちが逆に知りたいくらいだ!馬鹿はベラベラ喋るから、話が長いだけで役に立たん!」


愁様も慶琉夏王も激おこである。


結局、三ヶ国協議をしてはみたものの…あの島の調査の話どころか、島に結界を張っていたと(苅莫羽牟が主張する)龍の鱗の行方を探しての腹の探り合いばかりでまったく、全然、一切、話は進まなかったようだ。


「ほ~んと時間の無駄だったわ~。ああ、芒果布丁おいしっ♡」


「凛、美味い」


漢莉お姉様と雪様の大柄四天王様お二人は、帰って来た早々に芒果布丁を食べている。自由だな…。


慶琉夏王はお茶を一口飲んでから一同を見た。


「で…だ。うちの暗部はどう言っているのかな?」


雪様が手を挙げた。


「苅莫羽牟はあの島の生きている島民を発見したが…その島民から良からぬ手段で何かを聞き出した挙句、先日の無謀な島の上陸に及んだ模様…。引き続き探らせています」


「生きている方!」


「まあ!なんてこと…」


「会いたいな~」


皆がざわついた。謎の島の生きた島民…。良からぬ手段がものすごく気になるが…。


「それで龍の鱗か…。確か伝承では不老不死の薬が作れるだったか?」


「眉唾物の伝承です」


愁様の発言をばっさり否定する伶 秦我中将はいつも通りですね。愁様はジロッと秦我中将を睨んでから咳払いをして話を続けた。


「ただ、苅莫羽牟はその龍の鱗が島を覆う結界を作っていた…膨大な霊力を秘めていたと思っている。鱗が実在していればの話だが…」


「その島民の方…お救い出来ないのでしょうか?」


梗凪姉様がポツン…と呟いて皆の視線が姉様に集まった。慶琉夏王が顎に手を当てて少し考えておられるようだ。そして顔を上げられた。


「霧矛、秘密裏に苅莫羽牟に悟られることなく救出出来るか?」


きりちゃんはキリッとした仕事仕様の顔で頷いた後、何故だか、本当に何故だか…私を見た。


「匂いと音を消せる術者が一緒なら可能だ」


おぃいいい!それ私じゃないか!?今度は皆が私を見る。冗談じゃないよ!


「わ、わた…私できま…」


「チビと霧矛の二人じゃ不安です!」


洸兌様っ保護者様っ通訳様っ!そうですっ不安ですっ!お願いしますっ断って下さい!


「俺と緋劉もついて行きます」


ええ!?なんでそうなる!何故その面子なの?洸兌様!?てかなんで目配せしてくるのよっ!行きたくない行きたくない!行きたくないんだってば!


「やばっ敵地潜入だって!なあ凛華!ちょっと不謹慎だけど楽しみだな!」


しまった…ワクワクしている冒険者ヤロー斈 緋劉がここに居た…。ほんとに不謹慎ヤローだよ!ワクワクするな!


散々ごねたけど…慶琉夏王に睨まれて…渋々苅莫羽牟に島民救出の為に潜入することになった。


「洸と霧の禁軍一番手、二番手の双璧が一緒…危ないことはない」


そうじゃないっそうじゃないんだよぉせっちゃん!意思の疎通を図れない方が若干一名いらっしゃいまして…それが不安で不安で仕方ないんだよぉぉ…。


「雪様ついて来て下さい…」


「俺でかい…目立つ」


いやいやいやっ~結界の中だからでかくても大丈夫だから助けて下さい!……と、乙女じゃないほうの岩(雪様)にしがみついていたけれど、洸兌様に引っ剥がされ小脇に抱えられて、船に連れて行かれてしまった。


仕方ない…腹を括ろう。


「暗部の情報だと地下牢に閉じ込められている…」


「牢になんて…っ」


「ひどい!」


私と緋劉に霧矛様は優しい瞳を向けてから洸兌様に顔を向けた。


「接岸が出来次第、苅莫羽牟に潜入。その際、隱業術と凛華の消音消臭術も併用」


お籠り様じゃなくってテキパキ指示を出すきりちゃんは格好良いね!いつもそうだと良いのにね!


…と誉めてたのにさ、心の中ですっごく誉めてたのにさ。


「なんで…私の影に入ってご自身は安全な場所から、苅莫羽牟に潜入されてるのでしょうか!」


船底に長く伸びる自分の影を睨み付ける。私の影の中に凱 霧矛様が潜んでいる。


「影の中に居ても、術は発動出来るんだって!」


「勿論そんな事は分かっておりますよ」


つい男同士の庇い合い?をする洸兌様も睨んでしまう。


「幼気な少年少女を敵の矢面に立たせておきながら自分はヌクヌクと隠れているなんて…」


「まあそう言ってやるなって…。外から自分は見えていないとは分かってるけど…人が近くにいるって思うと動悸、息切れ、眩暈が起こるんだってさ」


そんな病弱でよく禁軍の一番手、広目天が務まるよね…。え?おたくの緋劉ちゃんも持病持ちだけどそれはいいの?と言う声が聞こえた気がしたので、病弱めっ!と罵りは心の内だけに押し留めた。


そして苅莫羽牟王国の浜辺に接岸した。


私達は人から見えないとはいえ、自分達の質量そのものを消せる訳ではないので、人とぶつかる可能性のある大通りは避けて、王城を目指した。


「しかし…姿が隠せる術を霧矛が作ってくれててマジ助かったわ」


「これ便利ですね。隠れなくても堂々とかくれんぼが出来る」


私がそう言うと洸兌様はニカッと笑った。


「そう来たかっ!暗殺やら諜報に使える便利な術だけど…いや、チビの考え方は可愛いな~中身はおばさんだけどさ」


「一言余計ですよ!」


「凛華大丈夫、俺も中身おじさんだし」


「緋劉のは慰めでも何でもないからっ!」


潜入とはいえ、和気藹々と王城近くまでお喋りしながら近づくと、影の中からきりちゃんが「一旦止まれ」と言って来たので、脇道の草むらの中に隠れた。


洸兌様が懐から何か大判な紙を出すと、きりちゃんが影から出て来て二人で覗き込んでいる。私も緋劉も覗き込んで見た。どうやらこの苅莫羽牟の王城の城内図のようだ。


「地下三階が牢だな…。城の地下の入り口で、潜入している暗部の者と接触予定だ。気を抜くな」


「はいっ!」


緋劉が元気よく返事している。その時洸兌様が私に目配せしているのに気が付いた。


あ……何となく分かったわ。


緋劉ときりちゃんを打ち解けさせようとしてこの潜入の面子を選んだね?


緋劉はきりちゃんに潜入時に気を付ける事や…体の動かし方などを聞いている。きりちゃんもボソボソではあるが緋劉に相槌を打っている。


さすがきりちゃんの保護者…。


洸兌様はにっこりと微笑むと王城を見上げた。


「さあ~て潜入して島民を救出致しますか!」


「御意!」


私も緋劉も王城を見上げた。


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