お籠り様
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宗 明葉は療養という名目で宗家の管理する領地に引っ越しして行った。まあ体の良い厄介払いのようだ。
何でも田舎に行きたくないと家で暴れて、おまけに皇宮に来て暴れて、更におまけに第壱特殊遊撃隊の詰所前で暴れに暴れたらしい。
らしい…というのはその大暴れの日は、昼から半休が取れたので緋劉と二人で書物殿に行き、文学と戦記の間に如何わしい本を挟んで借りる妙技の実演をしていて留守にしていたからだ。
「あんな目が腐るような醜悪な姿は見なくて良かったわよぉ~私はまだあの下品な罵声が耳に残って離れないわ!」
と、岩乙女こと黄 漢岱(自称漢莉)少尉がくねくねしながらそう話してくれたので、まあ大体の事態は理解した。梗凪姉様は今も静かに怒っている…。
「梗凪は怒ると物凄く怖いのね、新たな発見だわ。ここで暴れた宗 明葉に捕縛術を使った後に止めの一言を宗 明葉に打ち込んだのよ」
「止めの一言?」
「宗 明葉に鏡を向けて…『今のお顔を鏡で見て御覧なさいな?ホラ異形が映っておりましょう?あなたの事だぁぁぁ!』…ですって。どんな恐怖物語より、恐ろしかったわね」
いや、どっちかって言うと私は今の、あなたのぉぉ…の説明していた岩乙女の顔の方が怖かったけど?
まあ、今頃と言っては何だけど、私達は梗凪姉様を侮っていたみたいだ。何も山茶花の面子に大人しく苛められていた訳じゃない。寧ろその苛めそのものが馬鹿馬鹿しくて、一々取り合うのも面倒くさかった…というのが真実のようだ。
「あの方々は基本は良家の淑女なのよね。蜥蜴や蛙などを見たら誰でも恐怖で悲鳴を上げる…と思い込んでいるのが馬鹿なのか…可愛らしいとでも言うのかしらね…つまりはそれくらいの範囲の苛めばかりなのよ。一々泣いてあげるのもウザイ…失礼、勿体ないくらいの苛めだったわね。要するに彼女達は子供なのよ」
梗凪姉様は苛めと称する嫌がらせを右から左へ流しているだけだったのだ。
本当に本当に男気溢れて精神がお強いのは梗凪姉様の方だった。逆らうのはやめておこう…。
さて今我々第壱特殊遊撃隊は燦坂に戻って来ている。明日にはまた丙琶に戻る予定だ。今は禁軍のお兄様達と交替で丙琶に現れる異形のモノの討伐を行っている。
そして私の目の前に大きな大きな異形…もとい、大柄な軍人様が来られている。でもお顔は整っていらしてとても優しそうな笑みを浮かべている。
「螻 雪翔大将…陽餅もう一つ食べられます?」
何だか大型の動物の餌付けをしてる気分だ。雪翔大将は…無言でニコニコ頷いている。
「あ!せっちゃん…あんたまた凛華ちゃんのお菓子を貰いに来ているのね。凛華ちゃんも何でもあげちゃダメよ!」
「はぁい…」
漢莉お姉様がバチンッと螻 雪翔大将の背中を叩いた。そう、雪翔大将は四天王の一人、多聞天様だ。緋劉がまたも大喜びだった。洸兌様はどちらかというと霊術の方が得意なので、雪様は本当の意味での武人だと緋劉はのっけから褒めちぎっていた。(漢莉お姉様除く)
しかも雪様は剣術というより体術が得意らしく、緋劉は暇さえあれば組手の稽古をお願いしている。
「明日丙琶に行くまでに仲良くなれて良かったわ…。もう一人は難関だろうけど…」
そう慶琉夏王が四天王の皆様を癖のある男前…と評していたのはこのことだったのかと今、痛感している。確かに系統の違う美丈夫様、四天王様だが…。
黄 漢岱少尉…持国天、李 洸兌大将…増長天、螻 雪翔大将…多聞天、…そして最後の一人。凱 霧矛大将…広目天。
今ね、きりちゃんこと霧矛様がこの詰所にいることはいるんだけど…結界の中に隠れてて出て来てくれないんだよね。結界があると思われる空間の前に盆に載せた陽餅と胡麻団子を置いておびき出そうとはしているんだけど、警戒して出て来てくれないんだよね。
「あの術、不思議よね…。術の原理は聞いたんだけど、難しくって私はダメ。洸兌ちゃんは使えるらしいけど、隠れる必要ないっしょ!で使わないらしいし…。あんた本当にあの術が視えてるの?」
漢莉お姉様にも胡麻団子をお出ししてその見えない結界を視ている。うん…微かに術の霊資が視えてる。
「はい、ちょうどお盆を置いているところのすぐそばにいらっしゃることは確かですよ?こちらのお声は聞こえているんですよね?そんなに私、怖いかな…」
「凛華ちゃんみたいな子栗鼠が怖い訳じゃないのよ~人間全般が怖いのよ~」
そう…このような特殊結界を編み出せるほどの術者であり、禁軍の四天王に推挙されるくらいの御仁であるのに…え~と何だっけ?対人恐怖症だったかな?とかで極度の人見知りなのだとか…。
「お疲れ~あれ?せっちゃんまた来てんの?チビの菓子がよっぽど気にいったんだな!」
キラキラと青銀色の髪を靡かせて、李 洸兌様が詰所に入って来られた。何か書類を漢莉お姉様に渡している。
「明日さ、とうとう三ヶ国で異形に関する話し合いがあるんだって!漢さん皇子様方の護衛宜しくね」
「え?明日なの?もうぅ…明日はせっちゃんも来てくれるのよね?きりちゃんは?」
せっちゃんこと、雪様はコクコク頷いた後、小声で
「霧矛も行く」
と呟かれた。雪様は兎も角、このお籠り状態のきりちゃんで護衛とか出来るの?…と胡乱な目を私が向けていると洸兌様が結界ある所をボコンッと足で蹴っ飛ばした。確かに蹴った時に何かある音がしている。
「霧矛、いい加減にしろよ…チビの作ってくれた胡麻団子食べちまおうかな~」
と、洸兌様がお盆に手を伸ばそうとした時、結界がシャラン…と解けてお盆を手に持った…きりちゃんこと、凱 霧矛様が洸兌様を睨みながら立っていた。
体格も良いんだよな、きりちゃん。栗色の少し癖のある髪質で覗く瞳は濃い目の茶色で…甘い系の男前の洸兌様と対極の男っぽい格好良い系の男前なんだよね。緋劉が、見た目が憧れる~!と言っていたほどの格好良いお兄様だ。見た目は…だが。
「俺のだから…。洸にはやらん」
「だったらモジモジしてねぇでとっとと食えよ。そんでチビにお礼をちゃんと言え!」
きりちゃんは私の斜め前の椅子に腰かけると、あくまで目を合わさずに
「菓子ありがとう…」
とオドオドしながら言った。これでもきりちゃんにしてみれば頑張った方なんだよ!皆ぁ褒めて上げてよ!
「もうぅ…きりちゃんと洸兌ちゃんは中身が真逆なんだから…。洸兌ちゃんの見た目で中身がきりちゃんだったならたまんないのにぃ…」
「!」
きりちゃんは真っ青な顔色になった…。きりちゃん!?卒倒しちゃう…?
「恐ろしい事言うなよっ!おっさんっ寒気するわ!」
洸兌様は綺麗な顔を歪めながら、私の横に座ると室内を見回した。
「そういや、緋劉はどこいった?」
「明日の丙琶に持って行く備品の点検に秦我中将と出ています」
そうだった…洸兌様に聞こう、聞こうと思って忘れていた例の私と緋劉の魂の呪い…だとかの話。聞きたいけど…ここで話すのもな…と思っていたのを洸兌様は感じ取っていたのだろう。
「後でな~」
と小声で答えてくれた。流石四天王…。どこかのお籠り様や乙女とは一味違う。
そして一時刻後
洸兌様に呼び出されて詰所の裏庭に行った所、何故か愁釉王、慶琉夏王、漢莉お姉様までがズラッと待ち構えていた。私が戸惑っていると洸兌様は腕を組んでちょっと怖い顔をして訳を話してくれた。
「俺は…俺達は四天王なの。皇子の御身、この国の皇族方をお護りするのが臣下の務めなの。呪い…ましてやかなり高度な古代術式が関わるなんて人物を皇子達の御身の近くに置いておけないの。素性を検め、危険を排除できなきゃマズイの。分かるな?」
「は、はい…」
ああ…やばい。私何か罰せられるのかな…。私が下を向きかけると漢莉お姉様がすっ飛んで来てギュッと抱き締めてくれた。
「ちょっとっ洸兌ちゃん!そんな脅すみたいな言い方やめてあげてよっ!凛華ちゃんがちゃんと包み隠さず話してくれれば問題ないでしょう?どう?話してくれるわね?」
私は顔を上げた。漢莉お姉様も、洸兌様も、愁様も慶琉夏王も怒っている訳じゃないみたいだ…皆心配そうな表情をしている。私は決心した。
自分が追憶の落とし人であること。緋劉とは前世で同じ村で会っていたこと。過去の自分の生い立ちはかなり惨めで周りに落とし人である…とは言い辛いので黙っていたこと。
「…という訳で最後は野盗に殺されてしまいまして、次に生まれ変わったのが今…という訳です」
「ぅぅ…うわ~んっ…凛華ちゃぁあんぅぅぅ…」
漢莉お姉様大号泣である。しかも抱き締められたままである。内臓が口から出そう…。
「成程な…それは確かに笑って話せない過去ではあるな…。しかし緋劉とお前は数奇な運命だな…」
慶琉夏王はうんうん、頷いている。洸兌様が顎を手で摩った。
「今のチビの話を聞く限りは、過去に緋劉とチビで『古代高度霊術』を試しているのは考えられねぇな…。緋劉に至っては声が出ねぇし…」
「はい…だから私もおかしいな…とは思うのです。でも確かに緋劉の霊力は常に感じていますし…」
「今も分かるのか?」
愁様が興味津々な顔で聞いてきた。私は迷わず指差した。方角的に備品庫がある辺りだと思う。
「緋劉は悪さは出来んな~常に嫁に監視されておる」
「嫁じゃあありませんっ!」
慶琉夏王につい怒鳴ってしまった…皆がニヤニヤしながら私を見る。居心地悪い…。
「まあ初恋を返せ~♪の意味も分かったし…これですべての辻褄があったな。凛華がその年の割に妙にしっかりしているのも納得だ。なんせここにいる皆より年上だしな」
なんだと?今…愁様のおかしな言い回しに疑問が生じましたよ?ここにいる皆より私が一番年上?
「もしかして漢莉お姉様って二十代だったの?」
「ちょっとーー今一番傷ついたわっ…何よっ私、三十路越えのおばさんに見えてたのぉぉ!?」
無言の肯定である。漢莉お姉様はまた泣き出した。別の意味で…。
「もういいじゃねえかよ、おじさんだろうが、おばさんだろうが…」
洸兌様の無遠慮な発言に漢莉お姉様は更に泣き出した。洸兌様は号泣岩乙女を無視して説明した。
「あのな、俺はチビと緋劉の二人にかけられている術を呪いと言ったがな、あくまで俺の主観だ。つまり古代術式…おそらく調べた限りじゃ古に婚姻する際にお互いの貞淑性を証明するために儀式として施したものだと思うんだ。つまり…永遠の婚姻の強制だな。これはお互いが納得してりゃ俺は構わないとは思うが、無理やりとかだと逃れられないだろ?だから俺は呪いと言ったけど、まあ…お前らの場合は両想いっぽいし余計なお世話かな~と今は思う」
説明しながらも洸兌様はニヤニヤしているし、横で聞いている皇子様達もニヤニヤしている。
「いや~非業の死を遂げた凛華にもやっと幸せがやってくるのか!」
「ま…まさか…愁様っ絶対っ緋劉には言わないで下さいよ!」
もう恥ずかしくって仕方ない…何が永遠の婚姻だ!何が両想いだ!これはずっとからかわれる案件だよ!
「そ、そうだ!あの…緋劉が時々倒れてしまうのは、その術が原因でしょうか?」
「ん~?そう言えば何だっけ…龍の話をした時とかに倒れちゃうんだっけ?」
「はい…」
「チビ、やっぱり緋劉にもお前のことを話して俺と霧に揃って霊視させろ」
そうですか、やっぱりそうしたほうがいいですか…。覚悟をしますよ。
皇子様達に色々とからかわれながら、詰所に戻ると漢羅少尉と伶 秦我中将がいた。私が入って来た途端に結界の中に籠ったきりちゃんの動きに地味に傷つく。
「緋劉なら雪翔様に組手の指導を受けていますよ。それと…彩 凛華の提出した匂いと音を消す術式ですが新術式の受理がなされましたので、国から月々一定の報奨金が支払われることになりました」
「ええ?毎月くれるのですか!?」
これは嬉しい…早速今月から実家の仕送りを増やそう。
ホクホクしながら、組手の稽古を終えて帰って来た緋劉に仕送りの話をして、その日は明日に備えて早めに就寝した。
丙琶に向かう当日
とうとう恐れていた事が実行される日が来た。嬉しそうな愁釉王とは対照的に私の気持ちはどん底だった。
「落ちても知りませんよ…」
「そのために漢羅が居る!」
「何だか漢羅少尉を、落ちた時に踏み殺しにする気満々な発言のような気がして、非常に気鬱です」
愁様を丙琶に風術で運ぶ…失礼、お連れする。ああ…私の幸せな転生人生もこれでお終いかな…心配そうな表情でこっちを見ている緋劉の顔を見るのもこれで最後かな…。
「緋劉…元気でね」
「ん?え?」
と、緋劉に別れの挨拶をして漢羅少尉の腕と愁様の肩に手を置いた。
「さあ、行くぞ!」
愁様の掛け声を合図に空に浮かび上がった。
一刻も早くこの状況を終わらせたいが為に霊力を最大限に籠めた。
結果、数分刻で丙琶に着いた。しかし飛んでいる間中生きた心地がしなかった…。
予想より高速移動で早く着けたせいなのか、愁様は大興奮で
「この移動風術を誰もが使えるように術式を簡素化して描いておけ!」
と、命じられてしまった…。やっと気鬱な事が終わった…と思ったのに別な意味で新たな気鬱の元が増えてしまった。
一時刻後、馬車でやって来た緋劉はちょっと怒っていた。
「何だよさっきの…変な別れの挨拶してびっくりするだろ!」
うん、いやゴメン…決死の覚悟だったんだよ。もし愁様が落ちちゃったら私の首も落ちちゃうところだったからさ…。
そう言えば
雪翔様、せっちゃんは一人騎馬で来られているけど、霧矛様、きりちゃんはどうしたのだろう?本当に来ているの?
「せ…雪様、霧矛様はご一緒ではないのですか?」
馬から降りられた雪様にお聞きすると何だか私の後ろを指差している。
「いや…先に飛んで来ているよ。凛と一緒に…」
な?何だって?私と一緒?思わず後ろを見るが誰も居ない…ん?地面に自分の影が映っているけど…何か変だ…霊力の粒子がフワフワと飛んでいる。
「影から術の気配がする…」
雪様はポンッと私の頭に手を置くと微笑まれた。
「凛はやはり凄いな…洸や霧が褒めるだけあるな…そう、難しい術式で俺は分からんが、影の中に異空間を形成してその中に身を潜めている」
異空間…んん?身を潜めている?
「身を潜めている…」
「そう、身を潜めている…霧が…」
私は自身の影に向かって怒鳴った。
「ちょっときりちゃんっ!人の許可も取らないでどーゆうこった!私こう見えても十三才のギリ幼女枠な年齢なのよっ!?きりちゃんのしている事は幼女を突け狙うっ今、巷で噂の憑け回しとかいう犯罪ととられかねない状況ですよ!こらっきりちゃん!大人しく出て来いッ!」
四天王の偉い人なのも忘れて、きりちゃん呼びをしてしまったことを怒鳴った後に気が付いたが…仕方ない。怒られたら怒られた時だ。
やがて影がブルブルと震えてその中からゆっくりと手が伸び、のっそりと私の影の中からきりちゃんこと、凱 霧矛様が出て来た。明らかにブルブルときりちゃんの体が震えているのは怯えからだろうか…。
私ときりちゃんの周りに皇子様達と執金吾…護衛のお兄様達、遊撃部隊の皆、禁軍のお兄様…沢山の人に囲まれてしまった…。
きりちゃんは私を見ずにひたすら地面を見詰めていた。
「きりちゃんあのですね、何も特殊な術式で私の背後に居たことを怒っているんじゃないのですよ?黙ってこの術式を使って許可なくついて来ていることを怒っているのです。こういうのは一般の女性にしていたら本当に憑け回しだと疑われて…きりちゃんの場合は責任を取れ!とか言われて逆に女性に狙われますよ?」
きりちゃんは小さい声で「ひぃぃぃ…」と悲鳴を上げた。少し怯えさせすぎたかな…。
「とにかく次から影に潜む時は声をかけてからにして下さい」
「…」
「霧矛様、お返事は?」
「…はい」
「はい、影に戻って下さって結構です」
きりちゃんは急いで影に戻って行った。周りから何故か拍手がおこる。何だって言うんだ。
「いや~鮮やかだな!流石凛華だ」
愁様は私の精神年齢が分かってから、何でもかんでも私にお任せになっている気がしている。
「きりちゃん呼びしちゃってたな…」
緋劉が笑いを堪えながら近づいて来た。実は緋劉にはまだ、自分の過去の話はしていない。今日話す予定で少し匂わせてはいるけど…。
「何だか、霧矛様ってつい怒っちゃうんだよね。だから余計に怯えられちゃって…」
「でもなんでまた凛華の影の中なんだろう?」
緋劉の疑問ももっともだ。ジッと影を見詰めていると、漢羅少尉がゆっくり近づいて来ると私と緋劉の頭をワシャワシャと撫でた。
「いつもは洸兌の影の中なんだが、今日はアイツは燦坂だしな。霊力が多い術士だと影に潜みやすいんだろ?な?」
「…はい」
影の中からきりちゃんの返事が聞こえた。影から話せるんだ…。しかし漢羅少尉は容赦なかった。急に私の影の中に手を突っ込むと、きりちゃんを捕まえて引っ張り出してきた。
どうなってるの?まさに吊り上げられた状態でブラン…ときりちゃんは襟首を掴まれている。
「はい、そこまでだ。もう三ヶ国協議が始まるから霧矛も雪翔も慶琉夏王達と一緒に行って来い」
きりちゃんは雪様に小脇に抱えられて行ってしまった…。広目天様の扱いが雑過ぎる。
皆様は船に乗って今回の三ヶ国協議の集合場所になった明歌南に向かって行った。行きと帰りで一週間は帰って来ない予定だ。
居残り組の私達は、丙琶の元空き家の現宿泊施設にて禁軍のお兄様と漢羅少尉と伶 秦我中将と通常の討伐を行う予定だ。
私は話すと決めたら待ちきれなくて早速緋劉を裏庭に連れ出すと、すべて包み隠さず話して聞かせることにした。
「私は追憶の落とし人なの。私と緋劉はね…洸兌様が言うには~永遠に廻り合う呪いを受けてるんだって…で、前世の緋劉はね、生まれつき声が出なくて…今世ではね、何とかあなたの声が聞きたくて…」
私が言い終わらない内に緋劉は私に抱き付いて来た。
「馬鹿っ馬鹿凛華!なんでそんな重要なこともっと早く言わないんだ!」
「ちょ…まだ話の途中で…でもっ言ったって緋劉は信じてくれないし…」
緋劉は泣いていた。泣きながら益々私をきつく抱き込んだ。
「夢で…夢で…見る三鶴花さん。あの人さ…最後にいつも言うんだよ…あなたの声が聞きたいわって…」
「!」
私はびっくりして緋劉を見た。緋劉の瞳を見詰める。
「やっと分かった…どうしてあの夢ばかり見るんだろうって…。凛華と俺が廻り合う呪いを受けてるんだったら…三鶴花さんは…凛華の生まれ変わりなんじゃないか?いや、絶対そうだ」
あなたの声が聞きたかった…。前世の私の死に際の言葉。本当に無意識に発していた言葉だったけど…もしかしたらその前の世でも同じことを思っていた?
涙が止まらなかった…。緋劉の夢に出て来る三鶴花さんが私…。そうか、そうなんだ。何かしっくり落ち着く。きっとそのずっと前の世でも私はその…狼緋と緋劉の前世の彼と言葉を交わしたかったに違いない。
私は泣きながら…前世のちょっぴり辛い過去の話しの続きと死ぬまでを話して聞かせた。
すると緋劉は話の最後辺りでプリッと怒った。
「馬鹿凛華!野盗の前に飛び出す奴がいるか!なんでお姉さんと一緒に隠れておかないんだ!」
「な、何!?今頃怒ることないでしょ!」
「俺だって声が出なかったけど絶対怒ってたさ。分かるもん!そんな風に助かったって…凛華が死んじゃってたら俺、辛いし悲しいよ!凛華は満足したかもしれないけど、後に残された俺やお姉さんの気持ち考えろよ!」
頭を殴られたような衝撃を受けた。今更ながら緋劉に怒られて気が付いた。
本当だ…あの後狼緋は助かったのか?楊那姉さんは無事だったのか…師匠や歌楊母さんは助かっていたのか…。私が刺されて亡くなったことが分かったら…きっと皆を悲しませた。
「もうさ…過ぎたことだし、今更だけど…いいか?凛華。残された人は悲しいよ?だからもし何か同じような状況になっても今度は無茶はしない、いいな?」
「う…うん。分かった」
緋劉は私の背中をしばらく撫でた後に呟いた。
「しかし夢の中の三鶴花さんの台詞…気になるよな。凛華の前世はまあ、俺が喋れないことがあったけれど…でも声が聞きたい…俺が喋らない、喋れないことに何か意味があるのかも…」
確かに何だろうね…と緋劉に体を預けてぼんやりしていると
「あなた達…」
納戸の扉の向こうから梗凪姉様が真っ赤な顔でこちらを覗き込んでいた。
「!」
「姉様っ…わた…何もしていな…」
梗凪姉様はすっ飛んでくると私と緋劉に体を寄せて囁いた。
「分かってるっ分かってるからね!漢莉と秦我さんには黙っててあげるからっ…それと夜にこっそり会いたい時は私が上手く取り計らってあげるからっ!任せて!」
梗凪姉様の目はキラキラと輝いていた。ああ…誤解という訳じゃないけれど緋劉も私もまだ体は若干子供だし…そんなことに興味津々な年頃だと思われているのが恥ずかしい…。
ああ、恥ずかしい…。
四天王の癖がすごいんじゃ~




