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緋華の追憶  作者: 浦 かすみ
黒き龍

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12/32

雷慈黒龍国の現状

7/21一部文章の修正をしています。少し話の内容が変えておりますことご了承下さい。

7/28誤字修正しております

私、緋劉、洸兌様、きりちゃんの四人は苅莫羽牟(かるなかはむ)の王城の業者用の入口から荷馬車と一緒に紛れて入って行った。


「人とぶつからないように…。ぶつかった場合、相手が霊視してくる可能性もある。すぐに対処するように」


「はいっ!」


意外にも凱 霧矛(がいきりむ)こと、きりちゃんは、緋劉にオドオドすることなく指示を出している。


「今、仕事だからでしょ?終わったらまたグダグダに戻るさ」


洸兌様は事も無げにそう言い切った。そんなものなの?


私達は廊下の端を小走りで移動しながら、特に問題も無く進んで行った。やがて廊下の突き当りに、地下へと降りる階段が見えてきた。その階段の前に細身の男性が立っている。きりちゃんは私に音消しだけ解術するように言うと


「蓮」


とだけその彼に声をかけた。その細身の男性は少し首を動かすと、自然な感じでゆっくりと地下に降りて行く。


「行こう」


洸兌様がそう言ったので、ああなるほど、この男性が暗部の隊員さんなんだと気が付いた。


細身の暗部の方は地下に入ると、迷うことなく地下三階まで降りた。


何となく変な匂いのするカビ臭い場所だった。所々に収監されている囚人の方のうめき声?のようなものも聞こえる。こ、怖い…。すると緋劉がソッと手を握ってくれた。


さり気ない優しさだ…男前だ!あんた外見も内面も男前ってどういうことだ!…とか心の中で緋劉を褒めちぎっている間にどうやら目的の牢に着いたようだ。


細身の暗部の方は一番奥の牢の前でこちらを向いた。皆が緊張しているのが分かる。


洸兌様が何か術札を牢の格子に貼り付けた。


「よし、開いた…入るぞ。念の為俺も隠形術、使っとくわ」


「では、私はこれで」


小さく声が囁かれて、細身の暗部の方はアッと言う間に駆けて行った。格好良い。緋劉も同じように思ったらしい…。


「暗部も格好良いなぁ~」


はいはいっ…と。皆で素早く牢内に入った。そして牢の隅に(うずくま)る人に近づいた。


ん?蹲る人は女の人…と言うよりおばあちゃんみたいな年代の方だった…。怪我をされてるのかも…血の匂いがする。


「俺、今頃気づいたわ…島の言葉?とか分かんないわ。霧矛はどう?」


「兎に角、話しかけてみるか…。凛華、音消し臭い消し…この牢全体に広げてかけてくれ」


「御意」


私は意識を集中して術の拡大をした。よし…ちゃんと広がった。


きりちゃんは隠形の術を解いた。牢の中に蹲っていた女性は突然目の前に現れた私達を見て、悲鳴を上げた。そして…


「…!…っ。○○、…!」


ああ、何か叫ばれているけど私も全然言葉が分からない…。


「やっべ…やっぱダメだ。わかんねぇ!」


「誰…と聞いてるのは分かる。…白弦国の者です。もう大丈夫です……通じるかな」


洸兌様ときりちゃんがアワアワしている横を緋劉がゆっくりとその女性に近づいて行く。


「お、俺…言葉分かります!あなた達は誰だ?この国の者か?って聞いてます!?」


「マジで!」


洸兌様の叫びをよそに緋劉は女性の側に屈みながら近づくと話しかけた。


「…で…え~と……。……はい……そう、よし」


おばあちゃんのご年代だろうその女性は最初は怯えていたが、緋劉の言葉でやっと落ち着かれたのか、何度も頷いて早口に何かを訴えていた。


「凛華…おばあちゃんの傷を見てやってくれ」


「は、はいっ!」


私は緋劉の呼びかけに慌てておばあちゃんの側に行くと、霊視をして治療の術をかけた。


「指の爪…剥がされてる…」


「ひでぇことするな…」


私の呟きに洸兌様ときりちゃんがおばあちゃんの両脇に膝を突いた。


「ばあちゃん、浄化しとくわ…。服も血だらけだもんな…」


洸兌様が慈愛の籠った微笑を浮かべておばあちゃんの体を綺麗にしてくれた。


「これ…」


きりちゃんは竹筒に入った冷水をおばあちゃんに差し出していた。おばあちゃんは泣きながら竹筒を受け取りお水を飲んでいる。


「有難う御座います…ですって」


緋劉の通訳にきりちゃんは一つ頷くと


「緋劉、通訳を…このまま白弦国までお連れします。ご安心下さい…と」


おおっ!きりちゃんがキリッとしているよ!…お父さん達が好きそうな駄洒落を言っちゃったな…。おばあちゃんは緋劉の言葉に何度も頷いている。話の最中もおばあちゃんの背中をずっと摩っていると、おばあちゃんはやっと私にも笑顔を向けてくれた。


「さあ、行くぞ」


キリッとしたきりちゃんがおばあちゃんをおんぶして先頭に立ち、私達はまた廊下の隅を移動しながら今度は移動速度を上げての脱出を試みた。


城を出る時も問題は無かった。本当に拍子抜けだった。そして私達は無事に白弦国の丙琶に戻ることに成功した。


丙琶の特殊遊撃隊の宿泊所におばあちゃんを連れて戻ると、待っていた愁様と慶琉夏王様達は大喜びだった。緋劉がおばあちゃんに通訳しながら皇子二人を紹介すると、おばあちゃんは大慌てだった。


「よいよい、無理はなさるな。しっかり養生してくれ」


慶琉夏王様も愁様もそう言って微笑まれた。通訳用に緋劉をおばあちゃんの横に置いておいて、私は卵粥を作っておばあちゃんにお出しした。


「お腹に優しいものにしたんだけど、おばあちゃん食べれますか?」


おばあちゃんは泣きながら笑顔で頷いてくれた。良かった…。


さて…おばあちゃんからの詳しい話は明日、聞くことにして…私と洸兌様、きりちゃんは緋劉を三人で取り囲んでいた。


「さて緋劉よ?お前なんでまたあの島の言葉が分かるんだ?」


「吐け」


「ゆ、夢で…会う三鶴花さんと俺が話している言葉で…」


夢の三鶴花さんだってぇ!?…と言う事はだ…昔の言葉、少なくとも150年は前の言葉…?


それを聞いた洸兌様は目を剥いた。流石のきりちゃんもカッと目を見開いていた。


「お前っそんな重要なことを何でもっと早く言わねぇんだ!緊急会議だ!」


緋劉はきりちゃんに小脇に抱えられると(少し前にこの光景見たな…)連れて行かれた。


私と緋劉は先日、梗凪姉様達に話した…私と緋劉の前世、緋劉の夢の話などを話した。婚姻の呪いとやらは洸兌様が皆さんに説明した。そして話し終わると洸兌様はきりちゃんに意見を求めた。


「霧矛はどう思う?俺は古代術式系の婚姻の廻りの術だと思うんだけど…」


ドキドキするなぁ…緋劉と二人目を合わせると、頷き合った。


「うん…洸の見立て通り…古代術式だ…多分神龍語霊術だ。俺の隠形術と術式の系統が似てる」


「ぅえええ!?」


緋劉と私の叫び声が重なって…そしてまた龍…という単語が出て来たことに体が総毛だった。


緋劉を見ると…発作は起こしていないようで…目を見開いたまま洸兌様ときりちゃんの顔をウロウロと見詰めている。


「それじゃあ…この術は、龍が…どこかの龍が俺と凛華にかけたってことですか?」


緋劉の声は震えていた…。思わず緋劉の手を握り締めた。手も震えている。


「この術が、今は使えないのは知っているか?この術に関してこんな逸話がある」


きりちゃんは静かに話し出した。


「昔、某国の王族が自分好みの美しい男性と永遠に添い遂げたいと無理やりに龍王に頼み込み、婚姻の術を使った。しかし勝手にそんな術を使われた相手の男性は堪ったものじゃない。廻る度に王族を恨み憎み拒絶し、とうとうその王族は男性に殺されるという事件が起こったそうだ」


怖ーいぃ…永遠に恨まれて憎まれるなんて?そして殺されちゃうなんて…。


「その術を施した王族が後に再び龍王に頼んで、解術の為に…龍の…を使ったとか言われている。つまり龍の霊力が無い故に今は誰も使えない。つまりお前達の前世は龍と直接、術のやり取りの出来る存在だった…と言う事だな」


鱗…と言っちゃうと緋劉がまたぶっ倒れるんじゃないかと、きりちゃんは気を使ってくれたようだ…流石四天王様…。


「まあこの術式や伝承の類はまた書物殿で…その時に調べるってことで。それでさ、緋劉が前世の更に前の世で三鶴花と自分が話している言葉が、あの島のばーちゃんと同じ言葉だとしたら、お前ら元々あの島の住人だってことか?」


洸兌様に聞かれて首を捻ってしまう。


「あの…少なくとも私は記憶に無いのです…」


「俺も夢で話しているだけで…前世か?と聞かれると自信が無いです」


「う…ん、どうもはっきりせんな」


慶琉夏王が困った顔をされた。すると愁様がポンッと膝を打つと立ち上がった。


「島民のご婦人が本復されてから、何かお話を聞けるのではないかな~そうしましょうよ、兄上」


その愁様の言葉に皆様納得されて、その日はそれで散開になった。


翌日の昼過ぎ


夕食の仕込みをしていると、横で野菜の皮を剥いていた洸兌様がポツンと呟いた。


「なんか緋劉をビビらせちまったみたいで…悪かったな…」


洸兌様は芋の皮を剥く手を止めると、私を見て苦笑いをしていた。


「答えが掴めそうだと、焦ってしまって周りが見えなくなるんだ…ごめんなチビ」


「私に謝っても仕方ないですよ…ちょっと元気の無い緋劉を元気づけて下さいよ~」


洸兌様は少し首を捻って小声で呟いた。


「ふ~ん…じゃ緋劉が沐浴してる時に、凛華を沐浴場に放り込んでおこうかな…色々元気になるっしょ~」


こらーっ!聞こえてるしっ!大人が率先して如何わしい行為を煽ってどうするんだ!


台所で騒いでいると…


黄兄弟と緋劉が市場から帰って来たので緋劉を伴って、寝所で眠っているおばあちゃんの様子を見に行った。おっ、おばあちゃんは起きているね。


「おばあちゃん…寝てなくて大丈夫?」


おばあちゃんは微笑んで、緋劉に何か話しかけている。緋劉はうん、うん…と笑顔だ。


「治療してくれてありがとうだって…。おばあちゃん、沙衣(さえ)さんって言うんだって」


「沙衣さんなのね~私、凛華宜しくね」


「凛華…○○…」


何か言ってるけど、きっと良い事だね、緋劉もニコニコしているし。


沙衣さんと一緒に広間に行くと、私の料理を食卓に運んでいる洸兌様と梗凪姉様がいらっしゃった。


「あれ~?ばあちゃん起きて大丈夫なの?」


「さあ、こちらにお座りになられて」


梗凪姉様は慌てて私達に近づいて来ると、沙衣さんを支えながら長椅子に案内した。


「…沙衣…?」


と、沙衣さんは梗凪姉様に問うような仕草をしたので、姉様はすぐに、名前ね!梗凪と申します!と笑顔で名乗られた。


やがて広間に集まって来た皆様も沙衣さんに自己紹介をされてから、揃って夕飯を食べることになった。


沙衣さんには野菜入りの魚介汁をお出しした。


「揚げ物とかお肉は食べれそうですか?」


私がそう聞くと沙衣さんはダメダメ…という仕草をされた。はいでは、凛華特製海鮮饅頭はどうかな?おおっめっちゃ笑顔だ!


さて、夕食を食べた後…もう大丈夫だと言う沙衣さんから、色々と話を伺うことになった。


「疲れたらすぐにやめるのでな。早速で申し訳ないのだが、あなたの住んでおられた島の名称は…?」


問われた慶琉夏王に沙衣さんはゆっくりと頷くとはっきりと大きな声で言った。


雷慈黒龍(らいじこくりゅう)


ああ…その発音だけは変わらないのだな…とかの呟きは皆さんの色々な思いの籠ったざわめきで掻き消された。


「やっぱり…。黒龍国か!」


「実在したんだな…」


その後…緋劉を通して話された沙衣さんの…雷慈黒龍国の話に皆は言葉を失った。


「私の祖父から聞いた話です。随分と昔に周防白龍(すおうはくりゅう)国内で何か事件というか騒動があって…黒龍王様が白龍国絡みの外敵が侵入しないように島の周りに結界を張ったらしいのです。ところがその暫く後に、国内で呪詛を浴びた人が多数出て…魔を帯びた生物も増え続けてしまったのだと。島の周りに結界がなされているということは黒龍王様は御健在だと思うのですが…御健在ならば国内に蔓延(はびこ)る呪詛を祓うことを何故なされないのか…そもそも、黒龍国の軍や役人は何をしているのか…。私達は困り果てているのです」


「今は島の結界は消失しているようだが?」


と、慶琉夏王がそう沙衣さんに尋ねると沙衣さんは唇を噛みしめた。


「龍王様とて寿命というものがあります。すでに結界が張り続けられて数百年と聞きます。もしかして…とは思います」


「あの呪詛を受けた者達を我々は討伐してきたのだが、祓う…つまり呪詛を解術出来ると言う訳だな?」


今度は愁釉王がそう尋ねると沙衣さんは何度も頷きながら答えた。


「私は術師ではないので、祓うことは出来ませんが…以前、術師の方が呪詛にかかってしまった人を祓うのを何度も見ています。只…国が何もしてくれないのです。恐らくですが…島民もほとんど生存していないでしょう…魔を帯びた者にやられたか…食料が底を尽きて…。私は息子夫婦と浜辺の村で隠れ住んでいましたが…。その…あの国の方々に見つかって…」


ああそうか…。実は苅莫羽牟って何度かあの島に上陸していたそうなのよね…。


「謎が多いな…。やはり黒龍王様にご拝謁出来れば…。明歌南公国と合同でやってみるか…」


慶琉夏王の言葉に皆の霊力が研ぎ澄まされていく。おお…。流石武人の皆様…霊圧がすごい。


「霧矛と洸兌は異形の呪詛の解術方法を調べてみてくれ。私は皇帝陛下に申しあげてみる。」


慶琉夏王は夜なのに禁軍のお兄様達と皇宮に戻られた。


沙衣おばあちゃんは事態が好転しそうなことで、とても嬉しそうに愁釉王にお礼を述べられていた。


「なあ、沙衣バア、あなたの住まう雷慈黒龍国は少なくともあなたの祖父の代くらいまでは、国として機能はしていたのだよね?」


と愁様が尋ねると、緋劉の通訳を聞き終えて沙衣さんは何度も何度も頷いていた。


「そして最近では…国の動きはまったくない…と。これは国の内政が崩壊したとみていいな…。黒龍王は何をしているのかな~。龍とはもっと万能の優れた一族だと思っていたけどなんかがっかりだな…」


「ちょっと考えていたんですけどぉ~」


と漢莉お姉様が手を挙げられてから皆を見ながら話し出した。


「つまり雷慈黒龍国の黒龍王様って子供とか…親族とかいないの?長寿なのは知っているけど…龍の一族が束になって制圧すれば異形のモノ…呪詛にかかったモノもすぐに対処できそうじゃない?」


「そうですね…。只、伝承どおりだとすると龍は繁殖能力の低い生き物だとされています。個体が強い故に総体個数が激増することはない…。それで合っていますか?沙衣さん?」


伶 秦我中将が眼鏡をキランと光らせて尋ねると沙衣さんは頷きながら緋劉に何かを話している。


「ええ?そうなの?うわ…」


「緋劉君、何?早く教えて?」


梗凪姉様が緋劉を急かすと緋劉は沙衣さんに返事をしながら通訳した内容を教えてくれた。


「確か黒龍王様には番の龍の王配と王子様がいるはずだ…。ただ…噂じゃ二人はどこかに逃げたとか…」


「え?おうは…って何ですか?」


私が首を捻ると愁様が説明してくれた。


「王配とは王の配偶者と言う意味だ。しかしちょっと待てよ?それは…なんだと?黒龍王様は女人…あ、いや雌で在らせられるのか?」


「ええ!?黒龍王様って女王なの!?」


いやいやびっくりである。まあ雌だろうが雄だろうが…今、雷慈黒龍国が異形のモノの発生国なのは間違いないのだから…。そこは重要ではないと思う。


次の日の夕方


すっかり元気になられた沙衣おばあちゃんに手伝ってもらいながら、夕食の準備をしていると慶琉夏王と禁軍のお兄様達が燦坂から戻って来られた。


慶琉夏王は沙衣おばあちゃんと私達を呼ぶと、非常に嬉しそうな顔で笑った。


「沙衣…吉報だ。明日、明歌南の使者と共に明歌南公国の大公陛下にお会いしてくる。恐らく近いうちに雷慈黒龍国に入国というか…上陸することが出来る。物々しい入国になるが、黒龍国の内政関係者を見つけることが出来れば黒龍王様に取り次いで貰うことも出来よう。国に息子夫婦を残していることで心配もしておろうが、もう暫く待ってくれ」


「良かった…おばあちゃん」


思わず呟くと、沙衣おばあちゃんは目を潤ませながら私の頭を撫でてくれた。


と言う訳で、近いうちに黒龍国に上陸もとい、探検に赴けると言う事で探検冒険大好きな緋劉の興奮度が半端なかった。


明日の朝の点心の下ごしらえを手伝ってくれているのか…それとも邪魔してるのか…どっちなんだよ。


「なあ凛華!まだ見たこと無い黒龍国の遺跡とか太古からある宮殿とか見れるかな?」


「はいはい…」


「凛華…」


「はいはい…」


「婚姻の廻り…もし黒龍王様が解術出来るなら、凛華はどうする?」


「はい…は…はぁ?」


饅頭の皮を作る手を止めて緋劉の方を見た。緋劉はびっくりするくらい真剣な目で私を見ていた。


「どうって…」


「凛華が廻って…辛い目に遭ってて…もう嫌だって言うなら、俺…解術しても…」


目が回りそうだ…。緋劉はもう婚姻の廻りで私と会いたくない…と言う事なんだろうか…。最後まで聞きたくなくて台所を飛び出してお手洗いに飛び込んで中から閂をかけて戸を閉めた。


あんなに会いたくて…今だって大好きな人なのに…もう会えなくてもいいと思われてるの?涙で視界がぼやけてくる。


どれくらい一人で泣いていただろうか…お手洗いの外が急に騒がしくなってきた。


緋劉と洸兌様と漢莉お姉様の声が聞こえる。あ、きりちゃんと雪様の霊力も感じる。


「このバカチンが!」


洸兌様の怒鳴り声とゴチンと何かが当たる音がして緋劉の、いてぇぇぇ!という絶叫がお手洗いの中まで聞こえてきた。


「緋劉ちゃんって馬鹿なのかと思ってたけどやっぱり馬鹿なのね!」


漢莉お姉様の心を抉る罵声が聞こえてくる。緋劉…怒られてるの?


「凛にしてみれば…お前とずっと巡り合えるこの呪い…嬉しいと思うが…。緋劉は違うのか?」


雪様、そうです!その通りなんです!私、呪いでも呪詛でも何でもいいから…彼と…緋劉とずっと廻りあっていたいんです。


「ち…違います!俺も俺も…凛華と…ずっとずっと…一緒にいたいです!ただ…凛華があんな辛い思いしてまでって…」


私は閂を開けて外に飛び出した。


「違うよバカチン緋劉!あんたに会えるからっ会いたいから…どんな辛くても頑張れるんだよおっ…あっ…ひ…うわあああんぅぅ…」


緋劉の顔を見た途端また涙が溢れてきて号泣してしまった。沙衣おばあちゃんが私の肩を撫でながら布巾で涙を拭ってくれる…。


「おばあぢゃ…んっ…うぐっ…」


沙衣おばあちゃんは、私を見ながらオロオロしている緋劉の手を取ると、緋劉を私の目の前に引っ張って来てくれた。おばあちゃんは優しい笑顔で私と緋劉の頭を撫でてくれる。


緋劉はモジモジした後に真っ直ぐに私を見ながら言った。


「凛華…ずっと一緒に居てくれる?」


「うん、うん…」


私は嬉しくて何度も頷いた。緋劉も嬉しそうに笑い返してくれてた…その時。


「ちょっとーーーやだーーーっもうぅぅ!何これ?愛なの愛なのね!」


久々…良い雰囲気がぶち壊しだよ…岩乙女…。緋劉と二人、漢莉オネエこと岩乙女をじっとりと睨みつけた。


「やーーん!いいわっ運命の恋!燃え上るわーー!あーん!私も運命の愛する恋人が欲しいっ!」


「何が運命だっつーの。コレあれか?世代を跨いだ壮大な惚気を見せられてるのか?おいバカチン共!一人もんの俺に対する壮絶なる嫌がらせか!?」


こ…洸兌様…激おこ…だ。


「もうっっいい話じゃないっ!なぁに?洸兌ちゃんが寂しいなら私が運命の相手になってあげるわ♡」


洸兌様はぎゃっ…と叫んで、にじり寄って来た岩乙女を避けて岩(雪様)の後ろに逃げ込んだ。


「ふざけんなっおっさん!きもいわ!俺にはな!美人でっ色っぽい体でっ優しくって料理も上手くってっ俺の事大事にしてくれる運命の女の子がいるんだよ、今は会えてないけどこの世界に絶対いるのっ!」


洸兌様も逃げてるけど、きりちゃんまで…なんと沙衣おばあちゃんの背中に隠れている…。きりちゃん、あんた禁軍で一番強いはずだよね?


「もうぅ…そんな天女みたいな女なんて実在するもんですかっ!私にしておけば間違いないのにっ洸兌ちゃんの馬鹿!」


何が、間違いないのかよく分からんが…岩乙女を選ぶことが、とんでもない間違いなことだけは理解出来ます…。



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