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QK -1213-  作者: 黄黒真直
第8章 二学期
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第84話 3,1,2

 進路希望票の提出日は、中間試験の初日だった。みぞれは悩んだ末、文理コースと書いてお茶を濁した。最終的な意思表明は約二か月後に提出する。それまでに決定すればいい。

 試験はいつも通りの出来だった。平均点が取れていれば上々だ。きっと津々実は、また満点近く取っているのだろう。

「試験お疲れ様」

 中間試験の最終日、すべての試験が終わって部室へ行くと、伊緒菜が笑顔で迎えた。

「悪いわね、津々実。こっちに来てくれて」

「いえ。あっちはあたしがいなくても平気ですし」

 津々実は軽く答えて、鞄を机に置いた。家庭科部では今日から、文化祭の準備を本格的に始める。今日は試験休みの間に調べたことを発表しあい、必要な材料や素材を整理するのだ。

「慧は?」

「まだ来てないわ。ま、すぐ来るでしょ」

 伊緒菜はトランプを切りながら言った。

「それより、一週間ゲームができなかったから、二人ともやらない?」

 QKを二試合ほど終えたとき、ようやく慧が部室に来た。

「すみません、遅くなりました」

「どうしたの? 何かあった?」

 慧ははにかんだ。

「その……クラスの友達と話し込んじゃって」

「あら、珍しい」

 三人とも、意外に思った。少し前の慧なら考えられない行動だ。慧は言い訳するように続けた。

「今日のテスト、数学と国語と理科だったじゃないですか。国語が得意な友達と理科が得意な友達がいたから、みんなで答え合わせしてたんです」

 声がいつもより浮ついている。部活に遅れた言い訳ではなく、クラスメイトと仲良くなったことに対する言い訳に聞こえる。デートの口実を取り繕っているときの話し方だ。伊緒菜と津々実が、口元をにやつかせる。みぞれも微笑ましそうに目を細めた。

「な、なんですか?」

「なんでもないわ」伊緒菜は感情を隠さずに言った。「仲良くなれてよかったわね」

「いや、その、ええ、はい、まあ」

 しどろもどろに答えた。

「さて、じゃ、慧も来たし、お腹も空いたし、そろそろ行きましょうか」

 伊緒菜がトランプをしまう。それに合わせて、みぞれと津々実も鞄を取った。


 いつものファミレスへやってきた。お昼時を少し外れたためか、比較的空いている。料理の注文を終え、各々ドリンクバーから飲み物を取ってくると、伊緒菜が「さて」と話を切り出した。

「文化祭まで一か月を切ったわ。今日中に、私達も出し物を決めましょう」

 部員たちは真剣な顔で頷いた。

「最初に目標を整理しておくわ。文化祭での目標は、QK部の知名度を上げること。そのために、文化祭で開催される人気投票で上位に入ることを目指す」

「上位になれば知名度が上がる、というより、知名度が上がれば上位に入る、という話ですよね」

 津々実が小さく手を挙げて質問した。伊緒菜は、ええそうね、と頷く。

「だからランキングが低くても、知名度さえ向上していれば問題ないわね。炎上商法みたいなのは勘弁だけど」

 最終的には、来年の部員を増やすのが目的である。イメージは良くしないといけない。

「で、何か良いアイディアは浮かんだかしら?」

 伊緒菜が見回すと、津々実は腕を組み、みぞれはオレンジジュースのストローをくわえた。

 そんな中、最初に口を開いたのは慧だった。

「思ったんですけど、今年も去年と同じようにQKの体験会をやっていいんじゃないでしょうか」

「そう? なら楽だけど、どうして?」

「この間の体育祭で、金メダルを持った津々実ちゃんは目立ってました。私も友達から色々聞かれて、説明したらみんなQKに興味持ってくれましたから。その体験会をやるって言ったら、かなりの人が来るんじゃないでしょうか?」

「それもそうね」と肯定しながら、伊緒菜は緑茶を一口飲んだ。そして、だけど、と続けた。

「だけど、記憶に残ってるのは、私たちの友達だけだと思うわ。残念だけど」

「そうですか?」

「そうよ。例えば、慧は、科学部のバトンがなんだったか覚えてる?」

「え? えっと……」

 慧は目線を上げて、記憶を必死に探った。何か、すごく目立つことをやっていたが、それが何だったか思い出せない。どの部も趣向を凝らし、面白いことをやっていたのだ。一つ一つの記憶は薄れてしまう。

「わ、忘れました……」

「ね? 残念だけど、そういうものよ」

 そのタイミングで四人分の料理が運ばれてきた。四人ともちょっとずつ身を引いて、料理が並べられるのを待つ。店員が立ち去ると、伊緒菜が「とりあえず、食べましょうか」と食器カゴをテーブルの中央に滑らせた。

 いただきます、と伊緒菜はリゾットを一口食べると、話を続けた。

「だから、QKをやるっていう直接的なものは、あまりウケないと思うの。この際、全然関係ないものでも構わないわ」

「そうはいっても」ハンバーグを切りながら津々実が反対する。「せめてトランプ要素か素数要素はあった方がいいんじゃないですか? 名前だけ売れても、何やってる部なのかわからないと無意味なんじゃ」

「そうですよ」慧はフォークを置いて同調した。「『QK部』って、名前だけ聞くと『休憩する部活』だと思われますよ」

 リゾットを咀嚼しながら、相槌だけ打つ。飲み込んでから、

「入れるなら素数要素かしらね。トランプ要素だけだと、ボドゲ部と思われるかもしれないし」

 と二人の意見を聞き入れた。

「トランプは、部屋の飾りとかに使えばいいんじゃないですか?」

 グラタンをフーフー冷ましていたみぞれが意見を出した。

「で、素数要素のある企画をやれば……」

「そうね……枠組みとしてはそれが最善かしらね。『なんかトランプと素数を使う部活がある』と印象付けられるわ。問題は、素数で人を呼べるか、ってことだけど……」

 四人とも沈黙した。素数を使った何かしらをやる、と宣伝したところで、人が大勢来るとは思えない。

「あの」

 みぞれはスプーンを置いた。手にぐっと力を込めて、言った。

「やっぱり、一位のボランティア部の真似をするんじゃ、ダメなんでしょうか?」

 去年の文化祭で人気投票一位だったボランティア部は、校内の清掃や道案内をしていた。

「前も言ったけど」と伊緒菜。「あれは人数が多いからできたことよ。私達には無理だわ」

「だから、その……増やすんです」

「増やす?」

「はい。例えば、うちでゲームをして、勝った人にバッジみたいな賞品をあげるんです。それを服につけて歩いてもらえば、宣伝になります」

 みぞれは、我ながら良い案だと思った。また人真似だが、今回は完全な真似ではない。足りなければ増やす、しかも部員以外を増やす。この部分だけは、みぞれ独自のアイディアだ。

 しかし、隣に座る津々実から反論が出てきた。

「でも、みんなバッジなんて付けるかな? 外部のお客さんはおしゃれもしてるだろうから、服に合うものじゃないと付けないんじゃない?」

「う……」

「そうね」と伊緒菜も反論した。「問題点が二つあるわ。一つは、いま津々実が言った通り、喜んでバッジを付ける人は、たぶん子供くらいってこと。もう一つは、仮に付けてもらえても、『あのバッジが欲しい』と思われなければうちに来ないってこと。そんな魅力的なバッジって、なに?」

「うう……」

 やはり人真似ではダメなのか。みぞれはまた落胆した。

 しかし、スプーンを持つ手を止めた伊緒菜が、一拍考えてから言った。

「でも、そうね……お客さんに宣伝してもらうってのは、良い作戦かもしれない。その方向でちょっと考えてみましょうか」

 みぞれは目を輝かせた。自分の意見が認められた。

 カルボナーラをフォークに巻き付けていた慧が、ふと顔を上げた。

「なら、賞品を袋に入れるのはどうですか? その袋に、『QK部』って書いておくんです。そうすれば、持って歩いてもらうだけで宣伝になります」

「ああ……いいわね。実際のお店とかがやってる手だわ」

「いや、どうだろう」津々実が目玉焼きを潰して言った。「どっちみち、同じ問題が出るよ。『あの賞品が欲しい』と見ただけで思わせなきゃいけない。そんな賞品、あたしらに用意できる?」

「あ、そうか……」

「それより、食べるのに時間のかかる食べ物を出したらどうでしょうか。りんご飴とか。そんで、その包み紙にQK部のロゴでも描いておくんです。そうすればごく自然に持ち歩きますし、『あれ食べたい』と思わせればうちに来ます」

「食べ物……」

 伊緒菜が腕を組んで考えている間に、みぞれが

「それだと、素数要素がないんじゃない?」

 と突っ込んだ。

「あ、そっか。素数要素のある食べ物なんてあるかな……」

「もうひとつ問題があるわ」腕組みを解いた伊緒菜が言う。「食べ物関係は、ほとんどの運動部と、半分くらいのクラスが出すってこと。だから、それこそ家庭科部くらいのクオリティでないと、埋もれちゃうわ」

「ううん……食べるのに時間がかかって、素数要素があって、見た目だけで興味を惹かせられる食べ物かぁ……」

 しかも、手で持ち歩けて、ある程度の大きさの包み紙が必要だ。津々実は考え込んでしまった。

「あとは、例えば……」伊緒菜も思案顔で言った。「謎解きもありかもしれないわ」

「謎解き?」

「そう。学校内を回って手がかりを集めて、用紙に書かれた謎を解くの。クリアファイルと一緒に渡せば、みんなそのクリアファイルを持ち歩くでしょ? しかもみんな、手がかりがある場所に集まる。『同じファイルを持った人が一か所に集まっている』という目立つ光景が出来上がるのよ。これは宣伝になるわ」

「いいじゃないですか!」津々実が手を打った。「それ、いけるんじゃないですか?」

「あ、それなら」慧が追加で提案した。「謎に素数要素やトランプ要素を入れておけば、QKのアピールもできます。いえ、むしろ、QKそのものを使った謎なら……」

「うん、そういう謎を作れば……」津々実の動きが止まった。「作れば?」

「そう、これも問題点が二つある。一つは、私達に面白い謎が作れるのか? ――ま、正直、宣伝目的だから問題の面白さはあんまり重要ではないかもしれないけどね」

「もう一つの問題は?」

「どうやって校内に手がかりを設置するか? 生徒会から指定された場所や教室以外に、自分たちの物を置くのは禁止されているの。“支店”が禁止されてるのよ」

「え、でも、ボランティア部は……」

「あれは“売り歩き”の範疇だったんでしょうね。申請さえすれば、売り歩きはできるわ。だから、私たちがそれぞれ手がかりを持って校内のどこかにずっといればいいけど……」

 それだと、自分たちが文化祭を巡れない。それは避けたかった。

「あ、でも、ポスターは?」津々実が小さく手を挙げていった。「文化祭なんですから、廊下に部やクラスのポスターを張りますよね? ポスターを何種類か作って、それぞれに手がかりを描いておけばいいんじゃないですか?」

「あ、なるほど。それなら……」いけそうね、と言おうとして、伊緒菜は去年のことを思い出した。「いえ、ダメね。たしか出せるポスターは一種類だけだったはず」

「ううん……」

 津々実はうなりながら、ハンバーグを切る作業に戻った。

 全員黙ってしまった。みぞれもグラタンを口に運びながら、首をひねる。

 家庭科部とのコラボは失敗した。ボランティア部の真似は難しい。

 すると残るは、IT研究会の真似だ。コンピュータを使ったメイクシミュレーションだと言っていたが、みぞれ達にそんなものを作る能力はない。しかし、真似できる要素はあるのではないか。

 ボランティア部は人海戦術で知名度を上げたし、家庭科部は元から有名だ。そのどちらでもないIT研究会が二位になれたのは、お客さんが宣伝したくなる魅力があったからではないか。「IT研に行ったら、こんなメイク方法を教えてもらえた」と。

 だからQK部も、これを狙えばいい。「QK部に行ったら、〇〇ができた」と。QKの要素があって、お客さんが宣伝したくなるような企画があればいい。

 QKには、何ができるだろうか?

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