第100.5話 3ー1
年が明け、一ヶ月が過ぎ、二ヶ月が過ぎた。
柳高校にも卒業シーズンがやってきた。史は胸に花をあしらったワッペンをつけ、髪もいつもより丁寧にセットしていた。
「「史先輩、卒業おめでとうございます!」」
「ありがとう、二人とも」
卒業式のあと、史はQK部室に立ち寄った。部室に入ると、後輩の双子の姉妹、美衣と美沙が出迎えてくれた。姉の美沙は左側にサイドテールを垂らしていて、妹の美衣は右側にサイドテールを垂らしている。髪型以外は瓜二つな二人だが、この一年で見分けられるようになった。
派手なクラッカーでも鳴らされるかと身構えていたが、二人にしてはまともな出迎えだった。
「先輩、これどうぞ」
と小さい花束も渡してくれた。爆竹でも仕掛けられてるかと思ったが、それもなかった。
「無事に進路も決まって良かったですね」
「本当にな」
史は見事、第一志望に受かっていた。四月からは大学生として、語学に励む予定だった。
「……しかし、きみらにしてはまともな出迎えだな」
「なんですかそれ」
「うちらのことどう思ってるんですか」
「いたずら好きの双子」
「まーそうですけどー」
「さすがにこんな日には何もしませんよー」
双子はからからと笑った。
二人があまりに淡白なことに、史は拍子抜けした。二人は真剣勝負に負けると泣き出すような、感情の発露が大きい人間だ。一年間一緒にいた先輩が卒業するのだから、もう少しなにかあるかと思ったのだが。
「二人とも、泣いたりしないんだな」
「なんで?」
「先輩が卒業するからですか?」
「史先輩の卒業じゃねぇ……」
「……」
史はため息を吐いた。思えば、先輩らしいことはほとんど何もできていない。自分はいつだって、双子の熱意に押されていただけだ。
「ま、それならそれでいいや。気楽に卒業できるよ」
史は安心すると、部室を見渡した。
中学時代の先輩に誘われて入部し、三年間通い詰めた部室だ。お茶もお菓子もあって、放課後の時間を気ままに潰すことができる場所だった。一年前までは。
三年生になり、部員が自分だけになって途方に暮れたとき、双子の一年生が入ってきた。
二人が入ってきてから、この部は変わった。美衣と美沙は、本気で全国優勝を目指しており、史も二人の熱量に引っ張られるように考え方が変わっていった。
濃密な一年だった。
「きみらが来てから、すごく楽しかったよ」
「いたずらするからですか?」
「そうじゃなくて。何かに真剣に取り組むってことがどういうことか、教えられたんだ。きみらがいなかったら、今の私はいないよ。ありがとう」
史のストレートな感謝の言葉に、さすがの双子も照れた。
「ま、まぁ? あの頃の先輩はつまんない人でしたし?」
「うちらより弱そうだったから、自分たちで勝手にやることに決めただけだし?」
「そうそう。しょーもない人間の相手はしない主義ってだけだし?」
たしかにあの頃の自分は、つまらない人間だっただろう。双子の言葉はただの照れ隠しだけではなく、正真正銘の本音だ。思えば夏以降、二人との距離も縮まったし、それに比例していたずらの頻度も増えた。「しょーもない人間」から昇格したのだ。
だから史は、二人に言うべきなのはしょーもない感謝の言葉ではなく、この三人の間だけで通じる言葉だろうと思った。ちょうど、双子はその言葉を言える状況を、用意してくれている。
「それで、二人は、いつまで入れ替わっているんだ?」
二人が息を呑むのがわかった。双子の二人は瓜二つで、髪型くらいしか見分ける術がない。普段は姉の美沙が右側にサイドテールを垂らし、妹の美衣が左側にサイドテールを垂らしている。それが今は、入れ替わっていた。
「何言ってるんですかー、私が美沙ですよー」
「そうですよ、私が美衣ですよ」
「誤魔化しても無駄だよ。この一年、どんだけきみらのことを見てたと思ってるんだ」
二人の熱意に惹かれ、いつしか史は二人から目を離せなくなっていた。だから、このくらいのいたずらは見抜けるようになっていた。
そのことは、どうやらしっかりと伝わった。
二人は突然、泣き出した。
「わっ、なんだ、どうした」
「だっでせんぱいが〜〜〜!」
史は、泣きじゃくる二人をそっと抱きしめた。
「ぞづぎょうおめでどうございます〜!」
「また来でくだざいね〜!」
「うん、うん。ありがとう」
美衣と美沙に出会えて良かった。自分にはもったいないほどの、優秀で可愛らしい後輩たちだった。




