↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
QK -1213-  作者: 黄黒真直
最終章 冬から春
PR
108/109

第100.5話 3ー1

 年が明け、一ヶ月が過ぎ、二ヶ月が過ぎた。

 柳高校にも卒業シーズンがやってきた。史は胸に花をあしらったワッペンをつけ、髪もいつもより丁寧にセットしていた。


「「史先輩、卒業おめでとうございます!」」

「ありがとう、二人とも」


 卒業式のあと、史はQK部室に立ち寄った。部室に入ると、後輩の双子の姉妹、美衣と美沙が出迎えてくれた。姉の美沙は左側にサイドテールを垂らしていて、妹の美衣は右側にサイドテールを垂らしている。髪型以外は瓜二つな二人だが、この一年で見分けられるようになった。


 派手なクラッカーでも鳴らされるかと身構えていたが、二人にしてはまともな出迎えだった。

「先輩、これどうぞ」

 と小さい花束も渡してくれた。爆竹でも仕掛けられてるかと思ったが、それもなかった。

「無事に進路も決まって良かったですね」

「本当にな」


 史は見事、第一志望に受かっていた。四月からは大学生として、語学に励む予定だった。


「……しかし、きみらにしてはまともな出迎えだな」

「なんですかそれ」

「うちらのことどう思ってるんですか」

「いたずら好きの双子」

「まーそうですけどー」

「さすがにこんな日には何もしませんよー」


 双子はからからと笑った。

 二人があまりに淡白なことに、史は拍子抜けした。二人は真剣勝負に負けると泣き出すような、感情の発露が大きい人間だ。一年間一緒にいた先輩が卒業するのだから、もう少しなにかあるかと思ったのだが。


「二人とも、泣いたりしないんだな」

「なんで?」

「先輩が卒業するからですか?」

「史先輩の卒業じゃねぇ……」

「……」


 史はため息を吐いた。思えば、先輩らしいことはほとんど何もできていない。自分はいつだって、双子の熱意に押されていただけだ。


「ま、それならそれでいいや。気楽に卒業できるよ」


 史は安心すると、部室を見渡した。

 中学時代の先輩に誘われて入部し、三年間通い詰めた部室だ。お茶もお菓子もあって、放課後の時間を気ままに潰すことができる場所だった。一年前までは。


 三年生になり、部員が自分だけになって途方に暮れたとき、双子の一年生が入ってきた。

 二人が入ってきてから、この部は変わった。美衣と美沙は、本気で全国優勝を目指しており、史も二人の熱量に引っ張られるように考え方が変わっていった。

 濃密な一年だった。


「きみらが来てから、すごく楽しかったよ」

「いたずらするからですか?」

「そうじゃなくて。何かに真剣に取り組むってことがどういうことか、教えられたんだ。きみらがいなかったら、今の私はいないよ。ありがとう」


 史のストレートな感謝の言葉に、さすがの双子も照れた。


「ま、まぁ? あの頃の先輩はつまんない人でしたし?」

「うちらより弱そうだったから、自分たちで勝手にやることに決めただけだし?」

「そうそう。しょーもない人間の相手はしない主義ってだけだし?」


 たしかにあの頃の自分は、つまらない人間だっただろう。双子の言葉はただの照れ隠しだけではなく、正真正銘の本音だ。思えば夏以降、二人との距離も縮まったし、それに比例していたずらの頻度も増えた。「しょーもない人間」から昇格したのだ。

 だから史は、二人に言うべきなのはしょーもない感謝の言葉ではなく、この三人の間だけで通じる言葉だろうと思った。ちょうど、双子はその言葉を言える状況を、用意してくれている。


「それで、二人は、いつまで入れ替わっているんだ?」


 二人が息を呑むのがわかった。双子の二人は瓜二つで、髪型くらいしか見分ける術がない。普段は姉の美沙が右側にサイドテールを垂らし、妹の美衣が左側にサイドテールを垂らしている。それが今は、入れ替わっていた。


「何言ってるんですかー、私が美沙ですよー」

「そうですよ、私が美衣ですよ」

「誤魔化しても無駄だよ。この一年、どんだけきみらのことを見てたと思ってるんだ」


 二人の熱意に惹かれ、いつしか史は二人から目を離せなくなっていた。だから、このくらいのいたずらは見抜けるようになっていた。


 そのことは、どうやらしっかりと伝わった。

 二人は突然、泣き出した。


「わっ、なんだ、どうした」

「だっでせんぱいが〜〜〜!」


 史は、泣きじゃくる二人をそっと抱きしめた。


「ぞづぎょうおめでどうございます〜!」

「また来でくだざいね〜!」

「うん、うん。ありがとう」


 美衣と美沙に出会えて良かった。自分にはもったいないほどの、優秀で可愛らしい後輩たちだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。