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QK -1213-  作者: 黄黒真直
最終章 冬から春
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第99話 11×4+10

『決勝戦の興奮もまだ冷めていませんが、ここからはお楽しみのエキシビジョンマッチです!』

 試合会場に残ったまま、成田が実況を続けた。

『改めて説明しましょう。小西さん、お願いします』

『はい。本大会では毎年何かしらの試みを行っているのですが、今年はエキシビジョンマッチとして、2対2のチーム戦を行います。通常のQKとほぼ同じルールですが、自分のターンのとき、仲間とカードを1枚交換しても良いというルールを設けます』

『山札からドローする代わりに、ですね?』

『はい』

『交換は何度でもできるんですね?』

『はい。ただし、1ターンに1回までです』

『わかりました。一体どんな試合になるのでしょうか。エキシビジョンマッチに出場していただくのは、本日の嵐の中心だった大月選手と太田選手です!』

『対する相手チームは誰がやるのですか?』

『それはもちろん、我々実況解説チームです!』

『は?』

 小西は本当に知らなかったようだ。

『だから私は聞かされてなかったんですね』

『聞いてたら反対するでしょうからね! まぁいいじゃないですか、ここまで何十試合も見てきて、我々もQK欲が湧いてきたところです。せっかくだから一戦やっていきましょう!』

 聞いたことのない欲だな、とみぞれは思った。しかし、気持ちはよくわかった。

 この大会の視聴中、みぞれは何度も「自分ならこうする」とか「そんな方法もあるんだ」とか、色々な思考や驚きを経験した。そして、早くそれらを実践したいと感じていた。

 それは他の6人も同じだった。お菓子とジュースが置かれていたローテーブルには、いつの間にかトランプも散乱していた。試合を見ながら、あれやこれやと考えたためだ。

 画面の中で、試合の準備が進んでいた。4人が同じテーブルにつく。瑠奈と陽向、成田と小西がそれぞれ向き合った。手番は時計回りに巡るので、1ターンごとに相手チームに手番が渡ることになる。

「この2人が戦うとなると」と津々実。「この試合の実況解説は誰が?」

 全く同じ質問を、小西がした。

『この試合中、実況解説はどうするんですか?』

『もちろん、私達がやりますよ!』

『どうやってやるんですか』

『台本には「うまいことやれ」と書いてあります。実況解説というよりは雑談のような感じで、ラフにやっていきましょう。とはいえ、試合そのものには手を抜きませんよ!』

 成田は気合十分だった。小西もなんだかんだ、成田に合わせるのだろう。2人の仲のよさは、この6時間で伝わっていた。

 画面が切り替わり、4人の顔と手元が映された。試合の準備が整ったようだ。

『あ、準備できましたか。わかりました、それでは始めましょう! エキシビジョンマッチ、2対2のチーム戦、スタートです!』


『さぁ始まりました2対2のチーム戦。私達実況解説チームも初めてプレイするルールです。大月選手と太田選手はどうですか?』

『私達もやったことないです』

『つまりお互い初心者同士、これは我々にも勝機がありますよ。おっと、小西が早速出した、3枚でQ (12)89。初手で絵札を使ってきた! ラマヌジャン革命を警戒しているのか!?』

『ちょっと、何バラしてるのよ』

 エキシビションマッチということもあり、みぞれ達も決勝戦よりリラックスしていた。成田と小西のやり取りに笑いながら視聴している。遠海姉妹に至っては、疲れたのか伊緒菜のベッドに寝そべっていた。

 画面の中の4人も、本戦よりは和やかな表情だった。それでも試合には手を抜かず、激しい攻防が続いていた。

 瑠奈と陽向はお互いに指を立てたり曲げたりして、何かを伝えてからカードを交換している。ちゃっかりと事前に暗号を決めてあったようだ。対して成田と小西は、堂々と手札の内容を言い合って交換していた。

「どうなるかと思ったけど、意外と戦略性がありそうね」

「そうですか?」

「チームメイトの手札は、中身がわかってる山札みたいなものだもの。しかも『交換』ってことは、自分の手札から不要なカードを捨てられるってこと。これは普通のQKとは全然違くて、いかに手札を構築するかのゲームよ」

「ドミニオンみたいな?」

 みぞれは昼間に遊んだボードゲームの名前を出した。

「近いかもね。ほら、烏羽高校の2人、次のターンで革命を起こして、あとはノンストップよ」

 伊緒菜の予言通り、次の手番で瑠奈が1729を出した。そこからは一度も成田と小西に手札を出させることなく、一息に上がってしまった。

『強い! これぞチャンピオン! 全く新規のルールでも、大月選手が勝ってしまった! エキシビジョンマッチは、高校生チームの勝利だ!!』


 大会は終わり、成田と小西が手を振る映像で配信も終了した。

 それじゃおやすみ、と史が言った。

『受験も近いから、規則正しい生活をしないとね』

「手遅れだと思いますけど」

 現在時刻は午前7時だ。史は苦笑しながら通話を切った。

「あなた達はどうする?」

 と伊緒菜がベッドの上を確認すると、遠海姉妹はそろって寝息を立てていた。

「まさか人のベッドで寝るとは」

「寝たふりで悪戯しようとしてるんじゃ?」

 津々実は2人の頬を突いたが、全く反応がない。この2人ならそのくらいの演技はしそうだが、

「これは本気で寝てるね」

 と津々実は断言した。伊緒菜も頬を突いて、

「寝てると可愛いわね」

「寝てないと可愛くないんですか」

「そんなこともないけど。ヘアゴム取ってみましょうか——髪型を揃えると、本当にそっくりね」

 伊緒菜と津々実が遠海姉妹で遊ぶのを、みぞれはハラハラしながら見守った。

「ま、この2人は放っておいて」散々遊んでから伊緒菜は言った。「萌黄高校QK部は、1試合やってみましょうか」

 伊緒菜はテーブルに散らばったトランプを回収した。伊緒菜が枚数を数えている間に、みぞれ達はテーブルの上を片付ける。

「トーナメント方式ですか? それとも、4人対戦?」

 津々実が聞くと、伊緒菜は

「なに言ってるの」

 とにやりと笑った。

「チーム戦をやるわよ。エキシビションマッチでやってたやつ。やってみたいでしょ?」

 拒む理由はなかった。みぞれ達も、やってみたいと思っていたからだ。

「チームはどうするんです?」

 津々実は何気なく聞いた。すると珍しいことに、みぞれが自己主張をした。

「わたし、伊緒菜先輩と別チームがいいです」

「あら、いいわね。私と戦いたいってこと?」

 伊緒菜は嬉しそうだった。

「それなら戦力差から考えて、私と津々実のチームと、みぞれと慧のチームに分かれた方が良さそうね」

「わかりました。頑張ろうね、慧ちゃん」

「う、うん」

 慧はだいぶ眠そうだった。

「それじゃ、作戦タイムと行きましょうか。サインとか、色々決める必要があるし。5分間でいい?」

 伊緒菜と津々実が部屋の外に出た。

「作戦と言っても」と慧は困り顔だった。「何を決めればいいの?」

「伊緒菜先輩の言う通り、まずは合図じゃないかな? カードの交換をするなら、二人にはわからないように相談できるようにしなきゃ」

「そっか。えーと、じゃぁ……」

 この手の「暗号」は、慧ならいくつも思いつく。問題は、どれを採用するかだ。あまりに簡単なものだと、伊緒菜と津々実にあっさり法則を見抜かれるだろう。だが複雑すぎると、慧とみぞれが間違える可能性がある。QKの最中、素数や試合の展開について考えている中で、片手間にできる程度には簡単でないといけない。

 そこで慧が考えたのは、「無意味な合図を混ぜること」だ。

「指を曲げて合図を送るなら、最初のひとつか二つはランダムに指を曲げて、その後で本当に伝えたい合図を送るのはどうかな。津々実ちゃん達にはどれが無意味な合図かわからないから、法則が見抜けない」

「でもそれじゃ、わたし達にもどれが本当の合図かわからないんじゃない?」

「そんなことないわ。存在しない合図を送ればいいんだから。決めるべき合図は13個なんだから、それ以外の合図はすべて『無意味な合図』になる」

「あ、そっか。それで、その13個はどうするの?」

「二進数を使うわ」

「二進数?」

 みぞれの知らない単語だった。

「えっと、数を0と1だけで表す方法で……1+1は2だけど、二進数では2は使えないから、繰り上がって10になるの」

「?」

 5分で説明できる自信がなかった。それに、二進数を初めて知る人間が、片手間にその計算をできるとも思えない。

「……1から13までの数を伝えればいいんだから、二進数である必要はないわね」

「う、うん。単純に、上げた指の数とかでいいんじゃないかな?」

「それだと、6以上の数はどうするの?」

「そのときは2回指を上げればいいよ。6だったら、パーにしたあと、一度グーにして、また指を1本立てる。12だったら、パーを二回やって、指を2本立てる」

 みぞれは手をパー、グー、パー、グー、チョキ、と動かした。

「そんな単純で伊緒菜先輩にバレないかしら?」

「そのための無意味な合図でしょ?」

「……そうね。でも、もうひと工夫。素数を使ったらどう?」

 素数を使う、と言われても、みぞれには全くピンと来なかった。

「どうやって?」

「一枚出し素数の合図を決めるの。2から13までの素数は六個だから、合図を六個決めればいい。そしてみぞれちゃんがいま言った方法で、積を表すの」

 例えば、チョキの形で3を表すとする。そしたら、チョキ、グー、チョキと出せば、3×3=9を表せる。1とジョーカーも含めて八個の合図を決めれば、この方法でトランプすべてを表現できる。そしてそれ以外の合図が「無意味な合図」となる。

 いい方法に思えた。QKの最中にできる程度には簡単で、見抜けない程度には複雑だろう。それに、試合中に合図を送る回数は、そんなに多くないはずだ。せいぜい五回か、多くても十回。その程度の回数なら、単純な暗号でもバレないだろう。

 二人は早速、八個の合図を決めた。指を曲げたり伸ばしたりして、作りやすく、わかりやすいものにした。

 合図を決めたら、次は勝負の戦略を考えないといけない。チーム戦だから、お互いに息が合っている必要があるのだ。

「私は、合成数出しを狙っていくわ」

 慧が積極的に言った。

「4人で戦うってことは、自分の手番が回って来るまで最大3分、自分の手番も含めれば最大4分も考える時間がある。その間になるべく消費枚数の多い合成数出しを考えて、足りない手札をみぞれちゃんに伝える。どう?」

「いいと思う。じゃあわたしはいつも通り大きい素数を狙う。……あれ、でも、慧ちゃんが欲しそうなカードを使っちゃうわけにはいかないよね?」

「そうよね……逆に私も、みぞれちゃんが必要そうなカードは使えないわよね」

 チーム戦だからこその悩みだった。仲間のことを気にして、自由にカードが出せなくなる。

「あまり交換にこだらない方がいいのかもしれないわね」

「そ、そうだね」

「それか、こうしたらどう? みぞれちゃんはなるべく大きい素数を狙うわけだから、先頭が8以上で、あとは絵札ばかりの素数を狙う。私は反対に、なるべく7以下の数を使う合成数出しを狙う」

 すべて絵札の素数はもちろん強いが、先頭が8や9の素数もそれなりに強い。同じ桁の数なら、先頭の数が大きい方が強いからだ。

 そしてこの方法なら、2人が狙うカードがバラける。お互いに自分が出したい数が揃えば、一気に畳み掛けて勝つこともできるだろう。

「うん。それでいこう!」

 みぞれが頷いたとき、部屋のドアが開いた。

「5分よ! 作戦は決まったかしら?」


 4人が席についた。みぞれ、津々実、慧、伊緒菜の順だ。

 カードドローで最初の親を決める。一番大きいカードを引いたのは津々実だった。

「あら、幸先いいわね」伊緒菜はにやりと笑った。「勝ったも同然ね」

「さすがに早すぎるんじゃないですか」

 と津々実が突っ込んだ。

「そうかしら? 私達の作戦は、津々実が親のときに最大限の威力を発揮するのよ」

「そりゃそうですけど」

 順番が関係あるということか。いったいどんな作戦なんだ、とみぞれは考えたが、何も思いつかない。

 伊緒菜がカードを配り終えた。

「それじゃ、ここから1分間のシンキングタイムで、そのあと津々実の手番からね。手番の時間もいつも通り1分。いい?」

「はい」

「それじゃ、1分間のシンキングタイム、スタート」

 伊緒菜がスマホのタイマーを動かすと同時に、みぞれ達はカードを取った。

 みぞれの手札は、A、2、3、3、5、5、8、9、9、K、ジョーカー。絵札が極端に少ない。慧がたくさん持っていれば良いのだが。

 チームのどちらかが上がればいいので、この手札ならみぞれの勝利を諦めて、慧に勝たせるのもありだろう。逆にどうしてもみぞれの上がりを目指すのであれば、革命を起こすべきだろうか。

 作戦を考えている間に、シンキングタイムが終了した。伊緒菜が用意していたタイマーをスタートさせる。

「それじゃ、津々実の手番からよ」

「はい!」

 津々実は元気に答えて、テーブルの上にカードを出していく。

 え、とみぞれは思った。津々実は三枚出し素数をいくつか覚えている程度のはずだ。なのに、テーブルにはずらずらとカードが並んでいく。

 その数、10枚。津々実は宣言した。

「45669JJQKKです! 判定は?」

 津々実は手札をほとんどすべて出した! 伊緒菜がその数を素数判定アプリに入力する。

「45669JJQKK(1111121313)は……素数ではありません」

「違いましたかー、残念」

 ちっとも残念ではなさそうに言って、津々実は出した手札を回収した。そして、山札からペナルティを10枚引く。

 《《それで山札は無くなった》》。

 トランプはジョーカー二枚を含めても54枚しかない。四人に11枚ずつ配ったら、残りは10枚なのだ。

「津々実、いま引いたのと、出さなかった1枚は何?」

「出さなかったのはこれで、引いたのはこれとこれと……」

 言いながら、津々実は手の指を曲げたり伸ばしたりした。暗号だ。

「以上です」

「なるほど」

 伊緒菜はにやりと笑った。

「これで、みぞれ達の手札が完全にわかったわ。この勝負、私達の勝ちね」

 みぞれは息を呑んだ。こんな手があるなんて。山札を全て引いてしまえば、相手の手札は丸わかりだ。なぜなら、相手が持っているカードは、自分が持っていないカードなのだから。

 通常なら、この手は思いついてもなかなか使えない。2人対戦なら初期手札は11枚で、山札の残りは32枚。なんとか全てを引くことができたとしても、そのときの手札は43枚。これを全て出し切って勝つのは至難の業だ。

 しかし今はチーム戦。伊緒菜は津々実に山札を引かせることで、自分の手札を増やさずに山札の中身を全て知ることができた。

「いい作戦でしょ?」

 と伊緒菜は得意げに言った。

「ただ一つ欠点があって、これを実行すると、手番が相手に移ってしまうのよね。さ、みぞれの手番よ」

 他にも欠点はある。伊緒菜にわかるのは、みぞれと慧の手札の合算だけ。二人がそれぞれ何を持っているかはわからない。

 しかし、一手出すごとに、伊緒菜には手札が透けていくだろう。

 伊緒菜に勝つには、読まれないように出すしかない。

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