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QK -1213-  作者: 黄黒真直
最終章 冬から春
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第98話 6

 伊緒菜はどのゲームも圧倒的に強かった。心理系のゲームは遠海姉妹やみぞれも善戦したし、推理系のゲームは津々実や慧にも勝機があったが、最終スコアは伊緒菜が頭ひとつ抜けていた。

「なんでそんな強いんですか」と美沙。

「今日のために猛練習でもしたんですか」と美沙。

「練習はしてないけど……」

 伊緒菜は駒を片づけながら考えた。

「……だけど、私はここのゲームを全部やってるから、初見のあなた達より有利なのは確かね」

「やっぱりー!」と美沙。

「ずるいー!」と美衣。

 二人を見て、津々実が指摘した。

「いやでも、明らかに数回の経験差で説明できる強さじゃなかったよ」

「その通り。つまり私が純粋に強いのよ」

 伊緒菜はにやりと笑ってみせた。

「悔しい!」

「宝崎さんが初見のゲームはないんですか!」

「ここにはないわね」

 何か買っておけばよかったわね、と伊緒菜は言った。

 すると、津々実が小さく手を挙げた。

「ないなら作るというのはどうでしょう」

「作る? ここで?」

「はい。この場にある駒とかカードとかで、適当に新ゲーム作れないですかね。ほら、たしか前にも、2倍以下の素数を言い合うオリジナルゲームを作ったじゃないですか」

「そんなことやったかしら」

 伊緒菜は首を捻った。

「やりましたよ」とみぞれ。

「やりました」と慧。

「ああ、思い出したわ。『オリジナル』とかいうから、何か高尚なものを想像しちゃってた。あれはそんな凄いものじゃないわよ。既存のパーティゲームをアレンジしただけなんだから」

「でも『作った』ことには変わりないじゃないですか」

「まぁ、そうね。そう言っても差し支えないかもしれないわね。でも、作る、か……」

 伊緒菜は手元の駒を指先でいじり始めた。


 結局、伊緒菜はオリジナルの即興ゲームでも圧勝してみせた。悔しがる双子をなだめつつ、ゲーム大会を終えた。

 それから六人は食事と入浴を済ませ、時刻はいよいよ深夜となった。QKの全国大会が始まる時刻が迫っていた。

 パジャマ姿のみぞれはお菓子を食べながら、そわそわと聞いた。

「大人の人だけが参加してるんですよね」

「そうね」

「わたし達、今まで大人でQKやってる人を見たことがないんですが、そんなにたくさんいるんですか?」

「いるわよ。むしろ高校生より多いんじゃない?」

「え、ほんとですか?」

「だって、この全国大会の前に、予選があるって聞いたもの。そっちは配信されてないみたいだけど」

 大会の公式HPによれば、今回の全国大会進出者は64人だ。みぞれ達が参加した高校の全国大会は32人だったから、その倍である。全体ではどれほど多いのだろうか。

 ついに午後十一時になった。配信画面が切り替わり、ロゴマークが表示される。それから数秒して、見覚えのある二人の女性が画面に現れた。

『さぁ、いよいよ始まります、QK杯(カップ)決勝大会! 皆さん、徹夜の準備はできてますかー!?』

 配信のチャット欄に「できてます!」「始まった!」などと書き込まれる。

『できてるみたいですね! 申し遅れましたが、私は今宵、実況を務める成田(なりた)凛(りん)。そして……』

『解説の小西(こにし)那由多(なゆた)です』

『どうぞよろしく』

「あ、この人たち」と慧がやっと気がついた。「私たちの大会のときに、実況と解説してた人?」

「そうだね」ベッドの上に寝そべりながら、津々実が言った。「引っ張りだこだ」

『人手不足なんだと思うぞ』と声だけの史が言った。『マイナーゲームだから、スタッフできる人が足りないんだよ』

 大会ができる程度にはいるはずなのに、とみぞれは思った。

『今年も全国から、QKを極めた猛者達が集まりました。その数64人! 各地区予選を勝ち抜いた精鋭達です。今年はいったいどんな試合が展開されるのでしょうか』

『楽しみですね』

『さて、まずは本大会について、簡単に説明いたしましょう。小西さん、よろしくお願いします』

『はい』

 映像が切り替わり、スライド画面が表示される。このQK杯なる大会について、小西が淡々と説明し、成田が茶々を入れた。

 みぞれ達にとっては初めて聞く内容で、同時に、驚くべき情報だらけだった。

「え、30年近くやってる!? この深夜に!?」

「過去に出た最大素数が42桁!?」

「連続優勝記録は8年!?」

 長くやっていると、様々な記録が樹立するものだ。この大会はQKの歴史の中で最も長く続いている大会であり、それだけ記録も多かった。

 またこの大会は、ほぼ毎回新しい試みを取り入れている。それは大会の実施方法だったり、試合のルールだったりする。この大会で行われたルール変更が、のちに他の大会でのスタンダードになったものもある。例えば、試合の制限時間は、この大会で初めて導入された。

『そしてお待ちかね、今回の試みは……ドドン! チーム戦です! 本編の試合は通常通り個人戦ですが、エキシビションマッチとしてチーム戦を何戦かやってみようと思います』

『意外にも、本大会でチーム戦をやったことはないんですよね。団体戦や3人対戦、4人対戦などは何度かやっていますが、今回のように2対2の純粋なチーム戦は初となります』

『そうなんですね。他の小さな大会で見たことはありますが、ここでは初めてです。ではルール説明をお願いします』

 ルールはいたってシンプルだった。2対2で戦い、最初に手札をなくしたプレイヤーの属するチームが勝利となる。また手番は両チーム交互に回るようにする。

『しかしこれだけでは個人戦とほとんど変わりませんよね?』

 と成田が言う。おそらく台本通りのセリフだろう。小西が『はい、そうですね』と受けた。

『そこで、こんなルールを考えました。手札の交換です。自分のターンのとき、山札からドローする代わりに、チームメイトとカードを一枚交換してもよいことにします』

『ほう、それは新しいですね!』

『試合中、選手はしゃべって構いませんので、チームメイトと相談しながらカードを交換してください』

『しかし、しゃべると相手チームにも会話が聞かれてしまいますよね?』

『はい、もちろんです。ですので、そこはうまく二人だけに伝わるようにコミュニケーションをとってください』

『チームの以心伝心力が試されるルールというわけですね!』

 初めて聞く力だな、とみぞれは思った。

『エキシビションマッチは決勝戦のあとに行いますので、お楽しみに。……では、そろそろ時間が迫ってまいりました。開会式はこのくらいにして、早速大会を始めていきましょう。みなさん、準備はよろしいですか?』

 コメント欄に「準備OK!」「できてます!」などと書き込まれる。

『では参りましょう。深夜の素数大富豪の祭典、QK杯(カップ)、スタートです!』


 大会の様子を、みぞれ達はお菓子を食べつつ、ああだこうだと言い合いながら視聴した。

「この人、妙に悩んでるわね。素数は迷いなく出してるけど」

「相手が9を持ってるかどうかで、親が取れるかどうか変わるからじゃないですか?」

「なるほどね……カウンティングしないタイプの人なのね」

 伊緒菜は試合内容だけでなく、出場選手達の性格にも注目していた。

「あ、次の人、前回の優勝者よ」

 と伊緒菜が言うと、実況の成田も同じことを言った。

『さあ、お次の試合は注目ですよ。過去に何度も優勝し、昨年も優勝した小川(おがわ)高美(たかみ)選手と、今年初出場の高校生、大月(おおつき)瑠奈(るな)選手です!』

「んっ?」

 聞いたことのある名前に、みぞれ達はお菓子を食べる手を止めた。

『小西さん、大月選手の紹介をお願いします』

『はい。大月選手は現在18歳、高校3年生です』

『この大会は18歳以上で参加できるので、当然最年少ですね』

『はい。そして大月選手は高校生の大会では強豪として知られており、今年の全国高校QK大会ではベスト8に残りました』

 やはりそうだ。みぞれ達が地区予選や全国大会で戦った、烏羽(からすば)高校の大月瑠奈だ。

「こっちにも出場するんですね」

「ベスト8止まりだったのが悔しかったのでしょうね」

『受験は大丈夫なのか?』と史が心配そうに言った。

『優勝常連の小川選手対、期待のルーキー大月選手。優勝候補が初戦で当たってしまいました! この試合は注目カードですよ!』

『なお大月選手ですが、のちほどエキシビションマッチにも出場していただく予定です』

『ほう、どなたとチームを組むのですか?』

『同じ高校の太田(おおた)陽向(ひなた)選手です。太田選手もこのあと出場しますよ』

『わかりました、楽しみにしておきましょう。さあ、試合の準備が整ったようです。1回戦第5試合、スタートです!』


 試合は瑠奈の圧勝だった。全国大会のあと、猛特訓していたのだろう。ラマヌジャン革命で相手を翻弄し、一瞬の隙をついて勝ち上がってしまった。

『なんと見事な試合運び! あの小川選手がまさかの初戦敗退です!』

『ギリギリまで食い下がっていたんですけどね。大月選手の絡め手にやられてしまいました』

 小川のことを知っている成田と小西は大盛り上がりだ。配信のチャット欄にも、信じられない、あの高校生何者だ、といった書き込みが目立つ。

「有名人を倒しちゃったって感じですか?」

 みぞれが聞くと、伊緒菜も戦々恐々とした様子で言った。

「そうね、しれっとした顔してるけど、すごいことをやったわよ。ここまで強くなってるなんて……戦いたいわね……」

 伊緒菜の闘争心に火がついたようだった。

 大盛り上がりの中、大会は進行した。陽向も強豪を圧倒し、チャット欄は荒れに荒れた。

「みんな、高校の大会のことは知らないんだね」

 荒れ模様を見て、津々実が言った。たしかに、知っていればこんな大騒ぎにはならないはずだ。

「そりゃ、私たちの試合はどこにも配信されてないから、参加者以外は知りようがないもの。優勝者の名前くらいは公表されるけど」

「あんなに頑張ったのに……」

 と、みぞれは少し寂しくなった。

 大会は順調に進み、いよいよ準決勝まできた。時刻は朝5時。しかしみぞれ達に眠気などなかった。烏羽高校の2人が共に残っていたからだ。

『とんでもないことになってきました! 期待の若きルーキー2人が、準決勝まで残ってしまいました! 古参の選手達の面目丸潰れだ!!』

『その言い方はどうかと思いますが……。QKはプレイ人口が少なく、新規参入者も少ないですからね。新たな世代の参入は喜ばしいことですよ』

『ルーキー2人に立ち向かうのは、それこそ古参も古参、大御所の谷山選手と志村選手だ! ……ルーキー2人が途中で潰し合うトーナメントにならなくてよかったですね』

『はい。トーナメントは完全にランダムで組んでますので、そこは本当に運がよかったです』

 成田と小西の2人にも疲れの色は見えなかった。もう6時間も喋り続けているが、この展開に興奮しきっている。

 むしろ心配なのは選手達の方であった。こんな深夜に、6時間もQKをやり続けているのである。他人の試合中は休めるとはいえ、体も頭も疲労のピークに達しているだろう。

 だが烏羽高校の2人は、まだ元気だった。颯爽と競技テーブルに向かう瑠奈を見て、成田が言った。

『こうなってくると、体力のある若い人の方が有利だったりするんでしょうか?』

『さぁどうでしょう? 谷山選手ほどになると、もはや「考えなくても素数が出せる」というレベルに達していますので、頭の疲れ具合は関係ないかもしれません』

『改めて言葉にすると恐ろしいですね。なんですか、考えなくても素数が出せるって。ありえないでしょ』

『本人がそう言ってますので……』

「見ただけで素数がわかるってこと?」

 慧が自分なりに解釈した。

「単に大量に覚えてるってことだと思うけど」

 伊緒菜も持論を展開した。

『さあ、試合の準備が整ったようです。準決勝第1試合、始まります!』

 準決勝はどちらも熱い試合だった。瑠奈も陽向も初出場であり、2人のプレイスタイルはほとんど知られていない。だが相手選手たちはここまでの試合から、おおよその見当をつけていた。そのせいで、2人は苦戦を強いられた。

 ラマヌジャン革命では翻弄できない。絡め手は通用しないと判断し、正面突破に切り替える。それも堅牢な守りに弾かれるが、2人は隙を窺った。

 そして、最後まで冷静に戦った瑠奈は勝ち、陽向は敗北した。

「ああ、負けちゃった……」

「本気で悔しそうね。ちょっと泣きそうになってない?」

『いよいよとんでもないことになってきました! 数々の古参選手を倒してきた大月選手が、古豪志村選手に挑みます。果たして、古参勢の面目躍如なるか、はたまた奇跡の世代交代が起こるのか!? 長い長い大会が、ついに終わりを迎えます!』

 成田のテンションもチャット欄の盛り上がりも最高潮だった。もちろんみぞれ達も、試合展開から目を離せなかった。

 ここまでの試合で、瑠奈の手癖は知られていた。しかし瑠奈もそれは同様だった。お互いに手の内を掴んだ上で、いかにその裏を掻くかの勝負になっていた。

 ……ように、見えていた。

 瑠奈は最後の最後に、手癖通りの戦い方をした。それが、裏の裏を掻くこととなった。意表を突かれた志村は、敗北した。

 優勝したのは、瑠奈だった。

『素晴らしい! これぞ世代交代! 大月選手、波いる古参選手を押し退けて、初出場にて初優勝だ!!』

 成田も小西もチャット欄も大盛り上がりだった。みぞれ達も、よく知る人物が大きな大会で優勝したとなれば、さすがに興奮した。

 盛り上がりがひと段落すると、インタビューが始まった。小西と成田が試合会場に移動し、瑠奈にマイクを向ける。

『大月選手、カメラに向かって一言、感想をお願いします』

 瑠奈はクールな表情のまま、短く言った。

『全国高校大会で、私より上に行った人達。私は、ここまで強くなった。今度はこっちで戦おう』

 みぞれはふと、伊緒菜を見た。

 伊緒菜はにやりと笑っていた。

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