閑話戦神とビュリー
ビュリーが目を覚ますとそこは真っ暗な部屋だった。
なぜこんなところにいるのかさっぱりわからない。直前のことを思い出そうとして、全身に冷や汗が流れる。
自分は背中から切り捨てられ死んだのだ。
それがなぜ再び目を覚ましたのか……。
「目を覚ましたか、人間よ」
そんな声が響き、周囲を見回すも誰もいない。
「誰だっ!?姿を見せろ」
そう言うのも無理はなかっただろう。
「姿を見せる分には構わないが、そうするとお前の魂がかき消えるかもしれんぞ」
そう答えられておおよそ何者かの見当がついたビュリーはその場で臥せ、頭を下げた。
「ほう、なかなか見識深いものだ。我は戦神である。こうしてお前に話しかけるのは“神誓の儀“による。」
ビュリーはエルフである。精霊たちと日頃から接する彼らは偉大なる存在、“神“にも薄々感じとることができた。そして臥せたままの姿でかけられた言葉について必死に考える。
誰かが俺を蘇らせようと“神誓の儀“を……?リリア?
「近年“神誓の儀“を執り行って叶えたものはおらぬ。無駄に命を散らすよりはと敢えて難題を吹っ掛けたが、おそらくやり遂げるだろう。今この時間は本来より難易度の高い試練を乗り越えたことに対する褒美のようなものだ」
そしてリリアンローゼのことをつらつらと説明していく戦神。
「リリアが……。」
かつて誰よりも美しかった彼女が文字通り身を捨てていたことに呆然とするビュリー。
「それよ。我はリリアンローゼを気に入っておる。これ以上傷つけたくはない。まもなく最後の剣が打たれるだろう。そしてまず、駄剣ということはあるまい。そうなればお前を蘇らせるのが約束だ。だが、お前がリリアンローゼにエルフの一族と同じように蔑むようなら我は放置できぬ。約定故、お前を蘇らせはするが、エルフの樹都にだ。そして二度とリリアンローゼには会わせぬ」
何かをしたようにも見えないのに、ビュリーの体重が何倍にも増したように押し付けられる。事実何かをしたわけでもなく、神という存在の威圧感が漏れただけのことだった。
「戦神さまこそ愚弄するのはやめて頂きたい」
そのプレッシャーの中でビュリーは答えた。
多少辛そうにはしていたものの、平然と答えた。
「私のためにそこまでしてくれたリリアを見た目で蔑むなど、見くびるにもほどがある」
そこに嘘は無いようだった。
「そうか、ならば詫びがわりに一つ教えてやろう。お前を背後から刺したのはお前の弟サフィアだ。あの男は以前からリリアンローゼを狙っていた。お前を怪我させて自分が代わりになろうとしたが、リリアンローゼがお前から離れようとしなかったため、お前を殺害し、エルフの一族の権威とリリアンローゼを奪おうとしたのだ。人族との戦いも奴が裏で工作していた結果だ。信じる、信じないはお前の勝手だがな」
それだけ伝えると戦はスッと存在感を消した。それまで感じていた圧力が消え、逆にバランスを崩してビュリーはよろめいた。
戦神の言ったことが信じられなかった。だが、嘘をついているとは到底思えない。神という存在故に。
そこでハッとした。
「何が詫びだ、くそっ。僕を試す気全開じゃないか……」
事実を知ってどう動くのか見ているぞ……。
そう言っているのだ。
リリアンローゼを巻き込みサフィアへと復讐するのか、リリアンローゼを放って自分だけで復讐するのか。それとも別の道を選ぶのか。
そしてお気に入りのリリアンローゼに対する態度によっては神罰を下すのかもしれない。
結果として、ビュリーは復讐などしなかった。ただリリアと厳しくも穏やかな日々を過ごすことを選んだ。
時折ユグドラシルの方を向いて黙って見ていることがある。
リリアもそのことを知っていた。
本当は樹都へと帰りたいのだろうか。
そう思い口に出すも、ビュリーは首を横に振るだけで何も言わなかった。
これにて千の刃のリリアンローゼ終了です。
ダークエルフたちとエルフたちがハイエルフの血統を巡って争ったりしますが、それは後のお話。リリアとビュリーは静かに暮らしました。
戦神にも認められた魔剣たちは日常生活で酷使されて涙目です。




