再開
出来上がったのは黒い短刀だった。
刃渡り28cm。
柄から刀身に至るまで漆黒であり、夜の海のようにどこまでも引きずり込まれるような恐怖感が滲み出ていた。
黒刀 “霧潤“ ランク A
刀の形をしているが、物理的に斬ることには適さない。魔力を通すことで刀の形に無理矢理している力を解く。それはほぼ正反対に出口を作る異次元の穴となり、斬りつけたものは目の前から己の刃を受けることになる。
絶対に持ち主に刃を通さない盾と、攻撃中の体制であり、不意をつかれた相手にはかわすことなどできない矛の二つを同時に具現化することから“矛盾“の隠し名としてこの名がついた。
暗器として最高峰の武器。
但し受けることを前提としての使用になるため、複数の相手との戦いには扱いづらい。
千本目の武器ができた。
後はこれを“刃掛“に収めるだけだ。
今は森の中にいた。
一所に留まることがないリリアムは最後ということでどうにも落ち着けず、気付けば森の中にいた。巨大な霊木の側だ。
深呼吸をしたリリアムは剣を半ば自棄になって収めるがその瞬間にはビュリーに
「誰?」
と言われてダークエルフへの嫌悪の眼差しを向けられるのではと思い足が震える。
「やっぱり、無理!」
霊木に背を向けてリリアムは駆け出した。
「リ……リ…ア!」
リリアムの足が動きを緩める。
「待っ…、リ・リア!」
続いて何かが地面に倒れる音に、ついに足を止めて振り向いてしまったリリアム。
霊木の根本で、倒れながらリリアムの方に必死で手を伸ばすビュリーの姿があった。
本来なら転生の準備に入れるはずのビュリーの魂を確保しておき、肉体を作り出して融合させた戦神だった。
しかし、魂の状態で10年以上の歳月が経ったビュリーは身体といきなり馴染めるはずもなかったのだ。
追いかけようとしてついてこなかった足がもつれ倒れた。
結局そのまま見捨てて振り切ることができなかったリリアムはビュリーを膝枕して見下ろした。10年前と変わりのない姿。
「困ったら逃げ出す癖、変わってないな」
思わず目を開いてしまった。
「……馬鹿。」
ビュリーの頬に大粒の雫が落ちた。
ビュリーは震える手を伸ばしてリリアムの目元を拭う。
「リリア、僕と一緒に暮らしてくれないか?」
それはいつかの約束の続き。
そしてリリアムの唯一の後悔。
そのために“神誓の儀“を行い、千の武器を鍛えてきた。
「はい」
あの日言えなかった言葉を伝え、体勢を直したビュリーと口づけをかわした。
二人は霊木の近くに家を建て生活を共にし始めた。毎日ビュリーの身体をマッサージし、面倒を見るリリア。一月も経つ頃には一人で動けるようになったビュリー。魔剣で水を溜め、火を起こす使い方に戦神から愚痴を言われたりするも、
「生きることこそ戦いだ!」
と言って押しきった。
3年後には子供が生まれる。
未経験のことに苦労しながらなんとか無事出産を終える。男の子と女の子の双子で、初産と重なり、負担が大きかった。ビュリーは精霊の力を借りてなんとか助けることに成功した。
双子は銀の髪に紫と緑のオッドアイで肌は透き通るような白。二人を取り巻く魔力は生まれたばかりですでにビュリーの魔力を超えていた。
「これは…まさか!」
驚愕するビュリーに不安げなリリア。
双子の身に何かあるのか心配なのだ。
「いや、この子らに悪いところがあるわけじゃない。リリア、二人は多分“ハイ・エルフ“だ」
かつて、エルフたちを統治していた。言わばエルフの王族とも言える存在。
ビュリーの表情は青い。
「多分彼らは自分たちの権威を守るためにエルフたちの出産を遠ざけるような風習を強要した」
確かに褒められたことではないが、魔素から自然発生するだけでもいいのではないかとリリアは思う。何を悩んでいるのかわからなかったのだ。
「同じように、ダークエルフとの接触も禁じるために悪しき存在であるって教えられてきたんじゃないかと思ってね。もしそうなら、ダークエルフだからといってなんの罪もないはずだ。」
息を呑むリリア。
近親で濃い血統を保っていたいにしえのハイ・エルフは異常を抱え滅んでいた。最早知りようがなかった。
だが、これ以降出会ったダークエルフたちに一緒に暮らさないかと持ちかけることにした二人。初めてダークエルフたちの集落、安息の地が作られた。エルフたちに復讐をしようとするダークエルフも現れたりしたが、なんとかなだめたり様々な問題も起きたが大きくなっていく集落。
後世において国となったダークエルフたちの集落。ハイ・エルフの血を引く王族は毎日霊木と、祖先のエルフとダークエルフの夫婦の像に祈りを捧げる習慣があった。




