回想 樹都の姫君 7
人間たちとの抗争は激しさを増していく。
それでも人間との共存を訴えるビュリーは次第に同族からも疎まれ出す。
ニクスが顔を出すとどこかしこに耐えず怪我を負っている。笑顔もどこか陰りがある。
「久しぶりだな、リリア。…僕よりリリアの方が辛そうだね」
そう言って笑う。
「僕はまだ大丈夫だ。でももう戦争は止められそうにない」
それはビュリーが初めて口にだした弱気だった。この人は疲れきってしまっている。それでも私を気遣うのだ。
「りr…」
気付けばリリアンローゼはビュリーを抱きしめていた。椅子に座っている彼の頭を胸で抱えるように。
声を殺して泣くビュリーに寄り添って長いような短いような時間が経ってビュリーが顔を上げる。リリアンローゼから顔を背けるように。
「こんなタイミングで言うのは躊躇われるんだが、戦争が終わったら、その一緒に暮らさないか? 」
エルフの慣習にはない、むしろ人間の営みであるが、不思議と嫌な気はしなかった。
ただ、言いようのない嫌な予感がこのタイミングで頷くのを躊躇わせた。
大きな力によってビュリーが死んでしまうような。
「だったら無事に帰ってきてもう一度言って」
これから戦争に赴くのだ。生きて帰られるとも限らないのにするには無責任だと思ったのか、ビュリーもそれを受け入れる。
戦争が始まった。鉄器を得た人間の軍に形勢が不利な状況がつづいた。森の入口付近で始まった戦いは戦地を拡大させていた。
エルフたちの出生の関係上、男も女も関係なく戦場に立つ。
リリアンローゼもまた弓を片手に戦場を転々としていた。哨戒中の仲間と出会い、情報をすり合わせる。
「リリアンローゼ、ビュリーが死んだ。戦場から少し外れた森の中で背後から剣で刺されていたそうだ。状況から見て、逃げ出したところを敵にやられたんだろうという話だ。」
…今何て言ったの?
リリアンローゼは言われたことが理解できない。
逃げる?仲間を生かすためにしんがりを務める人が?思い当たったのは二人の約束。
私の言葉が彼を縛った?
強大な魔力がリリアンローゼを中心に集まっていく。感情の暴走に精霊たちが当てられていた。
世界中にいるという精霊たちがリリアンローゼの絶望をつぎつぎに伝播していく。
異常に活性化していく魔力。
「暴走だ!リリアンローゼが、暴走を起こしたっ!」
急速に集約された魔力は圧力に耐え切れずはちきれた。それはダムに亀裂を入れたように飛びだし、リリアンローゼから敵対していた王国に至る
全て
を薙ぎ倒した。
それを見てなお敵対する者はなく、散りじりに逃げ出した彼らは疑問を抱く。城はとっくに見えているはずだ。つまり、…。
結果として戦争は終わりを告げる。
エルフたちの被害は少なく、エルフへの手だしは厳禁というのが人間たちの中での共通の考えになる。
リリアンローゼがエルフたちの元へ戻ることはなかった。




