回想 樹都の姫君 5
自身の求心力を利用して同朋をまとめるというのはなかなかに大変だった。
近年、かつて毛嫌いしていたドワーフの手をとりあって鉄器を得た人間達はエルフにとって厄介な存在になりつつあった。
エルフ達は鉱石・金属に触れることは禁忌とされている。
すなわち武器は木製又は飼った獲物の骨を使ったものに限られる。主力は弓と魔法だ。
風の精霊の力を借りた彼らは200m先の木の実ですら打ち落とすことができる。それこそ子供であっても。
ーーだが、鉄の鎧は打ち抜けない。
兜の視界確保用の穴を狙うことはできる。だが動いている相手とならばそこまでの精鋭は半分にまで減るだろう。
人間達と手を結ぼうというのはそういうことだ。
一方で、エルフの器量に目をつけた貴族にさらわれた者達がいる。
彼らと親しかった者たちからすれば人間達と手を取り合うことなど噴飯ものだと言うのも解るのだ。
「だったらまずはさらわれたサーラを連れ返してよ!」
石を投げられる。同朋の鬼気迫る表情に身体が凍りついたリリアンローゼは目を閉じた。
いつになっても痛みは訪れなかった。
恐る恐る目を開けると目の前にはビュリーの背中があった。
皮膚を切ったのか薄く血を流していた。
「解った、また来る」
それだけを言ってビュリーは背を向けた。
「行こう」
リリアンローゼの肩を押しながらそう言うビュリーの表情にはやるせなさと笑みがあった。
「ごめんなさい、私何も出来なくて」
リリアンローゼとしてはやるせなかった。どうしたらいいのかわからない。
ビュリーは怒らない。
「リリアのおかげで味方も多いんだ、感謝しているさ。彼らの悲しみも解るんだ。僕にとっても同朋なんだから。」
その表情は笑っているのに…泣きそうだとリリアンローゼは思った。
「それでも今は…やらなきゃならない」
続く言葉を聞いて思わずビュリーを抱くようにしてしまった。
身長差から肩を貸すようになってしまったのは不慣れだったからだ。
「リリア?」
ビュリーは強い人なのだとリリアンローゼは勝手に思っていた。
この人は強くあろうとしているのだ…。
ふと柔いところを垣間見てしまった。
それは彼の評価を下げるどころか…
胸の奥で小さく痛みが疼いた。
リリアンローゼはその正体をまだ理解していなかった。




