回想 樹都の姫君 4
リリアンローゼの生活は大きく変わらなかった。
次代の樹長になったということで、その日の晩はノーゼンユグドはお祭り騒ぎになったが、翌日にはいつもどおりの生活が戻ってきていた。
ーーー少しリリアンローゼを見る視線の熱量が増したような気はしたが。
あとはビュリーと行動を共にすることが増えたくらいだ。
「僕は人間達との関係を改善したいと思う」
かつて、人間たちが農耕による生活を主としていたとき、エルフたちは良き隣人であった。
山林の恵みと収穫物の交換を行ったり、病気になった子供を診てもらいにエルフの元に村民が訪れることもあった。
しかし、エルフたちの生活は大きく変化することがなかったのに関わらず、人間の生活は大きく変化する。
末端の村民の生活はそう変わらないものの、所謂貴族たちは見目よいエルフに目を光らせるようになる。
種族間の抗争を避けるため、直接手を出すことはないものの、裏の組織に手を回して攫う事件が続出する。
王国に抗議するも“そのような事実は確認されていない“とにべなく返されて終わりだ。
エルフたちの間でも人間たちへの反感は高まっており、小さな小競り合いも起こるようになっていた。
「協力関係にあるほうが好ましいのはもちろんだが、今人間たちと敵対関係になるのはまずい。かつて醜いといって嫌悪していたドワーフたちと手を組み、鉄の扱いを覚えた人間たちと戦うことになれば被害は甚大なものになる」
ビュリーがそんなことを言った。リリアンローゼはそんなことを今まで気にかけたことがなかった。人間に見つかるなとはよく言われていたがそんな背景があったのかと思う。
同時に、リリアンローゼが選ばれたのは人間たちに反感を持つものを抑える役割を期待してのことだと理解する。ビュリーはおそらくこの懸念を樹長たちや相談役に伝えたのだろう。
リリアンローゼは頭は悪くなかった。ただ使おうという気がほとんどなかっただけで。
関係を修復しようというのは少なくとも対策を練るまでの時間を稼がねばならないというほど、実は危機がせまっているのだということにほかならないのだ。
現状を知ったリリアンローゼは同族のために尽力しようと思いはじめたのだった。




