回想 樹都の姫君 2
樹都の中心は無論世界樹ユグドラシル。
エルフ達は熱心に祈りを捧げる中、樹都北部から少し離れた、森の中の拓けたところでリリアンローゼは舞っていた。枝葉の生い茂った森の中でそこだけ火の光が届き、スポットライトを当てられた舞台のようなその場所はリリアンローゼのお気に入りの場所だった。
ノーゼンユグドでの彼女の人気は非常に高い。
子供たちから好かれ、同年代の男達からは求婚され、同性からは嫉妬よりも羨望され、年上からも期待をされている。日頃はその期待に応えるようにしているつもりだが、それでも時々一人になりたい時にここにくる。
“神楽“と呼ばれるその舞いは彼らを生かす自然に対する感謝と祈りを捧げるもので、いくつかある歌に併せて身体を踊らせる。
今リリアンローゼが口ずさんでいるのは“風の歌“。海を渡り、森を駆け抜け世界を巡る歌だ。
本来相性の良いものしか寄り添わないはずの精霊達は入り乱れ、楽しそうにリリアンローゼの周りを飛び交い、真似るように踊る。
小動物から肉食の、熊に至るまでがその時ばかりは日頃の関係を忘れ、目を細めてそれを見る。
そんな不思議な世界がそこにはあった。
一匹のリスが、よく見えるようにと熊の頭の上に居座るのだが、流石にこの歌が終わったあとのことが心配になる。
次はどこへ行き、何を見るのかー。
そんなくだりで歌が終わる。
歌いながら舞うのは非常にキツイ。
綺麗に、高らかに且つ力強く歌い上げたリリアンローゼはその舞いもまた指先まで神経が通っているような見事なものだったから、うっすらとかいた汗で前髪が額に張り付き、上気した表情がいつもより魅惑的だった。
ーーーそれを見ていたのが人以外だったのは幸か不幸か。
切り株に腰を下ろして休憩するリリアンローゼ。余韻に浸る精霊達と動物達。
小動物たちが惜しむようにしながら静かに退出していく。そして大きな動物達までが後にする。
どうやらあの図太い小リスも逃げられたようだ、とホッとしていると、周りを取り囲んでいた精霊たちがーーー心なしか目を潤ませるようにーーー視線を向けてくる。
彼らは意外と欲望に忠実だ。
先に帰った動物たちのことを思えば精霊たちにだけ贔屓するのは躊躇われた。しかし彼らを無碍にもできず困っていた。
「またこんなところにいたのか。お前なら世界樹の前で神楽を舞っても誰も文句を言うまいに」
何の助けかそんな声がして、精霊たちがパッと散る。それは現在のエルフ達のまとめ役に目をかけられている双子の弟の方、サフィアだった。
「樹長がお前を呼んでいる」




