回想 樹都の姫君
「リリアンローゼはまだ捕まえられないのかっ!」
ダンッと机に手を打ち付けると、報告に来た影と呼ばれる情報組織の男はひぃっと声を上げた。
「何をしている、さっさと捕らえにいけ!」
足をもつれさせそうにしながら部屋を転がり出て行った男を見て不愉快そうにしていた男だったが、
「堕天した者を妻にはできぬが、くくく、奴隷として飼ってやる」
そして男の高笑いが部屋に満ちたのだった。
世界樹ユグドラシル。
街一つ分ほどある巨大な木で、エルフ達にとっては世界の中心と言ってもいいほどの絶対的な信仰の対象である。
各地にある樹里とは異なり、多くのエルフがユグドラシルの元に集まっていた。
余りの人数の多さに樹都(都)を区分けしなければ同名の者が多過ぎて問題が起きたため、中央をセントユグド、北をノーゼンユグド、東をアストユグド、南をサザンユグド、そして西をウェスユグドと呼ぶようになった。
エルフの一族は皆が兄弟であるという意識を持っている。
それは年上だからといって敬意を払わなくていいとかそういうことではない。弓や魔法、狩りであれ、優れたものを持つ者には自然と頭が下がるのである。
王や貴族、平民といった階級は存在しない。
とは言え、外界との取引、外交のことを考えて名目上のリーダーはいる。
ましてや戦争ともなれば各人が好き勝手していては話にならないのである。
そんなエルフ達のまとめ役は前任者やエルフ達の総意によって選ばれることが多く、樹都から選出されることが多かった。
そして新たなリーダーを選ぶ年、ノーゼンユグドには誰からも憧れられ、誰よりも美しく、誰よりも精霊達に祝福された女性がいた。
リリアンローゼ・ノーゼンユグドである。




