断空刀 “紫苑“
いつもの刃を打つ時とは全く異なる過程を辿っていた。
それはどちらかと言えば工芸品を作るようである。
金属製の筒のようなものが非常に細かく精緻に作られ、金属製の板に取り付けられていく。
最後に蓋をして歪みや想定外の隙間がないかを確認する。
手の甲に峰を当てて月明かりにかざす仕種だけは刀の鑑賞と似ていた。
「うん、いい出来。」
珍しくリリアムの表情は明るかった。
元々顔立ちはいいのだ、その笑顔はとても魅力的だった。
残念ながらそれを見ていたのは月だけだったが。
断空刀 “紫苑“ ランク B+
ぱっと見では刀に見えるがその本質はとても刀ではない。
刃部に沿って薄く長く孔が開いており、中には複雑なカラクリが仕込まれている。
この刀(?)を独特のリズムで振るうことで、取り込まれた空気が圧縮され、排出される際に空気に断層を生じさせる。いわゆるカマイタチと呼ばれる真空の層である。
但し、複雑な機構を取り入れたことで、刀身自体の耐久力は低く、機構自体も僅かに歪んだだけでその効果を発揮できなくなるため、刀身自体を何かに打ち付けてはならない。また、定期的なメンテナンスを要する。
「戦場で使うには少々繊細過ぎるがの。血糊や刃こぼれを気にせずに済むのはいい考えよ」
ふと耳元に戦神様の声が聞こえた。
「正直にいえば、お主が神誓の儀式に及んだ時、諦めるほうがよかろうと思い、困難な試練を課したが、殊の外お主には才能があったと見える。…それがお主にとって良かったのかどうかは分からぬがな。」
戦神様はそれだけをポツリと呟いて存在感が消えた。
そういえば、今回は試し切りもしていないのに、あっさりと許可していったな…というか許可していったのか!?
慌てて“刃掛“を確認すればちゃんと一振りとして数えられており、ホッと一息ついた。
とは言え自分の打った刀の出来を実際に確かめてみたくはある。
刀を抜いたリリアムは手頃な枝に向かって振り下ろした。
普通なら風を裂く音がするはずが、刀身を抜けていくが故に音は無し。以て紫苑(死音)となす。
地面に落ちた枝の斬り跡は尋常でなく滑らかだった。




