かつての同胞
枝から枝へ飛び移りながら、両手の短剣を後ろ手にそれぞれ放る。
二振りの短剣は目標に刺さることなく地面に落ちたが、それをリリアムが確かめる術も暇もなかった。
「ちっ」
そもそもリリアム自身、これで終わるとは思っていない。
短剣を弾くために足を止めてくれれば御の字といった具合であった。
思えば舌打ちなどという品のない行為も自然にするようになった。
かつてはとても無縁な行動だったことに苦笑せざるを得ない。
…それにしても森の中でよくついてくる。
ダークエルフに身を窶したとは言えそこはエルフである。
木々の中を走らせたら異種族が追いつけるはずがない。
それはつまり…追っ手の存在を間接的に、だが明確に表していた。
しばらく鬼ごっこが続き、森の開けたところでリリアムは足を止めた。追跡者も躊躇わずにその姿を見せる。
やはりエルフであった。
自分より若い男が1人に女が1人。
「一族の恥さらし」
「よくぞのうのうと生きていられるものだ」
「それとも身を捧げ、罪を雪ぐ気にでもなったのか?」
男達が次々と投げる言葉は視線と同じく侮蔑であった。
そして残る女も…
「無様ね。かつて"一族の誉れ"、"ノーザンユグドの至宝"と呼ばれた姫君が。過去の美名だけを残して朽ちるがいいっ」
言うだけ言うと、こちらの言葉を聞くつもりもないようで、4人は一斉に後方に飛び退ると、何事かを呟く。
次の瞬間地面から土の槍が生い茂り、風が鋭くこの身を裂かんと駆け抜ける。
---精霊持ち。
金属、鉱物との接触を拒否するエルフの武器は魔法である。
契約する精霊に、魔力を対価に行使してもらう精霊魔法だ。
精霊に頼むことで、時間差で魔法を放ったり、離れた位置を始点として魔法を使ったりできる。
リリアムはダークエルフへと闇堕ちした際に精霊から嫌われている。
しかし、それまではあらゆる精霊に愛されていた彼女は、精霊たちの使う魔法を見て独自に使えるようになっていた。
「後ろ!」
それは声にならない精霊の叫びであったが、契約者には十分通じていた。
が、
その叫びに反応しようとするには既に遅く、背中に軽い衝撃を感じた後、全身に鋭い痛みが走り、男は意識を手放した。
倒れた男の影から姿を現したのは無論リリアムだった。
「馬鹿な!」
「そのような下劣なものを本当に」
リリアムの手にあるアームブレイカーに目を留めて女が言う。
元来弓や魔法で戦うエルフは近接戦は苦手であった。
しかしリリアムはこれまでの逃亡生活で皮肉にも剣の扱いに習熟しつつあった。一人欠け、二人目が欠けたあたりで連携が上手く取れなくなったところでリリアムが圧倒的に優位となり、最後に女のエルフの腹にアームブレイカーの刀身をあて、電気を流した。
「なぜです、姫・様…?」
エルフの女が倒れる瞬間に眦に溜まる雫に光が反射した。
契約者が倒れたことで精霊達からぶっそうな気配が強まる。
「意識を取り戻すまで、彼らを守ってあげて」
それだけ言ってリリアムはその場を後にした。
精霊達は結局後を追えず黙ってその背を見続けていた。




