送り名のない手土産
「いい出来だ。合格だ、よくやったな」
リリアムが顔を上げる。
その表情には滅多に見られない笑みがあった。
あまりにも珍しいので印象に残っている。
師弟となって7年、今日リリアムの鍛冶に合格、つまり"俺の弟子"ととして剣を売りに出してもいいということだ。
最も通常の鍛冶に関しては、だ。
「リリアム」
どこか低い声が出て、真剣な話だと理解したリリアムが表情を引き締める。
「お前には俺の持つ技術、知恵、知識を伝えた、但し、普通の鍛冶に関しては、だ。
ドワーフの一族に伝わる秘伝の技術がある」
息を呑む音だけが響き、それもすぐに霧散する。
「俺はお前には教えてもいいと思っている。お前はそれを、望むか?」
じいさんばあさんの代に知られたらボコられるかもしれないが。
このどこか危なっかしい弟子に何かしてやりたいと思う。
しばらくの沈黙の後、リリアムは頷いた。
「教えたからと言って確実にできるというものでもないし、教えるにあたりもう一つ条件がある
何故剣を打つのか理由を言え。少なくない時間を共にしてきた。不器用だが、性根の悪いやつではないことは解っている。だが、ドワーフの秘伝≪魔道鍛冶≫はただの剣を打つのとは意味が違う。国家間の争いすら誘発しかねない。言いたくなければ、それでもいい。ただ、教えることはできない」
長い沈黙が続いて、ポツリとリリアムが漏らした。
「…自己満足な理由なんです。」
そして話し始めた理由に呆気にとられることになったが、それからさらに5年の歳月をかけ、リリアムには俺の手製の槌を贈った。
師から弟子に槌を作り渡すのは独立を認めた証である。
「師匠!!」
自分を呼ぶ声に意識が浮上する。
「何をやらかした!?」
疑うこともなく、そう言ったのはさすがに酷かったか。
「し、師匠!小屋の入り口にこんなものが置かれていました」
それは木製の箱で、それ以外に特に何もない、平凡なものだった。
---中身を除けば。
「こ、これは!晶角狼の牙か!?」
驚くと同時に、贈り手が誰だか分かる。
「晶角狼の牙って!?めちゃくちゃ希少な品じゃないですか!こんなものを一体誰が!まさか落し物じゃないでしょうに」
…全く少しくらい顔を見せていけってんだ。
最も相変わらずで安心したってのも事実だけどな。
「無茶すんじゃねぇぞ」
俺の呟きは誰に聞こえることもなく蒼穹に消えた。




