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千の刃のリリアンローゼ  作者: 夢辺 流離
11/36

ダークエルフへの転変

 翌朝酔っ払ったのと、夜中にリリアムの世話で目が覚めたのもあって起きたのは大分日が高く上がったころだった。


「おはようございます」

 そんな変わらない声が聞こえてきて


「おはy・・」

 顔を向けるとリリアムがいた。


    顔の下半分と向かって左側が目元まで褐色に染まっていたが


「やはり、気になりますか?」

 少し困ったように尋ねるリリアム。


 気にならない奴はいないだろう。

「病気じゃないんだな?」

 大抵の奴らは一月もすれば辞めていった。

そんな中、リリアムとはすでに3ヶ月以上一緒にいるのだ。

それなりに愛着は湧く。


「はい。こうなることは分かっていたんです。ただ、思ったより負担が大きかったというか。申し訳ありませんがあと何日か続くと思うのでできれば別の寝床があれば…」


「これは仮の寝床だ。余計な部屋はない」

 元々はリリアムの部屋すらなく、薪だの素材などを置く場所を別途用意したのだ。


「まだ長い間続くようなのか?」

「いえ、せいぜい今週いっぱいと言うところだと思います」

「やはり、そういうことなんだな?」


 エルフの禁忌を犯した者は罪の証として肌が褐色に染まる。

ダークエルフは破戒の存在である、としてエルフからも蔑視される。

エルフ自体が他の人種との接触を拒む傾向が強く、人族は見目よいエルフを奴隷にしようとしたり、質のよい木材の入手のためエルフの住む森を侵すため、いつからかエルフと敵対するようになった。


 ようするに、だ。

ダークエルフという存在は人種の中でも嫌われているということである。


 亜人族ならば拒否はしないかもしれないが、彼らも人族の労働力として奴隷扱いされるのを防ぐため、人の住まない僻地で暮らしているという。


 俺自身、ダークエルフに会ったことはなかった。

元々エルフ族とドワーフ族は仲が悪く、歳をとったドワーフ達がエルフなんぞという中で育つのだ。エルフと会う機会など、ましてやダークエルフと接触する機会などあったはずがないのだ。


 ダークエルフへの…変質というのがただしいだろうか。

それを直に見たものなど何人いるというのだろう。


「そこまでして何で…」

 俺は言いかけて辞めた。

余程な事情があるのは間違いないのだ。


 リリアムの、瞳に宿る覚悟を映す光が俺の目を釘付けにしていた。


 それからもリリアムは変わらず生活を続けていた。

日に日に身体は褐色に染まっていき、5日目には夜中に呻くこともなくなった。全身を覆うローブを着て買出しに行くようになったのが数すくない変化だろうか。


「環境への適応なのかもしれません」

 夕食時、ポツリと呟いた無意識の声を拾った。

「あん?」

 聞こえていると思わなかったのだろう、珍しくリリアムが狼狽しつつ答えるに

「槌を持ったりするのが前より負担じゃないんです。単純に筋力がついてきただけかもしれないですけどね」


 それから数日が経ったある日、水汲みに出たリリアムの帰りが遅いので様子を見に行った。何か起こっていたら困るし、サボっていたとしてもリリアムの場合は逆に安心してしまうくらいに普段気を詰め過ぎなのだ。ちょっと叱る振りをする程度で十分だろう。


 最初に水汲みを教えた小川の近くまで行って、リリアムの姿を見つける。安堵を覚えた自分をごまかすように声をかけようとして、近くの木に姿を隠す。


      リリアムは泣いていた。


 どうしてかは分からないが、覚悟をしてこの道を選んだのには違いない。それでも…自らの出自を失うのに何も思わないはずがなかったのだ。平穏な生活に戻ってきたところに、水面に写る自分の姿を見て、タガが外れたのだろう。


 俺はリリアムに背を向け、仕事場へと帰るのであった。

 


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