第3話 ギャルにタイパを詰められた専門バカ、寿司代を払う
「ふ、フン……物理学者の『実体主義』の限界が露呈したな」
ここぞとばかりに哲学者のソクラがドヤ顔でストールを整え、腕組みをした。
「やはり時間とは、我々人間の意識が構成する主観的な——」
「——哲学者のソクラよ。お主も同罪だぞ」
賢者の冷ややかな視線がバシッと突き刺さる。
「えっ? 私も……?」
「お主は『色とは人間の主観体験だ!』と熱弁するあまり、波長という物理的基礎(客観)を無視して『心の中にしか色はない』と煙に巻いているだけだ。物理学者が『モデルの中身』しか見ない専門バカなら、お主は『人間の内面』しか見ない専門バカだ。おまけにお主は物理学上の「時間」についての理論や知識のレベルが一般人レベルでしかない。よくそんな竹やりみたいな知識で臆面もなく「時間論」を語れたな。」
「ぐはっ……! ぶ、物理学上の時間知識が……た、竹やり……!?(吐血)」
「哲学といえば古来、科学や物理学の祖であったものを。嘆かわしいぞ」
「うぐっ……!?」
「二人とも、自分の専門領域の単語と前提に閉じこもり、相手がどのレイヤー(階層)の話をしているかを見ようともしなかった。知識に溺れて、目の前のギャル以下の会話しかできていなかったことを恥じるが良い」
「「……申し訳ありませんでした……」」
現代の専門バカを誇る二人が、コタツの横で正座をして深々と頭を下げた。
「はぁ〜〜〜……マジで呆れた。っていうかさぁ」
それまで呆れ顔で二人を見ていたミーナが、スマホをソファにポンと投げて腕を組んだ。
「ウチ、いま猛烈にイライラしてんだけど」
「えっ? あ、あのミーナ君? 僕たちは反省して——」
「反省とかどうでもいいし! ウチが怒ってんのはタイパ(タイムパフォーマンス)の話だよ!!」
「タ、タイパ……!?」
「ウチの貴重な放課後の時間さぁ! アプリで動画見たり推しのSNSチェックしたりできたはずの時間を、二人の噛み合わない不毛なレスバに15分以上も付き合わされたわけ! この『時間損』、どう補填してくれるわけ!?」
「じ、時間損……! だがミーナ君、時間はパラメータであり実在は……」
「『実在しないから損してない』とか言ったらマジで二度とこの部屋入れないからね??」
「すみませんでした!!」
ミーナの鋭い睨みに、物理学者と哲学者が同時に悲鳴を上げた。
「時間を共通のツールとして生きてんだから、人の時間を無駄にすんのは最低のタイパ違反なの! 賢者も言ってたでしょ、『時間は超使えるカミツール』だって!」
「う、うむ。確かにそう言ったが……ミーナよ、それでどうするのだ?」
賢者がミカンを食みながら尋ねると、ミーナはニヤリと悪魔のような笑みを浮かべ、スマホの出前アプリの画面を二人に突きつけた。
「てことで! ウチの貴重なタイパを害した罰として、今日の夕飯奢りね! ——回らないお寿司の『特上桶盛り』で!!」
「「と、特上寿司ぃぃいい!?!?」」
「当たり前じゃん! 専門バカの不毛な講義代と思えば安いもんでしょ! ほらアル君、クレカ出して! ソクラさんも割り勘ね!」
「む、無念……! 物理学の論理で勝ち、ギャルのタイパ論理で破産するとは……!」
「意識のクオリアを論じる前に、私の財布の残高が消滅する……!」
ガックリと首を垂れながらクレジットカードを取り出す二人の専門バカ。
「やったー! 賢者、トロ選んでいいよ〜!」
「おお、それは重態じゃな。苦いお茶でも淹れるとするか」
夕暮れのワンルームマンションに、ギャルの高らかな笑い声と、特上寿司の注文確定音が虚しく響き渡るのであった。
次回投稿予定
2026年10月17日 17時00分
エピローグ:あとがきにかえて —— 専門バカにギャルが勝利(と本代の被害報告)
お楽しみに!




