第58話
「ハァハァ、レオンが手こずる訳だ。二人係りでも少し厳しいね」
「………助っ人って言ってた割に随分拍子抜けじゃねーか?もう終わりか?」
「ッ……君も天啓奪われているじゃないか。アレがあれば少しはこの戦況も違ってたんじゃないかな?」
「うっせ。切り札があるならとっとと出せよ。じゃないとその前に死ぬぞ?」
「出したいんだけどねぇ。アレには結構おおきめのタメがいるんだ。今の君じゃ時間稼ぎも難しいんじゃないかな?」
「んだとコラッ」
右手をアレスの肩に触れ、無限に生成される魔力をアレスへ流し込みながら互いに罵り合う。しかし、今も尚足止めの為だけに風と水の中級精霊に魔法を放ち続けてもらっている。その魔力はもちろんアレスからだ。その為レオンから補給した分もどんどんと減っていいっている
「実際のところどのくらいの時間が必要だ?」
「最低でも三分。その間今力を借りてる精霊の力は借りられなくなる。オイラがこの空中にとどまる分も含めてなんとかならないかな?」
「随分と長い三分になりそうだッ」
その時だった
(お主らッ!聞こえているかッ?)
「「ッ⁉」」
(これはお主らのみに聞こえる念話魔法じゃ。相手の気付かれぬようにしろ。レオンよ。渡したいものがあるッ。この戦いにおいて絶対に不可欠になるものじゃッ。アレスよ、その間アルファを引き付けておけッ)
(それではカウントを始める。五…四…三…二…一ッ!)
その瞬間レオンの後ろへナターリリアの転移門が現れる
「頼んだぞッ」
「早く帰ってきてねッ!」
それと同時にアレスは無数の中級精霊を従え、更なる高威力の魔法を放つ
「でッ?渡したいものって?」
「そう急くな。渡したいものとはこれじゃ」
「ッ⁉」
そう言って差し出されたもの。それは外気と触れないように魔力の膜で覆われ二つの眼球だった
「お前……これッ」
「これは天啓:天眼じゃ」
「ッ!」
それはすなわちルーチェの眼であることを意味する
こみ上げる怒りで思わず周囲に生きる数多の植が高濃度の魔力によって枯れ果て、死してゆく。
「どういうことだッ⁉事と次第によってはッ」
「妾を殺すか?もちろんそれも構わぬ。しかし、それはお主がこれを付けてからじゃ」
「なんだとッ⁉」
「アレはお前に託したのだ。それを無駄にすることこの妾が許さぬ」
その言葉と共に放たれる覇気は今まで感じ取ってきた己こそが上だと誇張するものではなかった。
「……驚いた。エルフの女王様がたかだか一人の人間の為にそこまで怒れるとは」
「フンッアレは中々面白みのある人間だ。微々たる時間だが同じ時間を過ごしたよしみにすぎん」
少しの間を置き、レオンは頭を下げる
「頼む。アイツの眼を俺へ」
・・・・・・・・・・・・
「はぁ、はぁはぁ………流石に僕一人で君の相手は骨が折れるね」
『フム、なるほど。君は半分だが神の血を継いでいるようだね?だから、この私を見ても死なず、こうして相対しているのか』
「神の血?」
『なんだ、君は自身のルーツすら知らずにこの戦いに挑んだのか。実に愚かな』
「ハハッ!オイラのルーツなんてどうでもいい。オイラはエルフの国アルヴヘイムの第一王子。アレス・フィ・レウスだッ!それ以上でも以下でもないッ‼」
「よく言った。それでこそお前だよな」
「『ッ⁉』」
魔力を練り己を鼓舞するように自身の名を告げるアレスの後方から虹色の瞳を輝かせ、尽きることのない膨大な魔力を迸らせ現れる
「遅いんじゃない?逃げたかと思ったよ」
「ぬかせ。お前こそもう無理そうなら帰っていいぞ?」
互いに軽口を叩く。今にも死にそうな状況で尚、互いの言葉に不思議と力がこもるのが分かる
「……それで?勝てそう?」
「あぁ、だがその前に俺の天啓を奪い返す。この眼があればそれが可能だ。その後はアイツの中にある他の神々の因子を奪う。最後は俺がアシストするからお前が決めろ」
「オイラが?」
「あぁ、お前が決めろ」
そう、レオンの天変万雷でもその他の神の力でも駄目なのだ。それらは元々奴自身の力であって、致命打には成り得ない。最悪奪われて今度こそ詰みだ。だがアレスの力は違う。アレスの力は天変万雷の前任者。つまり、疑似的ではあるが神と成り得た者とルニエルの間に踏まれたイレギュラー。そのルーツを奴は持ち得ない
「………はずだ。」
「…………賭け要素が強い気がするけどいいよ。その案に…ッ⁉」
次の闇より黒く悍ましい何かがレオンたちを包み込む。レオンは純粋な魔力のみで構成した魔力弾で、アレスは中位精霊魔法を放つがソレは何もなかったかのようにそれらを全て飲み込んだ
「クソッ、アレスッ掴まれ!」
「ッ⁉」
外界と完全に断絶された瞬間レオンはアレスを引き寄せ外へとつながる転移門を広げその中へ入り込む。
「ッ⁉」
「あ、危なかった………」
ホッとするレオンとは対照的に信じられない光景を目の当たりにしたアレスは動揺する
「その技……」
「賭けじゃない。この眼は天啓を……神々の因子を視認することが出来る。言っておくがちゃんとナターリリアに許可を取り、返す約束をしてから借り受けたからなッ⁉」
レオンは動揺するアレスへ慌てて弁明する。
「それにも驚かされたけど………天啓が、神々の因子?」
「正確には因子ではなく加護に近いが……まぁ、同じようなものだ。神々がアルファへの最後の抵抗としてこの加護を下界へ振り撒いた」
それこそ神々が人種へ齎した軌跡の正体だったのだ
「じゃあ、サポート頼むぞッ」
「任せなよッ!」
攻撃をさけるために数百キロ先へ転移したレオンたちは再び攻撃を仕掛けるため、転移門を開く。しかし、その数は凡そ二百四十九個
「まずは攪乱させろッ」
「水・風混合精霊魔法《霧の幻影》」
魔法詠唱と共にレオンとアレスの姿をした幻影が無数に生まれ転移門へと高速で入ってゆく
『チッ往生際の悪い』
全ての幻影がレオンとアレスの魔力を含み、全て本物かの様に誤認させる。そのせいでアルファは全てに対応しなければならなくなる。
「そのままかく乱し続けろッ!あと幻影とプラスして通常の魔法攻撃も頼む」
「……んな無茶苦茶な。2属性の精霊に同時に指示を飛ばすこの複合魔法って結構集中力いるんだけど」
その言葉。待ってました
そんな言葉がレオンの中で弾ける
「あ、そっかぁ……ルニエルならこれくらい出来て当然だったけど……まぁアレスだしなぁ」
その瞬間。何かが破裂するような音がレオンの耳に届く
「あぁ、そうか。君がそこまで言ってくれるとは」
それはレオンが前世でも見たことが無いほど………いや、一度だけ見たことがある。あれはアルヴヘイムへ魔王軍の大軍勢が進行してきた時だった。あの時はアルヴヘイムにも多大なる被害を受けた。あの時のすさまじい怒気を隠した不気味に張り付いた笑顔そのものだ
「いいだろう。そこまで言うならやってやろうじゃないか。君はオイラを過小評価しているようだからね。その評価改めさせてやろう」
「お、おう………」
あまりの剣幕さに思わずたじろいでしまう
アレスはレオンから供給される続ける魔力を更に練り上げ、額から滝の様に汗が流れる
「風精霊魔法《不可視の死の鎌》」
幻影に続き、見えざる高密度の風の鎌がアルファへと襲い掛かる
『無駄だという事が分からないとはッ!』
その瞬間アルファは自身を覆う強固な結界を張る。
「ッ!」
その瞬間をレオンは待っていた
『グゥッ⁉』
アルファの後方足もとへレオンが取れるか通れないかの極小の転移門を展開。燐化した右腕をアルファの腹部へと突き刺す。
「返してもらうぞッ。来いッ天変万雷!」
握りしめたそれが天変万雷であるという確信。己の中へ帰ってきたそれが以前以上のしっくりとくる。
「ハァァァァァァッ!」
天変万雷から流れ出る神的エネルギー。それを燐と同様の要領で自身の肉体を変質させる。
―これで漸く振り出しだ―




