第52話
中に入った瞬間。その景色は一変する。神々しい光を放つような白一色の四角い部屋。
外から見たその寂れた廃城は何十人も入れるような広さがあったはずが中に入ってみるとそれは、十人入れば限界の小さな部屋だった。そして、その中心に建てられた台座の上には一冊の分厚い書物が置かれていた。
「これ、だけ……?」
本来数百年も続く国家の機密情報であれば何十何百の書物になったとしてもおかしくないはずが、周囲を見渡してもあるのはその一冊のみ。ルーチェは困惑した様子でボソッと呟く。他の二人も同じような反応を見せる。しかし、三人はその一冊の書物を見てひどい既視感に襲われる。
しかし、その場にいた一人だけその書物に目を見開く者がいた。それは……
「なんと……こんなところにあったのかッ」
思わず口をついて出た言葉。その意味深げな言葉にフォルティシアスを含むその場にいた全員が視線を向ける
「あなたはこれをご存じなのですか?」
「あぁ、知っておるとも……おぬしらもこれを知っているはずだぞ?」
「「「え?」」」
ルニエルは視線をフォルティシアス以外の三人に向け、そう言い放つ。その言葉に更に困惑し、三人の声がハモる
「妾が叡智の魔女と呼ばれる所以は何だったか思うだしてみぃ」
「……あっ」
「……え、でもあれって」
そう。それはルニエルが叡智の魔女と呼ばれる所以である一冊の書。
「アレはもともとただの白紙の本じゃった。それに術式を幾百も組み込むことでどれだけ書いても使い切ることのない無限の白紙の書物にしたのじゃ。そして、妾が今持っておる物が完成品。文字通り無限の書物じゃが、その前の試作品。無限ではなく書物の内部を拡張する術式が余れただけの有限の書物が今まさに目の前にあるそれじゃ。どこかに落してそのままじゃったがまさかこんなところにあったとは」
それはまさかの巡り合わせ。ルニエルはゆっくりと近づき、まるで我が子を見つめる優しい眼差しで、我が子を撫でるかのような優しい手つきで撫でる。
「この試作品に巡り合わせてくれた礼じゃ。有限を無限にする術式を新しくこれに組み込んでやった。これであと数百年どころか数万年経っても尽きることはないじゃろう」
満足げに話す
「なんと……まさか、これを製作なさったのがあなた様だったとは。それに無限に……これは上層部が頭を抱えそうですね」
ハハハ……と乾いたような笑い声をあげながら、フォルティシアスは額に冷や汗を流すのだった。
「では、私は周囲の監視をしております。気のすむまでこちらにお過ごしください。終わりましたら私にお声がけをお願いいたします」
そう言って、一礼するとフォルティシアスは外へと言ってしまったのだった
「よし、じゃあ探していきますかッ!」
そう言ってルーチェはルニエル製の動体視力と記憶力がアップする術式が刻まれた眼鏡を取り出し、書物の中身を確認し始めるのだった。
・・・・・・・・・・
一方その頃、天空雲城では、書庫に引きこもっていたハイドランジーが天空雲城を歩き回っていた
「あれぇ、お父さぁ~んッ!お姉ちゃぁ~んッ⁉……二人ともどこに行ったのぉぉ~⁉」
『………ッ⁉』
瞬間、粒子化していたレオンは粒子化を解き、結界の術式内部から戻ってくる
「わぉ……どうしたの?お父様……まだ、時間じゃないはずだけど」
「何か異常事態かッ⁉」
エルトロンはレオンの表情から何か異常事態だと察し、臨戦態勢に入る。しかし………
「あぁッ!ハイドランジーが書庫から出てきて俺を探しているッ……解析は一旦中断して家に帰ろう」
「へ?……あぁ、あの引きこもり妹出てきたのかよ」
想定外の言葉に一瞬目が点になるエルトロン。だが、すぐに納得する。
レオンは、オリアン王国との一件以来子供たちがレオンの名を呼んだり、その身に危険が起きたりしれば、例え地の果てだろうがどこだろうがそれを察知することが出来両に鍛錬したのだ。それを子供たちは知っているのだ。
「今回は早かったわね。四日だったわよね?」
「いや、三日だったんじゃねぇか?」
ハイドランジーは一度書庫に入れば数日間はそこから出て来なくなるのだ。本の虫ならぬ本の竜というやつだ。
「どっちでもいいんだよ。取り敢えず帰ろう」
「「はぁ~い」」
そう言うとレオンは雲を作り出し、三人は超特急で天空雲城へ帰るのだった
・・・・・・・・・
何時間経っただろうか。ページを異常な速度で捲り、天使についての記述をルーチェは止まることなく探し続ける。
ナターリリアとユーティアは絶え間なく流れ込んでくる情報に脳がオーバーヒートしないように氷魔術で氷を生み出し、で頭を冷やしたり、回復魔術で回復したりしてサポートをしていた。
この塔は外界と完全に断絶されているため空を見ることもできずどれだけ時間が経ったかさえ分からない。因みにルニエルはこの廃塔を覆っている結界の解析に夢中になっていた
「これは面白い、恐らく人間のみが使える天啓に由来する能力じゃろうが、恐らく魔法でも近しい効果は再現可能じゃ。これを使えばもっと強固な結界が創れるじゃろう」
その瞳はまるで飽くなき探求心を持ち、なんでも知りたがる子供そのものだった
そんな時だった。すさまじい速度でページを捲っていた手がピタリと止まる。急な静けさがその場にいた全員に襲い掛かる
そんな静けさの中ルーチェが小さく一言呟く
あった………と




