第49話
時は戻り……
「おい、司教様はまだいらっしゃらないのかッ⁉」
「す、すぐにいらっしゃると連絡を受けています。もうすぐかと……」
朝から並んでいたはずが、気付けば時刻は既にお昼を過ぎ、ようやく検問所で審査を受けることになったのだが……聖杖を所持するユーティアと本来人間の前に現れることがないエルフ。それもエルフの女王と名乗るルニエルのダブルパンチで検問官たちは大パニックである。
その後、形式上ユーティアのお供であるナターリリアとルーチェも含め、別室へ案内されてしまい。今に至る。
そして現在。検問官とは別の人間があわただしく会話をしているのが耳を澄ませば聞こえてくる。
メインがルニエルとユーティアという事もあり、用意されたソファーにはその二人だけが座り、お供の残り二人はその後ろに立っていた。
(ねぇ?これ大丈夫なんですよね?変な方向に運命行っちゃったりしてませんよね?)
一平民では一生拝めないであろう高級感溢れる部屋に気圧され、ルーチェはアワアワしながらルニエルにアイコンタクトを必死に送る。しかし……
(…………)
(ヲイッ!)
その全てを無視し、気圧されることなく優雅に紅茶に口をつける。『無視すんな』と言わんばかりの視線を送る。が、それすらも一瞥されただけだった。
(お、落ち着いてくださいッ!作戦通りに!)
そんなルーチェを横に立っていたナターリリアが窘めるように小突く。そんな時だった。ドアの向こうから規則正しいリズムでノックが三回。その後に続いて『失礼いたします』という、男の低い声が響く。その重低音はユーティアたちに三人に緊張感を与え、場がピリつく。
が、そんな三人の緊張をほぐすかのように微かにルニエルがオーラを放つ
「「「ッ⁉」」」
それはかつてアルヴヘイムでナターリリアが感じたような半端な人間では圧死してしまうかのような死の圧ではなく、とても優しく包み込むかのような。仲間を鼓舞するような圧だった。我に返ったユーティアは、扉の向こうの主に入室を許可する。ユーティアたちが座るソファーの向かい側に座ったソレは
「失礼いたします。この度は我が国へお越しくださり光栄に存じます。私は司教兼教師をしております。アルゴ=スタディエルと申します」
オークの首を素手でへし折りそうなその屈強な体躯から感じる圧。しかし、それとは裏腹にとても丁寧なあいさつに皆揃って虚を突かれてしまい、一瞬の変な間が空いてしまう
「ッ……ご、ご丁寧にありがとうございます。私はユーティアと申します。そして、この杖が聖杖アスクレピアソスです」
「おぉッ!これがッ………」
ユーティアが聖杖を前に掲げると、ソレを見たアルゴは感嘆の声をあげ感極まった様子で聖杖にくぎ付けとなる。その目端には微かに涙が浮かんでいた。
「コホンッ!」
しかし、鋭い咳払いによってアルゴの意識は聖杖から引き戻される
「ッ!失礼いたしました。あまりに神々しく、つい見入ってしまいました」
「本来であれば許さぬところだが、今回はその信仰心に免じて不問としよう」
それはまさしく女王の威厳。先ほど三人が感じたものとは違う。それはエルフの国アルヴヘイムの女王としての絶対的な圧がアルゴへと降り注ぐ。
威圧の大将ではない三人にすら少しの緊張が走る。
「妾の紹介はするまでもないだろうが……ここはあえて乗ってやろう。エルフの国アルヴヘイム第十三代目女王ルニエル=フィ=リーフ=アウリエである。その目で見仰げたことを光栄に思え」
((うわぁぁ~~~~………))
ルニエルの言葉に後ろで控えていた二人がなんとも言えない微妙な表情になる。しかし、その言葉を受けた本人は快闊な笑い声と共にルニエルの言葉を肯定するのだった
「して、聖なる杖アスクレピアソスを授けられたという事は貴女の近くに勇者様が現れたという事を指すのですが……後ろのお二方のうちどちらかがそうなのでしょうか?そちらの女性は確かオリアン王国の国王を守護するクイントセイバーのお一人だったとお見受けするのですが」
「……はい。今はもう滅びたも同然ではありますが、私はクイントセイバーの一人。史上初の空間転移の天啓の使い手。ナターリリア=エイマーと申します。当時、私は別任務で王都を離れており、戻ってきたときにはすでに………当てもなく彷徨っている時、ユーティア様に出会い、拾っていただきました。それ以降今に至るまでユーティア様にお仕えさせていただいております」
しおらしい……まるで本当にそう思っているかのように震える声を出す。
「おぉ、やはり……あの事件は、私も耳にしました。あの悪逆非道の悪魔による王都壊滅事件。他のクイントセイバーの方々も戦死されたとか。私もその件以来彼らへ鎮魂歌をより一層捧げております」
そういうと両の手を顔の前で組み、祈りを捧げるポーズを取る
「ありがとうございます。私の同僚たちも喜ぶことでしょう」
ポケットから取り出したハンカチで目元を拭うポーズを取る。
しかし、実際ナターリリアの心中では…………
(いや……あの三人なら満場一致で鳥肌ものでしょうね。そんな殊勝な連中じゃないもの)
ナターリリアは思う。祈りなんてものはクソ喰らえの精神のギルバート。自己中心で、自分さえよければそれでいい。逆に自分が不機嫌ならそれを周りで解消するチャーミー。そもそも矯正不可能な歪みまくった人格の持ち主のヒトラス。もっともヒトラスとチャーミーに関しては外面がとても良く、周りからの評価は高かったようだが………
母の治療の為とはいえとんでもない場所にいたのだと改めて実感するナターリリアなのであった
「という事はそちらのお方が……」
「いえ、彼女もまた私と同じユーティア様に拾っていただいた者です。」
「ルーチェと申します。とある邪教団に監禁されているところを勇者様とユーティア様に助けていただき恩返しが出来ればと同行させていただいております」
「そうでしたか……では、勇者様は?」
「彼とは今はとある依頼で別行動をとっております。問題があればナターリリアの天啓ですぐに合流できるようにしているのでお構いなく」
「なるほど、そういう事でしたら仕方がありません。本音としては勇者様をこの目で見て見たかったのですが、勇者様ほどのお方。多忙なのも致し方ないことなのでしょう。して、ご用件は此度はどのようなご用向きでこちらへ来られたのでしょうか。」
(来たッ)
それは作戦会議時に巻き戻り……
「不変の掟で改竄するのはただ一つ。それは好感度じゃ」
「好感度?」
聖なる杖『聖杖アスクレピアソス』は聖教国にとって象徴のようなもの。必ず相応の官職に付く人間がやってくる。であるならばそいつの好感度を予めルニエルにできうる限り高めておけば大抵のことは疑いもせず聞き入れる。
あとはどれだけ会話の中でその者の心を掌握できるか……
街中を通り過ぎる知らない誰かを五十とかていしたとき、ルニエルが好感度を上昇させられたのは凡そ七十五程度。これは友人もしくは家族に向ける好感度に近しい。さらに先ほどの会話ではプラス十の補強が入ったおかげで今では親友か戦場を共に駆け抜けた戦友ほどの好感度にまでのし上がったことになる。つまり、仕掛けるならここしかない
「実はその依頼というのが少しばかり厄介でして、今は勇者である私の幼馴染が押し留めているのですが弱点が分からず情報が欲しいのです」
「ふむ……それはあの叡智の魔女と名高いエルフの女王陛下ですら存じないとなるとこちらでも協力できることは難しいと思うのですが……」
「かつてあれを封印したのは先代の勇者と聖女。そして、その仲間たちじゃと当時噂で耳にしたことがある程度じゃ。それ以上のことはわからぬ。しかし、おぬしら人間は短命故に後世へと紡ぐ力を有しておる。恐らくあれを倒す術を下記するした物があるはずじゃ」
「なるほど……叡智の魔女様に褒めて頂けるとは光栄ですな。それで『あれ』とは一体何でしょうか?」
「かつては神に仕えていたが、神の消失と共に魔に身を落とした魔神獣フェンリルじゃ」
大学が始まり、忙しくいなるので頻度を少し落とします。
毎週日曜日と火曜日の週2で投稿しようと思います。なので離れないでェェェッ!( ;∀;)




