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1-14.5 ラリマーの首飾り。それは家族の物語

挿絵(By みてみん)

 遠巻きにこちらを見ている村人がいるが、誰も出て来ない。

 シフは少し休憩。水を飲み干し肉を齧る。

 「さあて、始めるとしますか。まずは村の人に挨拶しないとな」

 「ああ」スィラージが奇妙なポーズで戦闘準備。

 「結構子供がいそうで良かった」

 二人はリュックサックの中から横笛と何やらイラストを描いた紙の束を取り出した。

 ルシールは笛を見て「そんなの持ってたんだ」

 「そんなに上手くないんだがな」シフは慣れた所作で吹く。ぴゅるりらぴゅるりらぴーぽんぽん♪ 軽快な曲調だ。

 「マジであれをやるのか」ガボルアが嫌そう。

 シフは少し笑って「頼むよ。折角憶えてくれたんだし。この礼はいつかきっと精神的に必ず」

 スィラージが細い棒を取り出して、とんとことんとこテーブルを叩き始める。

 何が始まるのか。ルシールは長椅子の端に座って見物。村人たちも遠くから注視。子供の顔が増える。

 2人はノリノリで演奏。頭を振ってステップを踏み、楽しげな雰囲気。

 子供たちが近付いてきて充分声の届く距離。

 ガボルアは後方で様子を見ていたが、物陰に移動して彼もリュックサックから何やら取り出した。何か変装の道具らしい。

 「イエスべいびー! ジャガージャガージャガー! ミハラヤマノボレ!」スィラージが意味不明の口上を始める。テーブルの上に紙の束を立てた。綺麗な星空の絵だ「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響き有り。沙羅双樹の花の色、盛者必衰のことわりをあらわす。時は宇宙世紀0055年。遠い遠い星の海の物語です」ダンダン! 景気よくテーブルを叩く。紙芝居が始まった。

 シフはピュルリラ「さあ良い子のみんな、楽しいだしものの始まりだよー♪」

 ルシールはポカン。

 「星の海を巡る勇者シンドバッドは異世界からの転生者である」スィラージは1枚めくる。黒髪の青年がタンスを開けたり壺を割ったりする情景。

 「シンドバッドは前の世界のことわりに従い、勝手に他人の家に入りタンスを開けたり壺を割ったりやりたい放題。たまに金品を見つけてうっしっし(笑)」

 嫌らしい笑みだ。

 「しかしそうは問屋がおろさない」さらに1枚めくると、怒ったおじさんの顔のアップ。

 「貴様! 何やっとるんじゃあ! 今度という今度は許さん! ぶっ殺してやる!」ナレーションからセリフまで全てスィラージが担当している。

 何故かアフロヘアとサングラスとアロハシャツのガボルアが登場する。シフを指差して激おこ。スィラージのセリフに合わせて口パク。

 シフも笛を置いて立ち上がる。

 「イボイノシシにかける言葉など無い! このクソ親父が!」

 シフも口パクでガボルアと対峙、敵意むき出しの表情

 「そうです! なんと2人は親子だったのです!」1枚めくる。若者と親父が睨み会う竜虎対決の絵「この世界のシンドバッドはたまに帰っては家の金を盗る不良息子になってしまったのか! それにしてもこの猛烈な敵意、2人の間にいったい何があったというのでしょうか……!」

 ここでスィラージは語りを止め、そっと視線を上げて聴衆の反応をチェック。

 「…………」村人たちは沈黙している。

 ピュルッ、ピュルッ、ピュルルルルーと鳥が鳴いている。民家の軒先の洗濯物がパタパタ揺れる。

 「……ぐふっ!」ルシールは我慢できず噴き出した。

 男3人が視線を交わす。

 何かやっちまったような気が。

 オイどうするんだコレ。

 俺たち間違ってないよな?

 ルシールは俯いて帽子で顔を隠し、笑いを懸命に堪えるが、どうしようもなく肩が震える。

 スィラージがちらりとルシールを見る。

 「あんたら何やってんの! ちょっとそこ座りなさい! 大人しくしないと今日の晩メシ無いよ!」バチバチとわざとらしいウインクでアドリブを促す。

 ……え――! あたし? 驚きの無茶振り。

 ルシールは渋々立ち上がって男たちを叱る真似。とりあえず大根。

 「何ポカンと突っ立ってんの! そこに座れと言ったでしょ! このカス野郎どもが! アホ! 馬鹿! いんぐりもんぐり!」

 シフとガボルアがルシールの前に膝をつく。

 「で? 何があったの? あんたもたまに帰ってきたら『ただいま』くらい言いなさい! あたしはあんたの母親でしょ! あんたはあたしの息子でしょ!」ルシールは腕を組んで睥睨し口パクで叱責。

 「父親が豊かなアフロヘアを撫でて告げる。重々しい口調で『こいつ……ラリマー(※1)の首飾りを盗りやがったんだ』」バン! とテーブルを叩く。

 「母親は驚愕『それは! それはあたしがお母さん(義母)から持たされた首飾り』」ルシールは額を抑えてよろめく。

 「あんたが結婚したらあんたのお嫁さんに贈る予定だった首飾り! なんてことを」ルシールはヨヨヨと膝を落とす。

 「息子が言い返す。『じゃあそれは俺の物ってことだろ、早めに貰っても何の問題も無い』」

 「『貴様ァ!』怒った父親のオーバードライブキックだ!」

 ガバと立ち上がったガボルアが大きく振りかぶってドガン! と蹴り上げる。シフは蹴り足に上手く乗って飛ぶ。クルクルと回転して綺麗に着地。

 ざわめく聴衆。良い反応だ。

 「実は息子は拳法の達人だったのです!『馬鹿オヤジ! 少しは俺の話を聞け! 色々理由があるんだよ!』」

 「親父はぷんぷん『黙れ小僧!』」バン! と机を叩き「ガン〇ムファイトゴー! ラストバトルの始まりだ!」

 ドカン! バキ! パシ! ズン! 鮮やかな組手が始まった。力で押すガボルアに対し、速さと技で魅せるシフ。

 歓声が湧きあがる。

 ルシールはさがって眺める。

 「うおおおおおお!」スィラージはもう寸劇そっちのけで適当アテレコ。

 「させるかよ!」

 「バカにして!」

 「おっと危ない! しかしまだまだ! お前の本気を見せてやれ! ATフィールド全開!」

 激しい動きにガボルアのアフロかつらがずれ落ちる。

 「見たな! 見てはいけないものを!」スィラージが絶叫する。

 「見たくて見たわけじゃ無い!」シフは思わず言い返してしまった。

 ワッと歓声が上がる。40人は集まっているか。

 スィラージは嬉しそう「黙れ小僧! 見た奴は殺す!」




 【※1 ラリマー】アドリア海のような青に波紋を浮かべた宝石。ペクトライトという鉱石の中で特に青色のものを言う。ユーラシア大陸ではチェコで産出する。

正月休みに書いていたエピソード。書きやすいものはポンポン書ける。

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