1-14 アニメのイケてるヒロインで古今東西。やるぞ! おー! 見せてもらおうか、小6ヒロインの実力とやらを!
翌朝、出発を前にして。
ルシールが少し心配してシフに言う「行くのは良いんだけど」
「ん?」
「行くのは良いんだけど、その村に宿屋あるの?」
「あるに決まってんだろベイビー」
「嘘だな」スィラージが冷静に指摘する。
「あるよある! 宿屋はある!」
「そうね、確かに嘘っぽい」
シフはヨヨヨと泣き真似をする「どうして誰も信じてくれないの? オラ悲しい」
「それでほんとのところは?」
「ま、なんとかなるだろ。いざとなれば駅のベンチで寝れば良いさ」
「駅なんてあるの?」
「そう言えば無いな」
「もう意味がわからない」ルシールは呆れた。よくこれで旅を続けてきたものだ。
「あっはっは」スィラージは気にしていない。
ルシールは尚も聞く「それで実際宿屋が無かったら?」
「それはだな! いきなりガチャって民家の戸を開け、息も絶え絶えに『あはぁん、オラもう駄目、泊めてちゃぶだい。泊めてくれないと泣いちゃうぞ!』」
「あっはっはっはっは」スィラージが大笑い。
「……マジですか」
「もっと視野を広く! 心を解き放つんだ!」シフは景気付けに叫んでみる。
「普通、そんな簡単に泊めてくれないと思うけど」
「ま、任せとけベイビー」とことんお気楽な男である。
カダ湖の南岸の肥沃な穀倉地帯の南から東にかけて、複数の高原を組み合わせたような山岳地帯が広がっている。主峰はカホール山。遠望したところ、丸みを帯びたピークが多い。雲に包まれている頂上もある。積雪は見えない。その裾野に広がる森は、森と言うよりはジャングルだ。カダ湖と山の恩恵で雲がたくさん湧く。たくさん雲が湧くからたくさん雨が降り、だから局所的とはいえジャングルが形成されているのだろう。南国なので日差しも強く、放っておけば幾らでも草木が茂る。当然カダ湖に流れ込む川が幾つもあり、下流域から灌漑に用いられてこれが広大な穀倉地帯を支えている。
一行が目指す村は、ジャングルを抜けて少し山を登った高原にある。標高を上げると気温と湿度が下がり、なかなか暮らしやすいという。ジャングルに入っても割合整備された道が続いた。急な段差も無く、泥濘は石で埋め、左右の藪も刈られて歩きやすい。
音も無く霧のような雨が降り始めた。全員マントを閉じてフードを被る。ムシムシジメジメ嫌になる。そのうち登りが急になった。ルシールはさすがに口数が少ない。
シフはルシールの歩き方を指導する「歩幅を意識的に小さく。それが楽な登り方だ」
「ホントに?」
「そうなるな」
「一応言うと嘘じゃないから」ルシールの疑念にスィラージが応じる。
「そうだ嘘じゃないぞ、スィラージが『魔法少女 香子ムラサメ』のファンクラブに入っているのも嘘じゃない」
「黙れカス野郎」
「あっはっはっは」シフは今日も楽しそう。
「ふう、疲れたかな」ルシールがこぼす。
「おい、急ぐ必要無いからな」ガボルアが優しく言う。
シフはスィラージに話しかける「暇だな、おい」
「どうしたんだい? 漏らしたのか?」
「黙れカス野郎、古今東西でもしようか。お題は、そうだな、アニメのイケてるヒロインなんてどうだい」
「あっはっは、なんだその悪意を感じるお題は」
「じゃあ、俺から行くぞ。ナナ◯ー(現代魔王アニメRの主人公の妹。15歳くらい? しかしその体形は小学生と言っても過言ではない)」
「……可憐(現代魔王アニメRのヒロイン)」
「YOU。(軽音楽アニメKのサブサブヒロイン。15歳くらい。しかしその体形は小学生と言っても過言ではない。)」
「……L。(ロボットアニメGZZのサブヒロイン。17歳くらい?年相応)」
「大鳩。(ゆるふわ系アニメKの不思議ヒロイン。見た目は年相応だが、その言動は小学生と言っても過言ではない)」
スィラージが頭を掻く「あの、なんか、チョイスがおかしいと思うんだが」
「何言ってんだよ、お前の好きなヒロインじゃないか。いやお前のストライクゾーンから見ると、まだちょっと齢が高すぎたか。ああもう畜生、難しいなあ。小学生高学年ヒロインを探すのは!」
「ぺっぺっ! 幼すぎるよ、カス野郎!」
「しかし最近多いよな、見た目小学生なのに、高校生という設定のヒロインが。『裏切ったな!僕の気持ちを裏切ったな!』あっはっは」
後ろを歩くルシールがやれやれと言う「あまりわからないけど、最低だということはわかったよ」
スィラージが訂正する「いや、わかってないぞ。真に受けたら駄目だからな」
シフは優しく呼びかける「うんうん、ありのままを曝け出すスィラージ君のこと、先生、素晴らしいと思うよ?」
「このハゲー! 違うだろ! 違うだろうーー!」
「あっはっはっはっはっはっはっはっはっは」
シフは漫画を読む真似をして何故か幼児化した「……ばぶ(ところで俺のプレゼント気に入ってくれたかな)?」
対抗して幼児化スィラージは指さして詰問する「……ばーぶ(やはり君の仕業か)」
シフは軽くガッツポーズ「たーい(もちのロンくさベイビー)」
スィラージは指した指を振るわせて「ばぶー(悪戯するのもいい加減にしろよな)」
シフは漫画を広げて大笑いする真似をしてから拳を振るわせて糾弾の構え「ばぶ! ばぶ!(嬉しかったくせに! 喜んでいたくせに!)」
スィラージも大げさに首を傾げて「たー? たーい?(はあ? 君はいったい何を言っちゃってんのかな?)」
シフはとっても威勢良く攻撃的に「ばぶ! ばぶ! ばぶーー!(このハゲ! 違うだろ! 違うだろーー!)」
「あっはっはっはっはっは、もう全く似てないんだけど」
「あっはっはっはっはっは」
ルシールもガボルアも全くついていけない世界。
「やれやれ、ほんとに仲良しね」ルシールは一時間に一度は呆れる。
「ばぶ?」シフは可愛く言う。
ルシールはムカッ。不意打ちでされるとかなりイラッとくる。
「チャックムカムカ?(意味不明)」
「……」ルシールはムカムカ。
スィラージが話を戻す「ところであれはどこから手に入れたんだ?」
「昨日、焚き火の近くに埋まってたんだ」
「そうか、ラッキーだったな。あれ結構なプレミア本だよ?」
「ふうん、ということは発禁本か」
「そういうこと」
「喜んでもらえて何よりだ」
「カスが」
「それでアレ、俺も読んだけどさ、何が悪くて発禁になったんだ?」
「『全ての膜は破るためにある』って話読んだ?」
シフはげんなりした顔で「……一応読んだが最低の話だったな」思い出したくもない。
「まあ、あれが原因だ」
「そうか。あんなのを普通に売ろうとしたら、そりゃ引っかかるな」
ルシールはドン引きで「死ねば良いのに」
「じゃあ、次のお題はキノコだ」シフは次のお題を告げる。湿気も高くキノコが生えていそうな環境ではある。
「なるほど、俺も前回とは違うところを見せてやる」
「じゃあいくぞ。ただ言うのもつまらんから、特徴を何でもいいから一つ挙げること」
「OK」
「では松茸。うまい」
「平茸。こいつも美味い」
「椎茸。旨い」
「滑子。ぬめぬめして味噌汁に入れるとおいしい」
「舞茸。見つけると嬉しくて踊りだすほど旨いから舞茸」
「花弁茸。花弁のようにヒラヒラしたのがキャベツみたいに固まったキノコ」スィラージがマイナー路線に走る。
「お、やるじゃないか。お前、いつの間にそんな修行したんだよ。じゃあ、こっちも本気出していくかな。ホンシメジ。『香り松茸、味シメジ』というほど旨い」
「ぬるいわ! エリンギ。太くて長くて奥様大喜び」
「木耳。名前の通り海月に似た食感」
終わりなき応酬を尻目にガボルアがルシールに教える「こいつら、キノコ料理が好物なんだよ。たまにお互いの知識を競わせてキノコ愛を確かめあっているらしい。あいつ(シフ)なんか、身体からキノコが生えてくるんじゃないかってくらい喰うからな」
「ふうん、ますます理解できないよ」ルシールは豚生姜焼きに舞茸加えたのでも今度作ってやろうかと思った。豚肉と舞茸の出会いは奇跡。
「衣笠茸。実は食べられる、美味い」
「マジで! じゃあ今度見つけたら食べろよ!」スィラージが叫んだ。
「おいスィラージ、そんなところでどうしたんだ?」シフは立ち止まり、右手の藪を見て声をかける。
「何が?」スィラージはシフの後ろにいる。
シフはまだ右手の藪に話しかける「そんな藪の中で何があったって言うんだい?」
全員そちらを見ると、一匹の黒い猿が木立から顔を覗かせていた。スィラージは端正なイケメンであるが、目鼻の数とか尻が二つに割れているところとか、似ているところが無いでもない。強いて言うなら雰囲気か。じとっと眺める感じがなんとなくスィラージぽいような。
「スィラージ、言いたいことがあるならちゃんと言えよ。黙ってたらわからないんだよ! 言わなくてもわかる筈とか、嘘なんだよ! そりゃ、言っても伝わらないことってのも山ほどあるよ、だけど先ず言ってくれよ、お前の気持ちって奴をさ! ほらサキイカやるから話してみろよ」シフは懐から出した細切れをフリフリ。片手で額や鼻の汗を拭く。
猿はきょとんとして逃げない。それから好奇心に負けたのかじりじりと近付いて来たが途中で警戒して距離を取る。でも『なんだろうアレ、変な臭いがするけども』やっぱり気になるのか、じとっと注視。
確かに似ているかもしれない。
「……君が憎い」スィラージが呟いた。
「あっはっはっはっは」
「ぷ」ルシールも汗を拭いた。
そんなムーディーな会話をして、息を少し荒げて登っていくと昼過ぎ、傾斜が緩やかになって高原に出た。低地ほどに木々が密集していない。なるほど心地良い風が吹いている。雨があがった、というよりは雲を抜けたと言った方が良いか。濡れた草木が輝いている。所々大岩が突き出している。道はある。歩いていくと池が見えてきた。水面には山陰が映り込み、風に揺れて一面乱反射している。あの稜線、登ってみたくなる山だ。その池の周囲が開かれてたくさんの家が建てられている。池の下手に水を引いて畑も作られている。村人たちが畑仕事をしている。子供が駆けている。
村に着いた。
たしか村の名はダシルといった。世帯数は100と少し。人口は500といったところか。なかなか大きな村だ。
「……豊かな自然があるなあ。それゆえに何もない」シフはどこかで聞いた名言を口にする。
「綺麗で良いと思うけど」ルシールも素早く村を観察する。
「しかし暮らすとなったら大変だからなあ。まったく、このへんの人は何が楽しみで生きてるんだろうな?」
スィラージが即答する「そりゃあ、毎日ヤってるんじゃないの?」
「そうなのか? あのコもこのコもヤリヤリなの? 汚い! そんな汚い大人に僕もなりたい♪」
「安心しろ、既に充分汚いから」
「あっはっはっは」
「最低。カスどもが」ルシールはげんなり。
ガボルアがポツリ「……その話、旅に出るたびやってるよな」
「そうなの? ……ホントに最低」
「おいスィラージ嬉しがるな! この変態が」
「別に嬉しがってなどいないよ」スィラージは確かになんだか嬉しそう。
「嘘だな。身体は正直だぜ?」
「あっはっは、意味が分からん」
ガボルアとルシールは顔を見合わせ「やれやれだな」と溜め息をついた。
とりあえず広場らしいところに行ってみる。無人のテーブルとベンチがあったのでそこで一休み。シフは水筒を呷る。余力は十分にあるが少しだけ疲れたか。
毛が長い老犬が寛いでいた。特に顎髭が長い。普通の犬は顎髭なんか伸びない。毛色は焦げ茶色。尻尾もふさふさ。何かを知っていそうな知的な眼光。ルシールに何かを感じたのかまっすぐ見上げる。
「なんと言うか、変な犬だな」シフは訝しげに観察する。
「髭伸ばしてすっかりじいちゃんね。よしよし」老犬は大人しくルシールに撫でられている。
それを見てスィラージも撫でる「どれ、俺も撫でてやろう。よしよし。頭が高いぞ、控えおろう」時代劇アニメの見過ぎ。
老犬は眼光ギラリと(この豚野郎が! 調子こいてんじゃねえぞ!)ガブリ!
「ぐっ!」スィラージは痛みをこらえて優しい顔を作る「大丈夫、そのままで。怯えていただけなんだよな。もう大丈夫だぞ……な?」痛いんだから早く離さんかカス犬が。
老犬は(舐めた豚野郎にはお仕置きじゃ!)噛んだまま必殺のデスロール! は、さすがにやり過ぎなのでもう一度ガブリ!
「ごおおおおおおおおおおおおおおお! いいかげんに離せよオイ!」スィラージは強引に振りほどく。
「あっはっはっはっはっは、また噛まれた。あんたホント、犬に嫌われるよね」ルシールは大笑い。
「こいつは昔から犬に噛まれるんだよ」シフは教えてやる。
老犬は(これが若さか……)ワンと鳴いて去っていった。
シフ「実はあたし、ポイントが大好きなんです。きゃ! 言っちゃった♪」
ルシール「やれやれ」




