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1-15 実はあたし漫画描いているんです。きゃ! 言っちゃった♪

 寸劇の結末。最後はシフの捨て身の特攻が決まりガボルアがひっくり返った。

 「ぐはぁっ! や、やられたー。強くなったな小僧。もう、俺の教えることは無い。がくっ」ガボルアが倒れた。

 「お、親父ー!」

 「父親は……父親は、最後に男の死に様を教えたのである。銀河鉄道の鉄橋を渡る音がカタンカタンと響いた。終わり」

 拍手と歓声が沸く。子供たちが喜んでいる。シフは小さく手を振って応える。スィラージが良い顔で笑う。ガボルアは筋肉でアピール。ノリと勢いしかなかったと思うが警戒心を解くことはできたようだ。


 「あんたらどごから来たんだい」

 老人がやってきた。兵士でもやっていたのか傷痕だらけの顔だが、表情は物に慣れた様子で柔らかい「旅の方かいな。こんなどごまでよぐ来だっぺ」

 なんとも訛りが強い。外来者の応対が役目らしい。メンバーを見渡しスィラージが目を付けられた「……お前さん、ながながイケメンだっぺ」

 「爺ちゃんに言われても嬉しくないよ」

 シフはふにゃりと笑って挨拶する「こんにちは。旅の途中なんだけど、キノコ料理が名物だということでちょっと来ました。涼しくて良い所ですね」

 「キノコ料理か。あんなものが名物になるが知らんが、奇特な奴だべ。まあ食いだいというのなら、村長のどごろだ。宿屋? それも村長のどごろ行っでみるっぺ」

 「ありがとうございます」

 「あんた、ツラは胡散臭いがながなが礼儀正しいの。どごがら来だっぺ?」

 「アスマラから。ちょっと仕事でね。砂鮫のせいで船がしばらく出ないからちょっと観光がてら」

 「そうが、金があるんだっぺ」

 「実はそうでもないんだ。何か仕事があればやるよ? 例えばキノコ採取とか」

 「そうがい。それも村長のどころ行っでみろ。多分キノコ採取どが、猪狩りどがあるんじゃないのがな」

 「ほう」ガボルアは狩りに関心がある。

 「ところで爺さん、それ戦争の傷かい?」スィラージが平然と聞く。

 「30年は昔の、名誉の負傷という奴だっぺ」爺は誇らしそうに言う「連れでっでやるよ」



 爺に連れられ歩いていく。村長の家は村の奥にある、一番大きな家だという。一行は物珍しそうにあちこち眺める。木造の小さな家が多い。あちこちに果物の樹が植えられている。

 子供たちが水瓶を運んでいる。賑やかだ。

 年長の子供が宣言する。

 「俺思うんだけど、やっぱロ◯リイさえ押さえておけば良いんだよ」自衛隊×異世界転移の作品のヒロインだ。中身も言動も大人だが、見た目は中学生と言っても過言ではない。

 「やっぱそうなの?」純朴な少年がいばらの道に足を踏み入れる。

 「その通り! 間違いない」

 スィラージが頷いて見送る「俺もそう思うぞ」

 ルシールが速攻否定する「何を言っちゃってんのよ、これだからアニメエリートは」

 「スィラージ、わかる、俺、わかるよ。金髪ロリータ最高だけど黒髪ロリータも良いよな」シフはしみじみと言ってスィラージの肩を叩いた。

 「カス野郎が」スィラージが安定の返答。



 さらに歩いていくと、10歳くらいの痩せた少女が一人、軒先のテーブルで紙を広げて、何かを鉛筆でカリカリと書いている。傍に使い古した松葉杖が置いてある。足が悪いらしい。まっすぐ紙面を見ている。良い集中力だ。

 「あれ、漫画描いてるぞ。ちょっと見てきても良いかな」スィラージが言い出した。

 「良いけど早くしろよ、あと俺たちは余所者なんだ、怖がらせるんじゃないぞ」シフは催促しておく。

 「ふふん、言われるまでも無い」スィラージがそろそろと近付く。その近付き方が既に怪しい。

 「……あんた誰?」少女は早速警戒して原稿を手で隠す。

 「サ◯トが眼を覚ますと可愛い少女がサ◯トの顔を覗き込んでいたーー!」かますぜ! ◯の使い魔オープニングを!

 残念ながら少女には通じない。不審者を見る視線がスィラージの邪心を焼く。

 スィラージが無駄に爽やかに笑う「……やあ、こんにちわ! 良い天気だね!」

 シフは遠くから応援する「頑張れスィラージ! アニメエリートの本気を見せてやれ!」

 「黙れ小僧!」コホン「俺も漫画描いていたんだよ。だから、その、気になってね」

 「あたしは別に漫画が好きなわけじゃない。こんな足してるから」

 「漫画書くのも悪くない。俺は楽しかったぞ」

 「あたしはそんなに楽しくないの。それであんたは誰?」手からはみ出している絵は、技術的にはさておき、かなり高密度の書き込みが窺える。

 「俺はスィラージ。旅人だ。ここにはキノコ料理を食べにやってきた。こう見えても昔、アレクサンドリアの厨二館に持ち込みしたこともあるんだぜ?」

 「そう」

 「しばらくこの村にいるかもしれないから、漫画出来たら読ませてくれよ」

 「はあ、そんな完成させるつもりもない、暇つぶしなんだけど」

 「それにしちゃ、かなりの書き込みだぜ?」

 「そ、それは、教会のお姉さんに教えてもらったから、試しにやってるだけ」恥ずかしそう。

 「別に恥ずかしいことじゃない。書くのは楽しいよな」

 「もうあっち行って」

 「ファイトだ! お前はやればできる子だ!」

 「はいはい」少女は嫌そうな顔をした。



 戻ってきたスィラージにルシールが話しかける「あんた基本デリカシー無いよね。わかってたけど」

 「最近の子は難しいなあ」

 「全く、行動を起こす時は、もう少し様子を見てからにしなさい」

 「残念だったな、お前さんの愛が届かなくて」シフは慰める。

 「カス野郎が」

 「さ、あっちだっぺ。近道だっぺよ」先導する爺が藪の中に入っていく。

 「ところでデリカシーって何?」スィラージが尋ねる。

 シフは即答「なんだ知らんのか。前進する意思のことだ。相手が嫌がろうが知ったことか! がぶりよれ! 全軍突撃! パンツァーフォー! そんな心構えを言うんだよ。お前の心の辞書に書いておくと良い」

 「それは違う」ネタとわかっていてもルシールは指摘する。

 「きゃ♪」

 「やれやれ」

 歩いていくと墓地の隣に出た。墓地を掃除する若い修道女が遠くに見えた。濃紺のトゥニカ(ゆったりとしたワンピース)に濃紺のウィンプル(裾の長い頭巾)という出で立ち。ルシールは知らないが何かの宗教の衣装だ。こちらを見たので会釈する。年齢は20代前半か。一目見て美人だとわかる端正な顔立ち。銀色のプラチナブロンドが少しだけウィンプルからはみ出している。清楚な雰囲気だ。爺と仲良しなのか手を振っている。

 「戦闘力26000キュン(※1)」スィラージが即座に戦闘力を計測する。

 「ほう、なかなか高いな」

 ルシールは意味不明「まったく、なんのことやら」

 「気にしたら負けだ」ガボルアが慰める。

 「そうね」ルシールがもう一度修道女を見ると向こうもこちらを見ていた。数秒視線が絡み合う。彼女は何かを知っている、そう感じた。それでも嫌な感触ではない、かな。



 村長の家は、村では少ない2階建ての大きな建物だった。周辺には畑が広がり人参、カブ、ネギなど植えられている。その畑の真ん中で村長とおぼしき麦わら帽子の老人が草むしりをしていた。暑くはないが日差しが強い。

 傷だらけの爺が声を張る「おーい! ケンちゃんよぉ! お客さんだっぺぇよ!」

 立ち上がって村長も喚く「あ~ん、あんだってぇ? よっちゃん! もう一回!」

 「だがらお客さんだっぺぇよぉ!」

 「なるほど! わがったわがった、OK牧場!」

 「耳が遠いのが! このバガチンが! だがらお客さんが来でんだっぺ!」

 「そうかあ! なるほどわがっだぁ!」

 「はあん? 馬鹿言うな! わしはブリーフ派だっぺ!」

 シフはぽつりと言った「終わりが無いな」

 スィラージが要約する「終わりが無いのが終わり。それがレクイエムだ」

 ガボルアは既に話を聞いておらず、畑の野菜を品定めするような眼差しで眺めている。

 犬が遠吠えを始めた。

 ルシールは立ったまま軽く瞑想して魔力の充填を図った。



 「というわけでオラが村長だ。よく来たな、旅人さん」普通にきちんとしている。日焼けして皺だらけの顔。

 シフは戸惑う「ええと、こんにちわ」

 「はい、こんにちわ」それからまた身の上話だ。どこから来てどこへ行くのか。シフは話を膨らませるが上手い。

 「はっはっは、なるほど、そりゃまた遠くから来たのお。で、村にしばらく滞在できないか、という話だの?」

 「そうです。7日ほど泊めてもらいたく。それで、できたら働きたくて。何か仕事は無いかな、と」

 「宿屋は無いが旅人は歓迎する習わしじゃ。うちに泊まれば良いじゃろう。ふむ、仕事と言っても、あんたら何ができるんじゃ?」

 シフは言葉を選んで答える「……キノコ採取。多分、大抵のキノコがわかると思う」相棒がアニメエリートなら、シフはベルドゥラルタ商会の誇るキノコエリートである。

 スィラージがビシッと挙手「炊事洗濯、子供の世話から漫画の描き方指導まで。あと、おすすめアニメ情報のお知らせも。大抵のことはそこそこできるかな」

 「俺は傭兵だ」ガボルアが槍を見せる。

 「なるほどの」あまり乗り気ではなさそう。

 ルシールが躊躇いつつも小さく手を挙げる「あたしライトヒール(治癒魔法)使えるよ」

 「おお、ヒール使えるのか、ありがたい」魔法に対して特別な感情は無いらしい。

 「それだけでも充分だが、他のもやるか?」

 シフは言う「何もせずゴロゴロしてるってのは、どうも性に合わなくて」

 「わかった。探しておこう。だけんど明日一日くらいは休んでおけよ。娘さん、けが人や病人が知ってるだけでも2、30人は居るから頼んで良いかい?」

 「良いけど、ヒールは自己治癒力の瞬間強化だから、それだけじゃ治らないものもあるからね」

 「ああ、助からない奴は助からない。わかっておるよ」村長が静かに言った。こんな山奥の村なのに珍しく理解がある。




 【※1 キュン】異性の魅力を表す数的単位。奇才スィラージによる造語。

シフ「好きだ! 愛してる! だからポイントをくれ!」

ルシール「やれやれ」

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