買い物とプレゼント
リアナは採取の旅に行くための準備に勤しんでいた。
素材を買いアイテムを作っては売ることを繰り返していたので、ちょっとしたお金は貯まった。この調子ならあっという間に入学準備金も返せそうである。
錬金術師はエリートと言われるだけあってかなり稼げることがわかった。とはいっても、やっぱりアイテムに必要な素材をすべて買わないといけないので、それなりにお金がかかる。
リアナは安くて素材ランクの低いものを買っているので、当然出来上がるアイテムもランクが低い。
リアナが使う素材のランクはEランクかDランクである。一度奮発してCランクの素材を買って、どうしても欲しかったアイテムを作ったのだが、あっけなく失敗した。
灰色に染まったアイテムを見たときの絶望感は忘れられない。
リアナは授業で初めてアイテムを作ってから調合に失敗したことがなかったので、少し調子にのっていた。
素材ランクが上がるにつれて調合の難易度が上がるのは知っていたが、もしかしたら今の自分でも作れるのではないかという過信から大枚を失った。
まだまだ貧乏なリアナにとってそれは手痛い失敗となった。まあ、そのおかげで地道にコツコツと腕を上げていく大切さに気づけたのだが。
リアナがどうしても作りたかったアイテムとはゲームでよく出てくるアイテムボックスである。この世界では収納袋という名前で親しまれている。貴族や商人には必須のアイテムでランクが上がるにつれて入れることが出来る個数や重量も増えていく。
Aランクともなると無限にはいるらしい。道具屋の主人によると、王族が国宝として一つだけ持っているようだ。
本当はCランクの収納袋を作りたかったが、妥協して代わりにDランクの収納袋を作る事にする。
Eランクだと十、Dランクは三十、Cランクは百、Bランクは千種類まで入れることが出来る。もちろんランクといってもBランクに近いCランクとDランクに近いCランクでは全く入る量が全く違う。
リアナの作った収納袋はD+++でCランクに近かったので八十種類のものを収容できる。一種類につき九十九個まで入れることができるのでかなりの量といえよう。
リアナは気づいていなかったが、Cランクのアイテムを作れると一流の錬金術師で教師のほとんどがそれである。
B級アイテムを作れるものは数えるほどしかいない超一流の錬金術師として広く名前が知られている。
A級になるともうレジェンドである。
昔はいたらしいが、今はいない。だからこそ、A級アイテムは国宝とされ王族によってほとんどが大切に保管されている。
前世は廃人とまではいかないが、同世代の女性と比べるとゲーマーであったリアナは、無意識のうちにアイテムに対するランクの認識が人と異なっていた。
リアナはゲームのようにやり込むほどレベルアップして高ランクのアイテムも作れるだろうと思っている。事実、リアナの調合の腕はメキメキと上がっていた。
同じ素材を使っても品質に+(プラス)がつくようになり高い値段で買ってもらえるようになった。
リアナは周りとの感覚のずれや自分の非常識さを思い知ることになるが、今はまだ気づいていなかった。
「さあ行きますわよ! リアナにユイリー!」
アデリーヌが弾んだ声で話しかける。
リアナの隠し事がばれてから、三人は話し合って同じ選択授業を受けるときは曜日が重なるようにお互いのスケジュールを調整した。
もちろん属性や興味のある授業も違うのでべったり三人一緒というわけではないが。
午後の授業が終わったのでこれから三人で明日からの採取に向けて旅に必要なものを買いに行く予定である。
日帰りでなく一泊採取地で泊まるので野営の準備も必要だ。
リアナの足取りは軽い。
採取が目的で外にはモンスターがいいて危険がある事はわかっているが、なんだか友達とちょっとした旅行に行くようでわくわくしていた。
それに、作ったアイテムがどのくらい効果があるのか早く試したかった。
「必要なものといえばまずは食料じゃないかな」
「そうですわね、食材店に行きましょうか」
ユイリーの提案にアデリーヌが頷いた。
リアナ一人だけ歩幅が違うのでちょこまかと足を動かしながら必死でついていこうと小走りになる。
「ユイリー、あなた早く歩きすぎですわ! ああ、リアナ! ごめんなさいね、気づかなくて。こんなに息を切らして!」そう言ってリアナの顔をのぞき込んだ。
「ハアハア……。だ、大丈夫だよ! 気にしないで!」
「ごめんよ、リアナ。君と足のリーチが違うことを忘れていたよ」
ユイリーは眉を八の字に下げて謝罪の言葉を口にしたが、リアナとしては足のリーチという言い方より身長が違うからと言って欲しかった。
「もう! ユイリーったらレディの歩く速さに合わせるのはエスコートをする紳士として常識ですわ!」
アデリーヌの言い様はまるで社交パーティにいるかのようだったが、三人はただ買い出しに来ているだけである。
ちょっと違うのではと思ったが口には出さず、ユイリーは次から気をつけるよ、と言っただけであった。
毎晩アデリーヌの相談を強制的に受けさされた甲斐があって彼女の扱い方がわかってきていた。
食材屋で三人が買ったのは、定番の堅いパンと干し肉であった。それに加えてアデリーヌは果物を干したものをいくつか買っていた。食後のデザートに食べるらしい。
アデリーヌは特にオランジュという橙色の果物が好きなようだ。さっぱりとした甘酸っぱい味で何個でもお腹に入るらしい。
リアナも興味をそそられたが、書かれている値段を見て諦めた。一袋に六粒ほど入っていて百二十バル。高すぎである。
アデリーヌは貴族らしいお金の使い方で気に入ったものをポンポンと籠に入れている。
「あれ、確かその野菜は生では食べることは出来ないはずだよ」
ユイリーがリアナの籠を覗きながら言う。
「うん、知っているよ。私はアデリーヌみたいに干した果物を買う余裕なんてないし、かといってパンと干し肉だけでは味気ないから簡単なスープでも作ろうと思って」
「えっ!? リアナ料理作れるのかい?」
「すごいですわ!」
リアナが料理を作れることに吃驚する二人にリアナの方が驚いた。
リアナは二日分のパンと干し肉、数種類の野菜、塩、胡椒、そしてハーブを買う。買った野菜はどれも村にいたときに食べたことがあるものばかりで味はわかっているが、ハーブだけは臭いで決めた。食欲をそそるスパイシーな香りはスープに合うことを予感させるのに十分だった。
胡椒がちょっと高かったが、それでも全部合わせて六十バルである。アデリーヌが買った干しオランジュの小袋の半分の値段である。
リアナはお金を払い、買ったものを収納袋へと入れる。
「あれ、収納袋買ったのかい?」
「あら、本当ですわ!」
二人が驚いたのも無理はない。
収納袋は空間属性の者しか作れず、空間属性を持つ者の数は他の属性と比べて少ない。
火属性、水属性、風属性、土属性、氷属性、雷属性、闇属性、光属性、空間属性、時属性の順番で右にいくほど希少性が増していく。
よって収納袋の値段も高価である。少なくてもリアナが気軽に買える値段ではない。だから、リアナの経済状況を知っている二人は目を丸くした。
「実はこれ作ったの。買うと高いし、どうしても欲しかったから」
「ええっ!! リアナがこれを! って、空間属性も持っているのかい?」
「す、すごいですわ! さすがリアナ!」
ユイリーは信じられないと言った様子で唖然としていた。アデリーヌは大きな瞳を輝かせて興奮が抑えきれない様子だった。
二人には道具屋で売ったアイテム属性の四種類である火属性、水属性、闇属性、光属性を持っている事を話した。その時にあまりにも彼らが驚いていたのでリアナはあと二つ属性を持っている事を言いそびれていた。
なので、これ幸いと空間属性と時属性を持っていることもついでに話す。
もう、驚きすぎて言葉も出ないといった様子の二人に、変わらずに友達でいてくれた感謝の気持ちを込めたあるアイテムをプレゼントとして渡す。
そう、収納袋である。
「ユイリーはまだ収納袋を持っていないって言っていたよね? だからちょうどいいと思って。友達でいてくれてありがとう。そしてこれからも友達でいてください」
そう言って手渡す。
「ぼ、僕に!? すごくうれしいよ、本当にありがとう。僕のほうこそリアナと友達でいたいよ」
ユイリーは手渡されたアイテムをまるで壊れ物でも扱うかのように触れ、しみじみと見つめる。そして深い親愛のこもった声でリアナへと言葉を返した。
「アデリーヌが収納袋を持っているのは知っているのだけれど、収納袋ならいくらあっても邪魔にならないからいいかなって思って。も、もちろん、いらないなら誰かにあげるなり売るなりしてくれていいよ。売ればちょっとしたお金になると思うし。」
リアナはアデリーヌが俯いて顔をあげないままでいるので、もしかしたら他のアイテムの方がよかったかもと思い慌てて言葉を付け加える。
「売らないし、あげません! これはリアナが私にくれたものですもの! 私だけのものですわ!」
叫ぶように言ったアデリーヌの顔にはうっすらと涙が光っていた。
「こんなに素敵なプレゼントありがとう。本当にうれしいわ」
リアナはアデリーヌの感動具合に照れながら、感謝の言葉を口に出す。
「わたしと友達でいてくれてありがとう。そしてこれからも友達でいてください」
「もちろんですわ!」そう言って無邪気な笑顔をリアナに向けた。
その後も、三人は買い物を続けた。アデリーヌはアマデオに何が必要か予め聞いていたようで、大変頼りになった。
リアナはもちろんのことユイリーもアデリーヌもリアナが作った収納袋に買ったものを入れていた。
リアナはそれを見て胸が温かくなり、作ってよかったと心から思った。




