第10話 名乗りの儀
古着屋の奥の鏡の前で、伊吹は腕を組んでいた。
「嫌」
「まだ何も言ってないよ」
「顔に書いてある。その白いひらひらしたやつ、私に着せようとしてるでしょ」
透は手に持っていた白いワンピースを、そっと棚に戻した。裾に細かな刺繍が入っていて、袖がふわりと広がっている。いかにも聖女候補が着ていそうな服だった。
「印象って大事なんだよ。今日は八人の候補が並んで、王都中の人がそれを見に来るんだ。最初に見た顔で、人はだいたいその人を決めちゃうから」
「だからって、そんなの着たら蹴れないでしょ」
「名乗りの儀で誰を蹴るつもりなの」
「蹴られそうになったときの話よ」
店のおかみさんが二人のやりとりを聞いて吹き出した。恰幅のいい、腕の太い人だった。
「お嬢ちゃん、選定の見物じゃなくて、候補さんの側かい。そりゃ大変だ。こっちの紺のはどうだい。丈夫だし、裾が割れてるから足も上がるよ」
差し出されたのは膝下まである紺色の上着と、細身のズボンと、使い込まれた革の長靴だった。伊吹は上着を体に当ててみて、一度だけ足を振り上げた。裾はちゃんと割れて、どこにも引っかからなかった。
「これにします」
「伊吹、せめて色だけでも」
「これにします」
透は諦めたように笑って、財布を出した。昨日の金貨を一枚崩すと、おかみさんは目を丸くして、それから急に愛想がよくなった。釣りの銀貨を数えながら、聞いてもいないことを喋り始める。
「いやね、近ごろは金貨を見ることなんて、とんとなくってさ。先代の聖女様がお亡くなりになってから、大きな商いの誓約がみんな止まっちまってるんだよ。うちの布だって南の商会から入れてるんだけど、向こうとの誓約が立てられないもんだから、値ばっかり上がってね」
「大きな約束は、聖女様の神前じゃないと本物にならないって、こっちの連れに聞きました」
伊吹が言うと、おかみさんは透を見て目を丸くした。
「おや、物知りの兄さんだね。そうなのさ。新しい聖女様が決まるまで、大きな商いはみんな宙ぶらりん。南の商会は値を上げる一方で、こっちは布一反買うのにも頭を抱えてる。お祭りだなんだって浮かれてるのは、上の人たちだけさ」
おかみさんは銀貨を透の手に握らせながら、声を少し落とした。
「誓いを破った国の話も、聞いたかい」
「東の国が灯ごと消えたって」
「そうそう。うちの祖母さんはね、その夜、東の空が一晩じゅう真っ黒に見えたって言ってたよ。月も星も見えないくらい。朝になったら、東から来る荷馬車が一台も来なくなってたって。だから王都の人間は、誓いってものを馬鹿にしないのさ」
それからおかみさんは伊吹の顔をしげしげと眺めて、少しだけ気の毒そうに笑った。
「お嬢ちゃん、もし本当に聖女様になったら大変だよ。聖女様はね、一生嘘がつけないんだ。ご自分がずっと神前の中にいなさるからね。ちょっとした世辞も、気休めも、一言も言えなくなる」
「別に困りませんけど」
伊吹は即答した。おかみさんは「頼もしいねえ」と笑った。
店を出るとき、伊吹はふと隣を見た。透は釣りの銀貨を財布にしまいながら、黙って前を向いていた。何か言いたそうな顔に見えたが、結局何も言わなかった。
大聖堂の前の広場は人で埋め尽くされていた。
屋台が並び、楽隊が笛を鳴らし、子どもたちが人の足の間を駆け回っている。広場の端に大きな板が立てかけてあって、その前に一番の人だかりができていた。板には八つの枠が描かれていて、それぞれに名前と数字が書き込まれている。
「賭け札だね。誰が聖女になるか、王都の人たちが賭けてるんだ」
透が一番上の枠を指さした。
「本命はセレスティア。大神官の推薦で、名門の神官家のお嬢さんらしい。二番手はヴァルディアの王女。で、ここ」
透は一番下の枠を指さした。名前の欄が空白のまま、隅に小さく「ルーヴェ」とだけ書いてある。その横の数字はほかのどの枠よりも桁が多かった。
「候補が降りたって噂が広まってたから、名前も入ってない。大穴中の大穴だよ」
伊吹はしばらくその空白を見ていた。それから懐に手を入れて、自分の分としてもらった銀貨を全部掴み出した。
「全部、ルーヴェに賭けて」
「伊吹」
「いいから。どうせ負けたら、お金なんて持ってても意味ないでしょ」
透は伊吹の手の中の銀貨と、伊吹の顔を見比べた。それから小さく笑って、自分の財布からも銀貨を一枚足した。
「じゃあ、俺も」
賭け札の受付の男は空白の枠に賭ける物好きを見て目を丸くしていた。大聖堂の中は外の喧騒が嘘のように静かだった。
見上げるほど高い天井に、色硝子の窓から光が差し込んでいる。正面の祭壇には大人の背丈ほどもある大灯が燃えていて、その前に古びた石の水瓶が一つ置かれていた。両脇の観覧席には着飾った貴族や各国の使節がずらりと並んでいる。
候補の控えの入口には細長い机が一つ置かれていた。名簿を広げた神官の前に、各国の使いが順番に並んでいる。伊吹たちが列の最後につくと、後ろから聞き覚えのある声がした。
「イブキ様! トオル殿!」
振り向くと、ルーヴェの司祭が法衣の裾を両手でたくし上げて、人混みをかき分けてくるところだった。白い髭が汗で頬に張りついている。二人の前までたどり着くと、膝に手をついて肩で息をした。
「司祭さん? なんでここに」
「名乗りの儀には、候補の国の者が一人立ち会うしきたりでございまして。お屋敷から、夜明け前の乗合馬車に飛び乗ってまいりました。いやはや、間に合ってようございました」
司祭は息を整えながら、伊吹の頭から長靴の先までをまじまじと眺めた。
「そのお召し物は、王都でお求めに? お二人とも、ご無事で何よりでございます。お渡しした銀貨一枚では、とうに宿代も尽きておられるのではと、道々ずっと気が気でなく」
「尽きかけましたけど、透が増やしました」
「増やした……とは?」
「話すと長くなるので、あとで」
透が苦笑いしながら割って入った。それから司祭の後ろの人混みに目をやった。
「司祭さん、ウィレムさんは一緒じゃないんですか」
司祭の顔がわずかに曇った。
「ウィレム殿は、お屋敷に残られました。人の多いところは好まれぬと仰せで。名乗りは見届けずともよい、結果だけを知らせよ、と」
伊吹は胸の奥がひやりとするのを感じた。結果だけ。負ければどうなるか分かっていて、あの男はそう言ったのだろうか。
列が進んで伊吹たちの番が来た。司祭が一歩前に出て深々と頭を下げる。
「ルーヴェの司祭にございます。ルーヴェの候補、ナルミイブキ様の名乗りを、お願いいたしたく」
「ルーヴェ、でございますか」
受付の神官は名簿をめくりながら、面倒くさそうに眉を寄せた。
「ルーヴェの候補は降りられたと伺っておりますが。今ごろになって別の方とは、ずいぶん急なお話ですな。控えの席も、もう八つ目は片づけてしまいましたので」
「そ、それは承知しております。ですが、名乗りの締め切りは本日の正午の鐘と。事情がございまして、どうしても」
「事情、ですか。候補を降りた国が、どこの誰とも知れぬ娘を代わりに立てる事情とは、さて、どのようなものでしょうな」
神官は司祭のほうを見もせずに、名簿を閉じようとした。司祭がおろおろと手を伸ばす。その手が神官の袖に触れかけて、ぴしゃりと払われた。司祭は払われた手を胸に抱えるようにして、それでも頭を下げたままだった。
伊吹は一歩前に出た。
「失礼ですが」
自分でも驚くくらい丁寧な声が出た。バイト先で理不尽な客の相手をするときと同じ話し方だった。
「名乗りの締め切りは、今日の正午の鐘だと伺っています。まだ鐘は鳴っていませんよね。席を片づけたのはそちらのご都合ですので、もう一度出していただけますか。それと、うちの司祭様は今あなたに頭を下げてお願いしていたんですが、手を払う必要はありましたか」
「な、なんですか、あなたは」
「ですから、ルーヴェの候補の、鳴海伊吹です。名簿に書いてください。今すぐに」
神官は顔を赤くして口を開きかけた。そのとき観覧席のほうから大きな笑い声が響いた。
振り向くと、最前列の柵にもたれかかった若い男が、腹を抱えて笑っていた。仕立てのいい黒い上着に、無造作に流した栗色の髪。笑い方に遠慮というものがまるでない。周りの貴族たちが眉をひそめても、男は気にした様子もなかった。
「いや、すまない。あんまり見事だったものでね。神官殿、その娘の言うとおりだ。鐘はまだ鳴っていない。名簿に書いて差し上げたらどうだ」
神官はその男の顔を見るなり青くなって、慌ててペンを取った。男は柵越しに伊吹を見下ろして、片目をつむった。
「聖女らしくない聖女候補か。気に入った」
「はあ」
伊吹は気の抜けた返事をした。誰だか知らないが、とりあえず助かった。軽く頭を下げて控えの間に入ると、隣で透が珍しく不機嫌そうな顔をしていた。
「今の、ヴァルディアの第二王子だよ。アルフォンス殿下。妹の応援に来てるって、賭け札の前で誰かが言ってた」
「へえ。いい人だったね」
「どうかな」
「何、その顔」
「別に」
透の瞬きが一度だけ止まった。伊吹は少し考えて、それから思わず口の端が上がるのを感じた。昨日、祠で自分が言われたことを、そっくりそのまま返してやりたくなった。
「透、もしかして、やきもち?」
「違うよ」
今度は瞬きが止まらなかった。伊吹はつまらなくなって前を向いた。
控えの間にはもう七人の候補が揃っていた。正午の鐘が鳴ると、祭壇の奥の扉が開いて、白い法衣の老人がゆっくりと現れた。
髪も髭も真っ白で、背は少し曲がっている。歩みは遅いのに、老人が一歩進むごとに大聖堂の人々が姿勢を正していった。観覧席の貴族たちが一斉に頭を下げる。
大神官だと誰に言われなくても分かった。
大神官は祭壇の前に立つと、候補たちを一人ずつ、ゆっくりと見渡した。穏やかな目だった。それなのに大神官がこちらを見たとき、伊吹は胸の奥をそっと覗かれたような気がした。
「よくぞお集まりくださいました、灯を継ぐ方々」
しわがれた、柔らかい声だった。
「これより、選定の試練を始めさせていただきとう存じます。試練は聖女を選ぶためだけのものではなく、聖女を育てるためのものでもある。古い記録にはそう記されておるようです。試練を一つ越えるごとに、皆さまの灯は少しずつ形を得てゆくのでしょう」
大神官は祭壇の脇に並ぶ小さなランタンに目をやった。
「そして試練の順位は、決着の夜の灯油となりましょう。どうか、そのことを心に留めておかれますよう」
意味はよく分からなかった。ただ透が隣で小さく息を吸ったのが聞こえた。大事なことを言われたのだと、それで分かった。
名乗りの儀が始まった。
候補は一人ずつ祭壇の前に進み、石の水瓶に右手を浸して、自分の名を名乗る。初代の聖女が使ったという水瓶だった。名乗った候補の手の甲には光る印が浮かび、祭壇の大灯から小さな火が二つ、ふわりと飛んで、その候補のランタンに移る。そのたびに観覧席から拍手が起こった。
最初に進み出たのは淡い金の髪の少女だった。
「大聖堂の候補、セレスティア」
伊吹は思わず身を乗り出した。施療院で軟膏をくれた、あの少女だった。今日は白い法衣をまとって、微笑みは相変わらず完璧で、それなのに目だけが少しも笑っていなかった。観覧席の神官たちがひときわ大きな拍手を送った。大神官がほんの少しだけ目を細めた。
二人目は乗馬服の少女だった。
「ヴァルディアの候補、イングリット」
背筋の伸びたその姿を見て、隣で透が小さく頭を抱えた。
「王女さまだったんだ、あの子」
「昨日、俺、けっこう失礼なこと言ってないよね」
「知らない。楽しそうに喋ってたじゃない」
イングリットの後ろに控えていた白髪の老人が、控えの間の前を通るとき、透に気づいて足を止めた。
「おや、先日は、どうも」
老人は穏やかに会釈しかけて、そこでふと眉を寄せた。
「はて。どちらでお目にかかりましたかな」
「グレゴール」
イングリットが振り返らずに言った。声は静かだったが、どこか張りつめていた。
「先日の祠です。風の中で、蝋燭の火を見ていた方」
「ああ、そうでした、そうでした。年を取ると、どうも忘れがちになってしまって」
老人は照れたように笑って、イングリットの後を追っていった。透はその背中を、少しのあいだ黙って見送っていた。
候補たちが次々に名乗っていった。
「メルクールの候補、リコリス」
赤い髪を高く結い上げた少女が観覧席に向かって愛想よく手を振った。リコリスは名乗りながら、さりげなく候補全員の顔と服を見比べていた。値段を値踏みしているようだった。
「シュタール家のアデーレ」
短く刈った金髪に、銀の甲冑。剣の柄に手を置いたまま、まっすぐ前だけを見て名乗った。騎士みたいな人だ、と伊吹は思った。後ろに寡黙そうな従士が一人控えている。
「蓮州の候補、白蓮」
東方の衣をまとった、細い肩の少女だった。目を閉じたまま、隣に立つ少年の腕に軽く手を添えている。目が見えないのかもしれない。少年は無表情に、けれど一歩も離れずに少女に付き添っていた。
「森の国の候補、シルヴィ」
小柄な少女の肩の上で、小さな光の玉がくるくると回っていた。精霊だろうか。シルヴィは光の玉に何か小声で話しかけながら、くすくす笑っていた。
そしてもう一人。
「伊吹。今の子、見た?」
「え?」
透に袖を引かれて、伊吹は祭壇のほうを見直した。ちょうど一人の少女が名乗りを終えて下がっていくところだった。鼠色の鳥打ち帽を目深にかぶっていて、下ろした手の指の上で、銅貨が一枚くるりと回るのが見えた。そこまでは見えた。でも名前が出てこなかった。たった今、名乗るのを聞いていたはずなのに。
「王都の候補、ノラ。今、ちゃんと名乗ってたよ」
「ノラ」
口の中で繰り返してみても、顔がうまく思い浮かばない。どこかで会ったような気がする。あの銅貨の回し方には見覚えがあった。昨日、ボルクの台の前で、輪の外に立っていた誰かのような気もした。
「最後に、ルーヴェの候補を」
神官の声に呼ばれて、伊吹は祭壇の前に進み出た。
観覧席がざわついた。降りたはずのルーヴェの候補だ。しかも見たこともない顔の、髪を一つに束ねた、紺の上着に長靴の娘だった。伊吹はそのざわめきを背中で聞きながら、石の水瓶の前に立った。
水は冷たかった。
右手を手首まで浸すと、指先から何かが流れ込んでくるような感覚があった。伊吹は顔を上げて、大聖堂の天井に向かって、はっきりと名乗った。
「ルーヴェの候補、鳴海伊吹」
手の甲が熱くなった。水から引き上げると、そこに光る印が浮かび上がっていた。九枚の花弁が輪になって開き、その真ん中で、小さな炎が二つ寄り添うように揺れている。ほかの候補たちと同じ印だった。
祭壇の大灯から火が飛んだ。一つだけだった。
小さな火は伊吹のランタンの一つにふわりと移って、そこで止まった。もう一つのランタンは空のまま暗く沈んでいた。伊吹はしばらく待った。二つ目の火はいつまでたっても飛んでこなかった。
観覧席のざわめきがどよめきに変わった。
「一つだけだと」
「神がお認めにならなかったのか」
「やはり、降りた国の代わりなど」
控えの間の端で、司祭が真っ青になって膝をつきかけていた。伊吹は自分のランタンを見下ろした。一つだけ灯った小さな火は何事もなかったように揺れていた。ランタンを持つ指先がすうっと冷たくなっていった。
さっきの受付の神官が待っていたとばかりに進み出た。
「大神官様。ランタンが一つしか灯らぬ候補など、前例がございません。神の御心にかなわぬ方を選定に加えるのは、いかがなものかと。この者の名乗りは、なかったことにされるのがよろしいかと存じます」
観覧席から、そうだ、という声がいくつも上がった。伊吹は顔を上げた。
「待ってください!」
伊吹の声が大聖堂に響いた。ざわめきが一瞬で静まった。伊吹は神官ではなく、祭壇の前の大神官をまっすぐに見ていた。
「灯りましたよね。一つでも、ちゃんと灯りました。この印だって、ほかの人たちと同じです。名乗りの儀って、名乗って印が出て灯が移れば候補なんですよね。だったら私は候補です。二つ灯らなかったから駄目だなんて、どこかに書いてあるんですか。書いてあるなら、今ここで見せてください」
「無礼な! 大神官様に向かって」
「無礼なのは分かってます。でもここで黙ったら、私は帰れないんです!」
拳を握っていた。手の甲の印が熱かった。帰れない、と口にした瞬間、喉の奥が詰まりそうになった。弟が待っている。母さんが待っている。こんなところで、一つしか灯らなかったからというだけで、全部を取り上げられてたまるものか。
大神官は長いあいだ伊吹を見ていた。それからほんのわずかに口元を緩めた。
「灯は灯でございましょう」
静まり返った大聖堂に、しわがれた声が響いた。
「一つであっても、神の御前で移った火を、人の手で消すことはできぬのでしょう。名乗りは成ったものと思われます。ルーヴェの候補、ナルミイブキ殿。選定の列に、お加わりなさいませ」
神官が何か言いかけて、大神官に目で制されて口を閉じた。観覧席はまだざわついていたが、もう誰も声を上げなかった。伊吹は大きく息を吐いて、深く頭を下げた。膝が少しだけ震えていた。
控えの間に戻ると、透がランタンを受け取ってくれた。一つだけ灯った火を、透はしばらく黙って見つめていた。
「ごめん。勝手に熱くなった」
「ううん。今のは伊吹が言わなきゃいけなかった」
透は伊吹の手の甲の印に目を落とした。九枚の花弁の真ん中で、二つの炎が寄り添っている。片方のランタンにしか灯らなかったのに、印の炎は二つある。透はその二つの炎を、一瞬だけじっと見つめた。
「透?」
「何でもない。よく通したね。あそこで黙ってたら、本当に名前を消されてた」
透はいつもの顔に戻って笑った。
儀が終わり、候補たちが一人ずつ控えの間を出ていく。伊吹もランタンを抱えて立ち上がった。そのとき背中に誰かの視線を感じた。
振り向くと、祭壇の前に大神官が立っていた。ほかの候補たちが去っていくのには目もくれず、皺の奥の目をわずかに細めて、伊吹と透の二人だけをじっと見つめていた。




