第9話:地下迷宮1層「翠緑の回廊」へ! お散歩ロケダンジョン編
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聖女ルミア様と女騎士シルヴィア様の甘々修羅場を乗り越え、いよいよ地下迷宮への初遠征へ出撃するミナト!
しかし、戦闘力ゼロの男子高校生が挑むダンジョン探索は、血生臭い死線ではなく「快適なお散歩ロケ」だった!?
現代の快適グッズと美味しいおやつで、凶暴なはずの魔物たちを手懐けていく前代未聞のピクニック探索をお楽しみください!
(※遠く離れた東部樹海で、怪電波を受信してしまった魔女が登場します!)
王都の中央広場から北西へ進んだ小高い丘の麓に、その巨大な洞窟の入り口はぽっかりと口を開けていた。
苔むした古代の石造アーチ。
そこから地下へと続く薄暗い石段からは、ひんやりとした冷気と、かすかな魔力の匂いが漂っている。
王都直下型ダンジョン――地下迷宮『星屑の回廊』の入り口である。
「よし、全員装備の確認はいいか?」
大盾を背負い直したブルーノが、兜の下から真剣な眼差しを向けた。
「第一層『翠緑の回廊』は浅層とはいえ、迷宮は迷宮だ。何が起こるか分からねぇ。フィン、先行して罠と魔物の索敵。ミナトは俺たちの真ん中から絶対に離れるなよ」
「了解だぜ、リーダー!」
フィンも腰の二本の短剣を確かめ、いつになく引き締まった表情を浮かべている。
二人のプロ冒険者らしい緊張感に、俺も小さく頷いた。
「分かりました、よろしくお願いします! ……あ、その前にこれ、どうぞ」
俺は背負い袋のサイドポケットから、天界通販で取り寄せておいた【携帯用アロマ虫除けスプレー】を取り出した。
シューーーッ、と二人の首筋や甲冑の隙間に惜しげもなく吹き付ける。
「ぶふっ!? な、なんだミナト、急に霧を吹きかけて!?」
「地下迷宮って湿気が多くて、羽虫がたくさん出るって聞いたので。これ、天然ハッカと柑橘の香りで虫を完全にシャットアウトしてくれるスプレーです。ほら、スーッとして涼しくないですか?」
ブルーノがパチクリと瞬きをした。
「お……? おお……!? 確かに、鎧の中にこもってた嫌な汗の熱気が引いて、めちゃくちゃ清々しい香りがするぞ……!?」
「すげぇ! いつも迷宮に入った瞬間、顔の周りにまとわりついてくる鬱陶しい小虫が、一匹も寄ってこねぇ!」
フィンが感動の声を上げる。
さらに俺は、首にかけるタイプの【ポータブル充電式静音ネックファン】を二人の首元にカチリとセットしてやった。
微風が首元を冷やす。
「うおおおおっ!? 首から涼しい風が吹き続けてやがる!!」
「ミナト、お前……探索前から快適度を限界突破させてどうするんだよ!?」
「ふふん、快適な環境作りこそが、良いロケと美味い飯の基本ですからね!」
俺は胸ポケットに神具スマホを収め、天界への生配信をオンにした。
タイトルは【戦闘力ゼロの男子高校生が往く! 地下迷宮お散歩ロケ第1弾】。
【主神アルト】:迷宮探索なのに首掛け扇風機で草ァ!ww
【愛の女神フィリア】:あらあら、重装備の冒険者様たちがとても涼しげで可愛らしいですわ!
【豊穣神デメトラ】:少年、洞窟の中に美味そうなキノコや木の実があったらすぐに教えるのだぞ!
神々の賑やかなコメントが流れる中、俺たちは石段を下り、第一層へと足を踏み入れた。
◇
第一層『翠緑の回廊』は、石造りの通路の壁一面に淡く光る青緑色の苔――『燐光苔』がびっしりと群生しており、松明がなくても薄明るく視界が保たれていた。
天井からはツタが垂れ下がり、まるで幻想的な地下庭園のようだ。
「くふふ、ミナト、妾が案内してやるのじゃ!」
俺の肩の上で、子狐姿のコハクが七色の尻尾を揺らした。
ポンッ!と淡い光に包まれると、手のひらサイズの子狐から、ピンと耳を立てた愛らしい【豆柴風の子犬】へと姿を変える。
「わふっ! こっちの通路は行き止まりじゃが、向こうの右手の通路に綺麗な湧き水と、美味しそうな果実の匂いがするのじゃ!」
「よし、コハクの案内に従おう」
「おいおい……魔道犬の索敵精度、俺の斥候スキルより高ぇんじゃねぇか……?」
フィンが苦笑いを浮かべながらついてくる。
コハクの神がかった探知能力のおかげで、落とし穴や毒針の罠はすべて完全に回避。
俺たちはまるで、休日の森林公園を散策しているかのような優雅さで歩みを進めていた。
だが――曲がり角を抜けた広間で、ついに「それ」が現れた。
ピチャ……ピチャ……。
湿った足音とともに、岩陰から三体の青白い塊がプルプルと震えながら這い出てきた。
大人の頭ほどの大きさがある半透明の粘液生物――迷宮の定番モンスター『ブルースライム』だ。
「出たな、スライムだ!」
ブルーノが瞬時にタワーシールドを構え、筋骨隆々の腕で青銅の長剣を抜こうとする。
「ミナト、下がってろ! スライムの酸は服を溶かす、俺が一撃で核を叩き割――」
「あ、ブルーノさん待ってください! 剣を抜かないで!」
「えっ!? だ、だが魔物だぞ!?」
俺はブルーノの腕をそっと押し留めると、背負い袋のポケットから小さな銀色のパウチを取り出した。
天界通販で取り寄せた【果汁100%・ぶどう味の吸うフルーツゼリー】と【高純度ブドウ糖タブレット】だ。
「スライムって、要するに魔力と水分と糖分を求めて彷徨ってる生物ですよね?」
「は、はぁ……!? 何を言ってるんだお前は!?」
混乱するブルーノをよそに、俺はパウチのフタをキュッと開けると、平らな岩の上にぷるんとした紫色のぶどうゼリーを絞り出し、その上にブドウ糖タブレットをパラパラと砕いて乗せてあげた。
ふわぁんと広がる、濃厚で甘酸っぱい芳醇なぶどうの香り。
プルンッ……!?
三体のスライムがビクッと体を震わせた。
透明な体を激しく波打たせ、まるで獲物を見つけた子犬のように、猛烈なスピードでペタペタと岩の上へ突進してくる。
「危ねぇミナトッ!」
フィンが叫んだが――
チュパ……ジュルルルルッ……!
スライムたちは俺に目もくれず、岩の上のぶどうゼリーに飛びついた。
半透明の青い体に紫色のゼリーが包み込まれ、溶け込んでいく。
甘味とブドウ糖を吸収したスライムたちは、
『ピきゅぅぅぅ〜〜〜〜ん……♡』
と、可愛らしい鳴き声を上げながら、綺麗なエメラルドグリーンからほんのりピンク色へと発光し始めた!
体を限界まで平べったく弛緩させ、俺の靴の爪先にすり寄ってきて、猫のようにぷるぷると震えている。
「……手懐けちまったぁぁぁぁぁっ!?」
ブルーノが盾を抱えたまま、顎が外れそうなほど口を開けた。
「スライムが……あの凶暴な酸を吐くスライムが、ただの甘味で骨抜きにされてやがる……!?」
「よしよし、美味しかったか? あっちで仲良く遊んでるんだぞ」
俺が指先でつついてやると、スライムたちはご機嫌そうに跳ねながら、通路の奥へとトテトテと去っていった。
【主神アルト】:スライム餌付け完了ワロタwwww
【豊穣神デメトラ】:ぶどうゼリーの甘味に魔物も勝てんか! 見事な手腕だ少年!
【愛の女神フィリア】:あら〜♡ ピンク色に染まるスライムさん、とってもキュートですわ!
「……ミナト」
呆然としていたフィンが、俺の両肩をガシッと掴んできた。
「お前、本当に戦闘力ゼロなのか……? 魔導士でも手こずるスライムをお菓子一つで無力化するなんて……お前がいると、迷宮の法則が全部ぶっ壊れるぜ!」
「あはは、平和が一番ですからね」
その後も、通路を塞いでいた『モフモフ角ウサギ』に天界通販の【乾燥野菜スナック】をあげてブラッシングし、画面の端でゴロゴロ喉を鳴らすペットに変えながら進むこと二時間。
俺たちは汗一つかかず、傷一つ負うこともなく、第一層の最深部に存在する【安全地帯・碧水晶の広場】へとあっさり到達してしまった。
中央には清らかな水が湧き出る泉があり、巨大な水晶が天井から淡い光を放っている。
「信じられねぇ……いつもなら丸一日かかって、満身創痍で辿り着く安全地帯に、ピクニック気分で着いちまった……」
ブルーノが泉のほとりに腰を下ろし、感極まったように溜め息をついた。
「よし! それじゃあブルーノさん、フィン! お待ちかねのキャンプ飯を作りましょうか!」
俺がリュックを下ろすと、子犬から元の姿に戻ったコハクが「豚汁じゃな! 豚汁の時間じゃな!」と尻尾を振って飛び跳ねた。
――その頃。
王都から遠く東に離れた、鬱蒼たる木々が生い茂る秘境『静寂の古代樹海』。
木漏れ日に隠された洋館のアトリエで、一人の美女が息を呑んでいた。
紫色の魔女ローブを纏い、濡れ羽色の黒髪と豊かな胸元を持つ美女――魔女エレナ・ローゼンバーグである。
「……な、何なのですか、この不可思議な魔力波の映像は……!?」
研究机の上に置かれた自作の水晶球に、迷宮を歩くミナトたちの姿と、天界の神々のコメントが鮮明に映し出されていた。
「制服を着た少年が……お菓子で魔物を手懐け、ニコニコと微笑んでいる……?
あ、あの少年、とても優しそう……あんな温かい手で優しく頭を撫でてもらったら、どんなに心地よいかしら……はぅっ♡
……い、いけませんわ! 私としたことが、見ず知らずの年下の殿方に破廉恥な妄想を……!
でも……この空間転移のような未知の魔導波、研究者として絶対に見過ごせませんわ……!」
恋人いない歴=年齢の純情魔女は、一人で顔を真っ赤に染めながら、食い入るように水晶球を見つめ続けていたのだった――。
第9話をお読みいただきありがとうございました!
次回――第10話はスパチャで仕込んだ日本の合わせ生味噌が、ダンジョンの冷えた体を芯から温め尽くします!
そして、豚汁の凄まじい匂いに釣られて、あの巨大な「迷宮の主」が……!?
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